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第243話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)16

 ガキィン! ドゴオオォォッ! ガキンガキンガキイィィィン!


 そんな音が鳴り響く中――

 ラフィニアは少し真っ直ぐ進んで、レオーネとリーゼロッテが神竜の尾を解体している現場に辿り着いた。


 レオーネの黒い大剣の魔印武具(アーティファクト)は大きさを操る事が出来、神竜の肉を切り出すのに一番向いている。

 そのため、尾を狩りに行く時以外は、レオーネは毎日ほぼ専属で肉を切り出す作業を行っているのだった。


 リーゼロッテもレオーネと同じで、肉を切る作業を主に行っている。

 彼女の魔印武具(アーティファクト)斧槍(ハルバード)の斧頭も肉切りには向いているし、奇蹟(ギフト)の力で飛べるため、普通なら手の届かない所の肉を簡単に切り落とすことが出来、こちらも作業に向いている。


 ラフィニアは今日のように集落への食糧輸送を手伝うのを除けば、レオーネが切った神竜の肉を干し肉や燻製にして、長期保存が出来るように加工する作業を主に行っていた。

 味見もつまみ食いも好きなだけ出来るので、ラフィニアにとっては楽しい作業だ。

 肉を干して乾かすのにもリーゼロッテの飛行能力が有用なため、リーゼロッテはラフィニアの作業も手伝ってくれる。


 ラティ配下の騎士達は、村や街への食糧配給や、この野営地を本格的な集落化するための土木工事を主に行っている。プラムは主にこの後者の作業を中心に行い、時折干し肉作りにも顔を出してくれる。


 ここに野営地を置いたのは成り行きだが、ここを中心にリックレアの復興が進んでいく事になりそうである。


「レオーネ、リーゼロッテ! お疲れ様、調子はどう?」


 ラフィニアは作業中の二人に声をかける。

 ここは雪深く、当然気温も低く寒いのだが――二人はそんな中でも汗を滲ませながら作業をしていた。


「あ、ラフィニア。お帰りなさい、見ての通りまだまだよ――」

「わたくし達が肉を切り出す速度よりも、溜まって行く速度の方が早いですからね――」


 レオーネ達が作業中の神竜の尾の他に、更にもう一本同じ尾が横たわっているのだ。

 神竜の肉といえどもあまり長く放置していると腐ってしまうだろうし、早く切り出して周辺に配るなり、干し肉や燻製の保存用に加工してしまわないといけない。


「大丈夫? クリスにも手伝わせようか?」

「いや、大丈夫よ。これもいい訓練だし、イングリスはイングリスで何かやっているみたいだし――」

「それにだんだんコツが掴めてきたのか、捌くのも早くなってきましたのよ」


 神竜の肉は極上の肉質で極めて美味なのは間違いないが――

 肉を切り出す時は、余りにも弾力があって並みの刃が通らない。

 焼くと一気に柔らかくなり、極上の味わいとなるのだが。

 そのためレオーネとリーゼロッテの魔印武具(アーティファクト)を以てしても、結構な重労働となっているのだ。訓練になるのは、それはそれでいい事なのだが。


「取り合えず、明日配る分の肉を持って行かせて貰うわね」

「ええ――他の人達も取りに来てたわ」

「あちらに積んであるものから運んで下さいね――わたくし達もお手伝いしましょうか」

「あ、大丈夫よ。クリスを呼んで来て手伝って貰うから、二人はそのまま続けてて」


 ラフィニアはそう言い残して、一人でイングリスを呼びに向かう。

 レオーネ達の作業場から、更に野営地の中心から離れた林の中だ。


 ガキィン! ドゴオオォォッ! ガキンガキンガキイィィィン!


 そちらに近づくたびに、音が大きく強く響いてくる。


 ガンガンガンガンッ! ドゴゴゴゴォォッ! ガイイィィンッ!


「う、うるさいわねー……」


 耳が痛くなる。


 ガガガガガガガガッ! ドゴンドゴンドゴンドゴンッ!


 イングリスの姿は、林の中に突如ぽっかりと空いたクレーターの中にあった。

 足元にあるものに向かって、猛烈な勢いで拳を振り下ろしている最中である。


 野営地中に響いていた騒音は、イングリスの拳が硬質なそれを叩いている音だった。

 深く崩れてクレーター化した地面は、その衝撃がなせる業だった。


「クリース! ちょっとストップストップ! こっち手伝ってくれるー!?」


 ラフィニアが呼びかけると、イングリスはぴたりと動きを止める。


「あ、ラニ。お帰り」


 環境破壊の主は、ラフィニアを見てにこりとする。

 それがクレーターの中心で拳を振り上げている姿勢でなければ――

 幻想的にまで美しい微笑みだっただろう。


「どこも怪我とかしてない? 何か怖い思いとかしなかった?」


 そして、とても心配そうな顔をする。

 それがクレーターの中心で拳を振り上げている姿勢でなければ――

 と再びラフィニアは思った。


 そんな事ばかりしているから、飛び抜けて可愛いがやる事がぶっ飛び過ぎている、などと言われてしまうのだ。

 こんな轟音を立て続けているので、この野営地にいる者達は皆一度は何事かと様子を見に来て、イングリスの行為に度肝を抜かれるという経験をしている。

 今では慣れてきて、ああまたやっているなと聞き流しているのだが――


「大丈夫よ。心配性なんだからクリスは――それよりまた穴大きくなってるじゃない。あんまり自然破壊し過ぎるのは良くないわよ……? 後で埋めるの大変でしょ?」

「う……で、でもこうなっちゃうのは仕方ないって言うか――思いっきり叩かないと形変えられないし――」

「それって今やる必要あるの――?」

「多分ね。そのうち役に立つ時が来るよ?」


 イングリスは足元に横たわっていた細長いものを掴み上げてそう言う。

 じゃらりと音を立て、歪だが細長く伸びるそれは――元は神竜の尾だったものだ。


 正確にはレオーネとリーゼロッテが、断面から肉を全て切り出した後の抜け殻――表皮の竜鱗の部分だ。

 イングリスはフフェイルベインの竜鱗の現地加工に挑戦していたのだ。


 その製法は見た目上、全力の拳で殴りつけるという原始的極まりないものである。

 しかし、この場のどんな道具や魔印武具(アーティファクト)よりも、霊素殻(エーテルシェル)を発動したイングリスの拳の方が固いのも事実である。

 つまりこれは原始的なように見えて最も合理的なのだ。


「ま、まあいいけど程々にね――? それより明日配りに行くお肉をこれから機甲親鳥(フライギアポート)に積むのよ。手伝ってくれる?」

「うん。分かった――それが終わったら晩御飯にしようよ」

「そうね。今日もいっぱい食べるわよ……!」

「お肉は美味しいし、いくら食べても無くならないし、最高だね」

「そうよね! 雪を食べてた時に比べたら大違いだわ! 飽きるまでずっとこのままがいいわね~」

「それじゃあじゃあずっとここにいる事になるかも知れないよ? あのお肉本当に美味し過ぎて、ずっと飽きないかも知れないから」

「あははっ。言えてるわね~。ああ、話してるとお腹空いてきちゃった! 早く仕事を済ませて、晩御飯にするわよ!」

「うん。そうだね、ラニ」


 だがそのすぐ翌日――ラフィニアの言う『ずっとこのまま』は打ち砕かれ、イングリスの言った、『そのうち役に立つ時』がやって来るのだった――

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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