第242話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)15
確かにプラムが一緒に行くことによって、住民達の感情がラティ王子への感謝よりもハリムの血族への恨みの方向に向かう事はあり得る。
プラムの家は、このアルカードの大臣を務める家柄だ。
地位も名誉もあり、それだけにこういう場合の反動も大きい。
だから余計な波風を立てないためには、プラムの選択は間違いではない。
イングリスはそう解説してくれたし、レオーネも理解できなくは無いと言っていた。
プラムがラティのためを思えば、そうなるのは仕方がない――と。
「ねえプラム、明日はプラムが機甲親鳥で行ってみたら? どんな様子か気になるでしょ?」
「い、いえ……気にはなるんですけど、私が行って余計な混乱が起きたらいけませんから――ごめんなさい、ラフィニアちゃん。わたしはここに残って、出来る事をします」
「そう――」
「それがよかろうかと思います、プラム殿。今はラティ王子の名の下に、周辺地域の民心を掴む大事な時期――受けた傷を思い起こさせるよりも、前を向いて進む背中を押すことのみを考えた方がよいかと――」
近くを歩くルーインの耳にも入っていたようで、プラムに向けて諭すように言う。
「はい――」
プラムは殊勝にそう頷く。
「…………」
ひょっとして、プラムはルーインに言い包められていて、居残りを続けるのは本意ではないのかも知れない。
だとしたら文句の一つも言ってやらねば、とラフィニアは思うのだが――
「プラム殿。我等が生きてリックレアを出られたのは、貴女が命懸けでハリムに食い下がり、処刑を止めて下さったおかげ――命の恩人にございます。本当に感謝しています」
「い、いえそんな――」
「……直接あなたに救って頂いた我々は、ハリムと貴女が違う事は重々理解してございます。しかし残念ながら、住民達はそうではない――もう少し彼らの傷が癒えて、物事を冷静に見られる余裕が出来てから、あなたの声とお気持ちを彼らに届けてあげて下さい。それが出来る環境を、ラティ王子が作り出して下さいます。我々も微力を尽くしますゆえ、どうかご辛抱を――」
「はい……ありがとうございます」
プラムは微笑を浮かべて応じる。
「…………」
今度のラフィニアの沈黙は、悪い意味ではなかった。
ルーインはルーインで、プラムの事を十分に考えてくれているらしい。
その気持ちは今、感じ取る事が出来た。だったら、特に文句を挟む余地はない。
「そうだぜ……! 俺達が何とかする――して見せるから、安心してろよ」
ラティがプラムの肩をぽんと叩く。
「はい、ラティ。ありがとうございます」
「…………」
これに関しては、ラフィニアとしては一言あった。
ずっとこのままが続けば、プラムにとってはいたたまれなくて辛いはず――
それを取り払ってあげられる一番の人間は、やはりラティのはずだ。
以前ラティは自分が王になって、プラムをお后様にして守るとラフィニア達の前で宣言していた。
今すぐそうしろなどと無茶を言うつもりは無いが、そうするつもりだという事をプラムに早く伝えてあげればいいのに――とラフィニアは思っている。
そうすればプラムも辛くても希望を持って頑張れるだろうし、ラフィニアも気持ちよく手助けする事が出来るのだが――
こういう事をラフィニア達がプラムに教えるのも流石に憚られるし、やきもきする。
「――ダメね、30点だわ……」
「はぁ……!? な、何がだよ――?」
イングリスはラティはまだ具体的にならない事を約束してプラムをぬか喜びさせたくないだけで、そのうち時間が解決するから心配ないと言っていたが――
ラフィニアとしては、そういうつもりだという事を聞かせてくれるだけで、プラムの気持ちは全然変わってくると思うのだ。絶対そうした方がいいと思う。
そうでなくても、もう少し不安がっているプラムに何かしてあげてもいいだろう。
今のままでは普段と変わらない。もう少し踏み込んだ何かを見せて頂きたい。
「もうちょっとなんかあるでしょって事よ……!」
言って、ラフィニアは直接行動に出た。
ラティとプラムの手を取って、強引に繋がせたのだ。
「「……!」」
「よしまあこれで70点くらい――?」
「な、何を……!?」
「ら、ラフィニアちゃん……!?」
「積み込みはあたしがやっといてあげるから、ちょっと気晴らしにその辺散歩でもしてきなさいよ。二人ともずっと働いて疲れてるだろうから、息抜きも必要よ? でも、そのままでね! 手離しちゃだめだから! ほら、さっさと行って行って! じゃないと明日から手伝わないからね?」
言ってラフィニアは、プラムとラティを脇道の方へと押し出した。
「わ、分かったよ仕方ねえな……ほら行くぞ、プラム」
「は、はい――ラティ」
二人はおずおずと遠慮がちに、散歩道を歩き出して行った。
ここの所中々二人きりになる時間も無かっただろうし、この機会にラティの心の内をプラムに伝えてしまって欲しいが――
まあそうはならないにしても、二人にとって悪いことにはならないだろう。
ルーインも特に反対ではないようで、黙って二人を見送っていた。
「……よし、こっちはちゃっちゃと明日の分、運んじゃいましょ!」
「ああ、そうしよう――」
ラフィニアの提案に、ルーインは微笑みながら頷いた。
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