第241話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)14
そして、五日程が過ぎて――
「よし、着陸するぞ――」
空が茜色に染まりかけた、夕暮れ時――
機甲親鳥を操舵するラティはそう言って、船体を広場に着地させる。この数日で野営地の周囲はすっきかり切り開かれて整地され、着地する場所には事欠かない程になっていた。
そこでは皆それぞれの仕事に勤しんで、忙しそうに動き回っている。
ガキィン! ドゴオオォォッ! ガキンガキンガキイィィィン!
出所は見えないが、遠くからそんな賑やかな音も聞こえる。
「よーし、皆お疲れさん。最後に明日運ぶ分を積み込んで、今日は終わりにしようぜ」
「ははっ、ラティ王子! 皆聞いたな? すぐに取り掛かるぞ――!」
「はいっ!」
「分かりました!」
「お任せください!」
ラティがの呼びかけを受けて、ルーインが号令。
リックレアに囚われていた騎士達――今はもう王子ラティ直属の騎士隊と言った方が正しいかも知れないが、彼等は溌溂とした笑顔で応じる。
機甲親鳥と機甲鳥で周辺地域の人々に神竜の肉を配って回ると、皆とても喜んで、感謝をしてくれる。更にラティ王子が自ら食料を運んで来てくれた事が分かると、感激して涙する者もいた。
そういう光景を目にして来た事が、騎士達の充実感に繋がり表情に現れているのだ。
「今日もレオーネちゃんが肉を切っててくれてるんだよな?」
「あの子可愛いよな、ご苦労様って声かけてくれるし。よし俺が一番に顔見に行くぜ!」
「俺はリーゼロッテちゃんがお嬢様お嬢様してていいなあ」
「それを言うなら、やっぱイングリスちゃんが一番可愛いと思うがなあ。みんな可愛いけど、頭一つ突き抜けてるって言うか――」
「そりゃそうなんだが……あの子のやってる事が頭一つどころかぶっ飛び過ぎてて――」
「そうなんだよな。ほんと信じられないくらい可愛いんだけど、常人の理解の範疇を超え過ぎてて――」
「そうそう。レオーネちゃん達はまだ理解可能な範囲にいてくれるからな」
などと言いあいながら、騎士達は明日分の積荷を回収しに降りて行く。
それを見ながら――船上にいたラフィニアは少々不満顔である。
操舵自体はラティにも可能だが、機甲親鳥の動力源は魔印を介して魔素を注入する必要がある。
その供給役は、今日はラフィニアが務めていたのだ。
「わ、悪いな。変な話が聞こえちまって……皆遠慮が無くてさ――」
「今は君が近くにいるから名を出すのが憚られるだけで、普段は出ているんだ――気分を害さないでくれ」
「いやそれはそうだけど、そういう問題でもねえだろルーイン」
「は、はあ……? 済みません王子」
そんなラティとルーインのやり取りを聞いて、ラフィニアははあとため息をつく。
「そうじゃないわ。本当ならこの役はあたしじゃないって事よ。分かってるでしょ?」
「ん? あ、ああ……分かってるよ――」
別に協力する事が嫌なわけではないのだが、役割としては違うとラフィニアは思う。
ラティが前面に出て、周辺地域への支援を行うのは皆が合意の上だ。
そうする事によって住民達の信望がラティに集まり、その名声が政治的な力となる。
イングリスも言っていたが、こちらは前面に出ることは望まないので、手柄と名声はラティに取ってもらう方が助かる。だからそれはいい。
機甲親鳥の動力源として手助けするのも別に構わない。
今日は街や村を巡って、住民の皆が喜ぶ顔が見られて嬉しかった。
虹の王と思しき魔石獣や、天恵武姫のティファニエによって刻まれた傷は深いけれども、皆がラティを中心に力を一つにして、これからは前に進んでいく事が出来るだろう。そう思う事が出来たのは良かった。
だが――喜んでばかりいられない事もある。
「お帰りなさい、皆さん! 街の様子はどうでしたか?」
「あっ。プラム――うん、ただいま。みんな喜んでくれたわよ!」
「そうですか良かったです……! 今から明日の分を積むんですよね? 私も手伝いますね!」
「うん、じゃあ行きましょ!」
当人が目の前に現れてしまったため、それ以上は言えなくなってしまったが、ラフィニアの言いたかった事はプラムに関してだ。
本来なら、今日ラフィニアが行っていたような役回りはプラムが行うのが自然だろう。
プラムはアルカードの出身なのだから、ラフィニア達が前面に出るよりいい。
だが――プラムの兄ハリムの事がある。
ハリムはアルカードの貴族であり有能な行政官であったようだが、ティファニエに心酔し天上人となり、その片腕としてこの地域を蹂躙した。
その事があるため、住民達に合わせる顔が無いと言い、プラムは集落の救助には出ずにこちらの陣地に残って諸々の作業を手伝っている状態だった。
ラフィニアとしては、それを気にするなとは言えないが――
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