第235話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)8
「いい? まず見ててね――」
イングリスはそう言うと、リックレアの窪んだ跡地にそそり立つ神竜の尾に向け、右手を突き出した。
見る見るうちに、その掌の先に青白い輝きが巨大な光弾となって収束する。
「え……!? あ、ちょ、ちょっと待ってクリス……!」
その光景を見たラフィニアが声を上げるが――
――霊素弾!
イングリスは構わず、凝縮した霊素の塊を解き放つ。
ズゴオオオオォォォォォッ!
「きゃあああぁぁぁっ!? そ、そんなの撃ったら竜のお肉が吹っ飛んで跡形も無くなっちゃうでしょ!」
ラフィニアが悲鳴を上げ、イングリスの首元を掴んでがくがく揺さぶる。
「お、落ち着いて……! く、苦しいから……! だ、大丈夫だよラニ……!」
「え?」
「ほら、見てて――」
ギャリイイイイイィィィィッ!
神竜の尾を直撃した霊素弾は、大きく軋んだような音を立てる。分厚い竜鱗との間で、威力と耐久力のせめぎ合いが暫く続いて――
バヂイイィィィィィンッ!
やがて光弾が反射して、明後日の方向へ飛んで消えて行く。
「――ね? 大丈夫でしょ?」
竜鱗自体は少し傷ついて、わずかに中の肉が露出しているような部分も見える。
しかし形としては健在だ。軽傷程度と言えるだろう。
先程の、霊素殻を発動しての打撃を加えた時の手応えで、こうなる事は予測できていた。
「な……!? クリスのあれを弾くなんて――!?」
しかも――
「お。幻影竜が……!?」
多数の幻影竜が霊素弾の着弾した箇所に集まって行き――
その部分に吸い込まれるようにして姿を消す。
そうすると、見る見るうちに傷が復元し、元通りになって行った。
「すごい回復力だね……!」
幻影竜は竜の気が生み出す亜生物。
それが収束する事で、本体の回復力が高まり傷の治癒力がさらに増すのだ。
まだフフェイルベイン自体は眠っているようだが、本能的な反応なのだろう。
「あれじゃすぐ傷が無くなっちゃうわね……!」
「ね? 凄いよね? 強いよね? 見ててわくわくしてくるよ……!」
「はは……わくわくしてる場合なのかなあ――?」
ラフィニアが呆れて嘆息する。
「そ、そうですよ! イングリスちゃんのあの必殺技が効かないなんて、そんなのが起き出したら大変な事になりませんか……!?」
プラムはかなり深刻に、目の前の現象を受け止めている様子だった。
「そ、そうだぜ……! や、やばいんじゃねえか――!?」
ラティも同じく。
霊素弾が弾かれた事がかなり衝撃だった様子だ。
「……やばいの? クリス?」
「いや、そうは言ってないけど――?」
「そうよね? 本当にそうだったら、もっと血相を変えてあたしの事守ろうとしてくれるしね~クリスは。この間のティファニエの時みたいにね?」
「もちろんだよ。わたしはラニの従騎士なんだから」
「ふふっ。あの時ちょっと怖いって思ったけど、でもそれだけ真剣なんだって思ったら嬉しかったわよ?」
「どういたしまして」
ラフィニアの微笑みに、イングリスも微笑みを返す。
「で、あの時と違って今は余裕っぽいし、大丈夫かなってあたしの推測!」
「ははは……自慢気に言う事かな――?」
「それに、イングリスにはまだあれより上の技もあるものね……?」
「そうですわね。リップル様の時に現れた、虹の王を一撃で消滅させた、あの技――桁違いの威力でしたもの」
ラフィニアだけではなく、レオーネとリーゼロッテもそこまで焦りの色を見せてはいない。彼女達はイングリスが霊素壊を放つ所を見ている。
だからまだ上があると分かっている分、落ち着いていられるのだ。
あの時プラムとラティは、セオドア特使の元に急ぎの使いに出ていて、居合わせていなかった。
「それがちょっと問題でね――」
「「「?」」」
皆が一斉に、首を捻る。
「というわけで、皆に協力して欲しいんだよ。あのね――」
と、イングリスはラフィニア達に腹案を伝え始める。
暫くして――
「いい? もう一回確認……わたしが――で、それから――こうで、こうで……」
「うんうん――! おっけー分かったわ……!」
イングリスが説明した手順に、ラフィニアはこくこくと頷く。
「ええ。理解はできたわ――やってみましょう」
「確かにうまく行けば、一気に食料を調達できますものね」
「あれだけのデカさだもんな――一体何人前になるのかって感じだよな」
「やりましょう……! わ、私も頑張りますっ!」
レオーネ、リーゼロッテ、ラティにプラムも異論は無いようだ。
「よし、じゃああたし達はこっちね。レオーネ、プラム!」
ラフィニアが星のお姫様号に乗り込んで、二人の名を呼ぶ。
今回はラフィニアとレオーネとプラムで星のお姫様号を三人乗りしてもらう。
操縦桿はレオーネが握り、その後ろの左右にラフィニアとプラムが付いた。
勿論理由があってのことで、今回はこれが一番適正である。
操縦の技術的には運転手にラティを付けたい所だが、基本三人乗りまでの機甲鳥なので、そこは仕方がない。
もう一機別の機甲鳥の操縦桿をラティが握り、そこにイングリスとリーゼロッテが搭乗した。
空になった一機は、ひとまずこの場に待機だ。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『イングリスちゃん!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!




