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第232話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)5

「じゃあ、行ってみるね?」

「クリスの事だから、あれと戦えないのは逆に残念なんじゃない?」

「いや、それは大丈夫。後で着替えてまたくれば襲って貰えるだろうし」

「あはは……結局やる気なんだ――」

「無限に戦える敵って最高だよね? いい所にいいもの見つけちゃったなあ♪」

「いや、そんな美味しいお店見つけたとか、可愛い服見つけたみたいな感じで言われましても……」


 ラフィニアが大きく大きくため息をつく。


「いやいやいや、メチャクチャ厄介だからどっかに駆除して欲しいんだが――」


 単に呆れているラフィニアと違い、ラティは深刻そうだった。


「うん。じゃあわたしが連れて帰っていい?」

「ああ全然いいぞ。そんなの好きにしてくれ」

「こらクリス! あんなの飼えるわけないでしょ! 王都でもユミルでも、連れて帰った所が無茶苦茶になるでしょうがっ!」


 ぎゅううぅぅぅっ!


 ラフィニアに耳を引っ張られる。


「あいたたたた……わ、分かってる、分かってるよ――そういう事は起きないように考えるから……! でも、倒すのは惜しいけど、神竜自体はどこか別の場所に移した方がいいのは確かなんだよ――? アルカードが寒いのって、多分あれがあそこに埋まってたせいだから……」

「えええぇっ……!? そんな気候も変えるくらいのあれなのか、あいつは……!?」

「持っている力の大きさを考えると、あり得る話だよ。実際に移してみたら分かるよ? 多分今より暖かくなるから」


 少し濁しはしたが、実際前世の時代に、神竜によって寒冷化させられた土地の様子も目の当たりにしたことがある。

 だから、今言ったことはほぼ確実である。


「って事は、寒くて土地が痩せてるから満足に作物が育たなかったのが無くなる――ってわけか……!?」

「じゃあじゃあ、作物が沢山取れるようになって、天上領(ハイランド)に献上する余裕も殆ど無かったのが、それが出来るようになるって事ですよね……!? 強い魔印武具(アーティファクト)を沢山下賜して貰ったり、エリスさんやリップルさんみたいにちゃんと国を守ってくれる天恵武姫(ハイラル・メナス)にも来てもらえたら――」


 イングリスの言葉を信じたラティとプラムは、そう声を弾ませる。


「もうリックレアが魔石獣に襲われて崩壊したみたいな事は――」

「起こらない。起こさせない……! 少なくともその手段は確保できるという事ですね……!」


 リックレアの街は、今でこそ跡地は見る影もなく、巨大な大穴とそこに突き出した神竜の尾が残るのみだが、元々は魔石獣の被害により一度崩壊している。

 それにより、アルカード王はこれまでの国の方針を変え、魔石獣からの防衛力を高めようと考えた。


 しかし天上領(ハイランド)からこれまでより強力な魔印武具(アーティファクト)天恵武姫(ハイラル・メナス)を得たいと思っても、引き換えに献上する物資は足りない。


 そこで天上領(ハイランド)側の軍の幹部――大戦将(アークロード)のイーベルの提案に乗り、ヴェネフィク軍の動きに合わせて、同時にイングリス達の国カーラリアを攻撃するという作戦に手を貸す事になる。背に腹は代えられぬ、というわけだ。

 だがその作戦が未遂のまま、カーラリア王宮に直接乗り込んで来たイーベルは、血鉄鎖旅団の首領である黒仮面の手によって討ち取られた。


 その後、イーベルの後任としてアルカードにやって来た天恵武姫(ハイラル・メナス)のティファニエは、各地から食料を奪う略奪を繰り返し、崩壊したリックレアの街を監獄化。そこに設置された『浮遊魔法陣』を起動し、土地の地盤ごとリックレアを天上領(ハイランド)に持ち去って行った。


 それが、これまでの経緯である。

 そもそもの発端は、強力な魔石獣がリックレアを崩壊させたこと。

 それに対抗するために防衛力を高めるのは確かに必要な事だろう。

 だがそのための方法が、真っ当なものではないのは確かだ。


 そこに、アルカードの国土の気候が変わり、作物が今までより豊かになればどうだろうか? カーラリアとの戦争に手を貸すような手法ではなく、真っ当に天上領(ハイランド)と取引をすれば済む話になるのだ。

 これは、アルカードの抱える問題を根本的に解決する変化である。


「だったら絶対にそうするべきよね……! カーラリアに攻め入ったりしなくても良くなるんだから――!」

「そうね。ラフィニアの言う通りだわ。根本的な問題解決になり得る――!」

「希望が見えてきましたわね!」


 今回の一連の経緯でアルカードは天上領(ハイランド)の教主連合とは関係が切れてしまうかもしれないが、三大公派ならば取引に応じてくれるだろう。

 というよりも、セオドア特使ならば――と言った方がいいかも知れないが。

 そうなると、ラフィニアがますますセオドア特使に好感を持ってしまいそうなのは懸念事項ではある。


「……まあその前に、やる事はやらないとだけどね――」


 イングリスは一度バシッと拳を掌に打ちつけ、たむろする幻影竜達に向けて一歩を踏み出した。


「……た、食べる気ね――」

「あたし達だけじゃなくて、みんなでね?」

「その前に、自分が満足行くまで戦わせるおつもりでは――?」


 そう言うラフィニア達を振り返り、イングリスはニコッと笑顔を見せる。


「――全部かな?」

「あははは……だったら一言くらい謝ってからの方がいいわね、絶対」


 ラフィニアが乾いた笑みを浮かべる。


「ええ――まとめると、とんでもなく酷い目に遭わせるぞ。って事だものね……」


 レオーネもそれに頷いていた。


「冷静に文字にして考えると、何が正しくて間違っているのか分からなくなりますわね」


 リーゼロッテはうーんと唸っていた。


「じゃあ改めて、行ってきます」


 イングリスはすたすたと澱み無い歩調で、幻影竜達に向かって行く――

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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