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第228話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)

「でね? 胸元はちょっと開いててね、袖の所はひらひらした飾りがあって――」

「――ふんふん……こんな感じ?」

「あ、そうそう! さすがラニだね」

「そりゃあ、クリスを着飾らせるのはあたしの得意技だからね~♪」


 ラフィニアは得意そうに胸を反らす。

 今イングリスとラフィニアの二人は、船体に穴の開いた機甲親鳥(フライギアポート)の甲板の上に紙を広げて、楽しそうに話し合っていた。

 イングリスの注文に合わせて、ラフィニアが紙にペンを走らせると、ひらひらとした飾りの付いた、儀礼用のドレスのようなものが描き上がって行く。


「色は水色と白かな? 可愛いわね~。こんな所で着るには寒いと思うけどね?」

「大丈夫だよ。きっとすぐ温かくなるから」

「? どういう事? そんな魔印武具(アーティファクト)みたいな効果のある服なんて作れないわよ、あたしは」

「ん? いいからいいから、作れそう?」

「そうね。持ってきた物資は無事だったし――」


 と、ラフィニアは積み荷の大きな一つに半身を突っ込んで――


「ん……! ほらあったわ! これならクリスの言う通りの服が作れると思うわ!」


 その手には、淡い水色と白の布地が握られている。


「お……! 良かった、じゃあ早速お願い」

「おっけー! 任せなさいっ!」


 そんな二人を窘めるように、声を上げる者がいた。


「ちょっと待ってくれ君達……! 今はそんな事をして遊んでいる場合じゃ無いんじゃないか――!?」


 解放されたリックレアの生き残りの中にいた、アルカードの騎士の一人だった。

 二十代半ばほどの年齢だが、生き残りの騎士の中では彼が最も位が高く、代表格のようだ。名は確かルーインだと言っていた。


「もちろん、何か意味はあるんでしょ?」


 ラフィニアはそれを信じて疑っていない様子だ。


「え? うん一応ね――これは神竜の声を聴くための巫女装束だよ。これを着たら、神竜と交信ができるようになるらしいよ」


 らしい、とは言ったものの、前世のイングリス王が実際に見たものをラフィニアに伝えたのだ。実際前世において、神竜の巫女と名乗る女性は、あの巫女装束を纏って神竜フフェイルベインとの交信に臨んでいた。

 その衣装そのものにも、微弱な魔素(マナ)は宿っていたように思うが、それよりも神竜自体がその装束を見ると敵意を弱め、戯れにでも向こうから交信を取る気になってくれる事が大きいように思えた。

 巫女曰く神竜に若い娘の生贄を捧げ続けた事による習慣、習性だそうだ。


 そういう事であれば、形から入ればイングリスにも神竜と交信ができるはず。

 神竜と対話をし、この世界に何があったのか、ぜひとも尋ねてみたいと思うのだ。

 そしてその後は、自分を生贄と思って襲ってくれれば結構。望むところである。

 この件に関して言えば、前世の男性の体よりも、今の女性の体の方が色々と便利だ。


「え? あれと話したいの?」


 と、ラフィニアは眼下のリックレアの街跡を指差す。

 巨大な大穴が穿たれたそこには、そそり立つ巨木のような竜の尾が存在していた。

 リックレアを荒らしていた教主連合派の天恵武姫(ハイラル・メナス)――ティファニエを追い払った後、イングリス達は戦場から離れた位置に着陸させていた機甲親鳥(フライギアポート)をここまで運んできた。


 ティファニエの一撃によって損傷していたものの、応急処置を施し低速だが飛べるようには機能を回復させる事が出来た。

 取りに行って、戻ってくるまで半日程――その間、神竜の尾の様子に変化はない。


「だって食べさせてもらうんだから、いただきますくらい言った方がいいでしょ?」

「あははっ。それもそうね」

「やっぱり食べる気なのね……!」


 レオーネが改めて呆れ半分の声を上げる。


「ま、まあこの方たちですから――ですが、そんな事を仰っていますと、また……」


 とリーゼロッテの懸念した通り、アルカードの騎士ルーインは益々納得いかない様子だった。


「いやいやいや、待ってくれ……! そもそもあんなもの、すぐに動かないならば放っておけばいい。最低限の見張りだけ立てておけばいいだろう。それよりも、今すぐ王都に向かうべきだ。天恵武姫(ハイラル・メナス)を追い払った事を陛下にお伝えせねば」

「それなら、王都と国境のアルカード軍の駐屯地への使いは、機甲鳥(フライギア)をお貸しして出したはずですが?」

「いや、ラティ王子が自ら堂々の凱旋をなさるべきだ……! そうでなければ、この大いなる御手柄が――!」

「何も動こうとしなかったような日和見の者達の手によって、葬り去られる――と?」

「そうだ。私はラティ王子によって救われたこの命、王子のために捧げる覚悟……! 王子の事を考えればこそ……!」


 この騎士――ルーインの言わんとしていることも分かる。

 政権中枢でこれから起こる争いに乗り遅れてはならない、という事だ。

 本気でラティに尽くそうというのもその通りなのだろう。無論、それにより自分の立身出世も同時に果たされるというのもあるだろう。

 それは否定するような事ではない。ラティが王になるならば、必要な味方である。


 だが――まだ早い。


「いいえ、それはいけません。早過ぎます。まだ大事な事をやり残しています」


 イングリスはそう言って首を振った。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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