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第225話 15歳のイングリス・悪の天恵武姫30

「ラニ! ラティ! ここから離れて! わたしの近くにいたら危ないから!」


 警告を発するイングリスの頭の中に、ティファニエの嬉しそうな声が響く。


『ふふっ。いい事を考えました――私、これでも根に持つタイプなんですよね?』

「……!? や、止めなさい――!」


 イングリスの体が、右手をすっと前に突き出す。

 青白い激しい輝きが、先程と同じ超巨大な霊素弾(エーテルストライク)を形成して行く。


「な、何と言う輝きだ……! だが力を感じ取れない――! ど、どう言う事だ……!?」

「す、すごいわ――いつもよりすっごい大きい……!」

「こ、これがさっきこの辺を吹っ飛ばしたんだな――」


 皆呆気に取られて、イングリスの手元に収束して行く霊素(エーテル)の光を見つめている。


「見てないで早く逃げて……! 本当に危ないから――!」


 霊素(エーテル)が収束して巨大な光弾になって行く程に、イングリスの焦りは募っていく。

 ティファニエの狙いが分かるから。

 そしてそれだけは――イングリスにとってあり得ない、絶対に避けたい事だからだ。


「な、何言ってるの……?」

「そうだぜ、そんなすごい力なら――」


 しかし二人は首を捻る。


「お願いだから早くして! 身体の自由が効かないんだよ! ラニ達にこれが飛んで行くかも知れないから……っ!」

「えええぇぇっ!? 」

「よ、よし! 離れるぞ……!」


 そこにティファニエの声――


『遅いですね――! この距離でこの規模の攻撃は避けられません!』

「止めなさいと言っています! もしそれをすれば、あなたの命は無いものと思いなさい! もう二度と、一切の情けも容赦も掛けませんよ!」

『あはははっ。自分の体も自由に動かせない人の言う事なんて、聞けませんよ? それにこの一撃で、あなたも命を吸い尽くされて死ぬ……! 分かっているんですよ、あなたから流れ出る生命力がどんどん少なくなっているのが……! 如何に強がろうとも、命が尽きかけている証拠です――! さあ、自らの手で大事なお友達を手にかけ、そして自らもお逝きなさい……! その方が寂しくないでしょう? ふふふふ――――っ!』

「貴様ああぁぁぁぁぁぁっ!」


 そして、霊素弾(エーテルストライク)はイングリスの手を離れる。


 ズガゴゴゴオオオォォォォォォォ――――ッ!


 再び発射された超巨大な霊素(エーテル)の光弾は――

 再びリックレアの跡地の大穴に着弾し、巨大な光の柱を立ち上げる。

 大量の地盤が消し飛し飛んで行き、破壊痕を更に決定的に、深々と大地に刻み込んだ。


『な……!? 狙いを逸らしたというの――!? こんな短時間で、私の支配を脱しつつあると……!?』


 上がった光の柱を背景に、ティファニエの驚きの声が頭の中に響く。


「はぁ……! はぁ……!」


 だがイングリスのほうも、ぐらりと膝から崩れ落ちて、その場に両手をついて大きく息を弾ませる。


『いや、それでも――今の一撃で、あなたの命はもう尽きています……! もはや流れ出る生命力も無くなったのがその証拠……! なら――!』


 イングリスの体が、再び光に包まれる。

 先程、ティファニエがイングリスに装着する時の輝きと同じものだ。

 今度は光と共に、鎧がイングリスから離れ、人型に戻って行く。


「――!」


 鎧を纏った姿のティファニエが、イングリスの近くに現れていた。

 武器形態化を解いて、元に戻ったのだ。


「おおおぉぉっ……! ティファニエ様っ! ご無事でしたか――!」


 その姿を見て、ハリムが喜びの声を上げていた。

 ティファニエはそれには構わず、イングリスに向けて貫手を構える。


「ならば私が、止めを刺して差し上げます――!」

「! ――――はああああぁぁぁぁぁぁっ!」


 ティファニエが貫手をイングリスに突き刺す前に、イングリスは霊素殻エーテルシェルを発動し、ティファニエの間合いに踏み込んでいた。

 そして一切の手加減も容赦もなく、全力でティファニエの胴を蹴り上げた。


 バギイイイイィィィィィィィィンッ!


 今度こそティファニエの鎧が砕け、その体が天高く舞い上がる。


「あああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!?」

「おおおおおぉぉぉぉぉっ!? ティ、ティファニエ様ああぁぁぁぁぁっ!?」


 弾丸のように空に飛び出したティファニエの体は、滞空していたリックレアの街の基底部にぶち当たると反射して、イングリスが二度も抉った跡地の深い穴へと落ちた。

 イングリスは間髪入れず、ティファニエの落ちた地点へと間合いを詰める。


「う……ぅぅ――な、何故そんな力が……? あなたの命は尽きているのに――」


 流石に精魂尽き果てた様子のティファニエは、微かに呻くようにそう言った。


「それは、あなたからはそう感じられた、というだけに過ぎません」


 ティファニエは、イングリスから流れ出る生命力が止まったという事象を感じ取り、もうイングリスが力尽きたと判断した。

 これまでの天恵武姫(ハイラル・メナス)としての経験で、聖騎士が力尽きる時というのは、そういう力の流れになるものだと知っていたのだろう。

 だが今回はそうでは無かったという事だ。


 イングリスから流れ出る生命力が止まったのは、イングリスが霊素(エーテル)の力を以て天恵武姫(ハイラル・メナス)の機能に干渉し、生命力を吸い上げ放出する力を無効化したからだ。それをティファニエが誤解したに過ぎない。


 これは、血鉄鎖旅団の首領の黒仮面も行っていた事だ。

 彼がシスティアを使う時――生命力を拡散するような禍々しい力の流れは、一切無かったのだ。あれは恐らく、黒仮面がその霊素(エーテル)の技を持って、システィアの持つ天恵武姫(ハイラル・メナス)の副作用を抑え込んでいたのだ。

 シルヴァの時との違いは、そうとしか考えられない。

 だからこそシスティアは黒仮面に絶対服従で、全幅の信頼を寄せて自らの力を委ねていたのだ。

 黒仮面は、システィアをどれだけ使っても死ぬ事は無い。

 そういう使い手が存在し、その人物に必要とされるという事が、どれだけの安心感と信頼を生むのか――天恵武姫(ハイラル・メナス)にとってはまさに救いだろう。

 自分の呪われた力を、黒仮面の前では気にしなくても良いのだ。


 黒仮面が霊素(エーテル)の力でそれを為しているのなら、自分にも不可能ではないはず――霊素(エーテル)を操る技巧という意味では、イングリスは彼に劣るが、ユアと一緒に過ごした経験で、そのあたりも向上している。

 だからこそ――危険な挑戦ではあったが、ティファニエの装着を拒否しなかった。

 自分には、あの黒仮面が行っていた事と同じ技術を身につけておく必要がある。

 そのためには、いい経験だと判断した。


 ただ、アルカードに来て長く続いた節食生活による空腹のためか、自分自身の状態はいつもよりかなり落ちていたように思う。そのせいか思ったより遥かに苦戦をしたが――

 何とか最後の所で、上手く行ったというわけだ。


 天恵武姫(ハイラル・メナス)の力の真実を知る者達――

 天恵武姫(ハイラル・メナス)本人や、それを扱う事になる聖騎士――

 考え方は人それぞれあるだろうが、ラフィニアにとって一番関りがあるのは、当然兄であるラファエルの事となる。

 ラファエルは、天恵武姫(ハイラル・メナス)と聖騎士についてどう考えているのだろうか? イングリス達が騎士アカデミーに入学して王都に出て来てからも、顔を合わせる彼には一切の揺らぎが感じられない。

 レオンの事に一言の恨み言も言わず、エリスやリップルを気遣い、そしてラフィニアやイングリスを前にしては、優しく包容力のある兄の顔を見せる。


 恐らく、完全に覚悟を決めているのだ。だから一切の揺らぎ無く自然でいられる。

 天恵武姫(ハイラル・メナス)の抱える矛盾を受け入れ、例え天上領(ハイランド)に従属せざるを得ない状況を何も変えられなくとも――

 それでももし虹の王(プリズマー)が現れたのなら、それは放っておいていいものではないだろう。多くの命が失われ、多くの悲しみが生まれてしまう。

 ――ならば自分が、と。ラファエルは考えているのだろう。

 ラファエルには、幼い事からその素養はあった。

 世のため人のために、我が身を犠牲にする事を厭わない、英雄のそれだ。


 そして聖騎士という英雄が、聖騎士として散ったなら――

 遺されたラフィニアはどう思うだろう?

 辛いだろう。悲しいだろう。下手すれば一生消えない傷を心に負う事になる。

 孫娘のように可愛いラフィニアに、そんな思いをさせてはならない。

 だから天恵武姫(ハイラル・メナス)の力の真実に気が付いてからは、あの黒仮面のような技を身につけるのが、イングリスの修練の大きな命題の一つだった。


 その実践訓練は何とか生き残る事が出来たが――

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