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第224話 15歳のイングリス・悪の天恵武姫29

「イングリス!」

「イングリスさん!」


 頭上から、声が振って来る。

 見上げると、機甲鳥(フライギア)に二人乗りしたレオーネとリーゼロッテだ。

 森をなぎ倒しながらの超高速移動で、あっという間に先行した彼女達に追いついていたようだ。


「どうしたの、大丈夫!? さっきのあの光は……!?」

「それにそのお姿は――!? 倒れられていたようですれけど……!?」


 心配をする二人に、イングリスは努めて笑顔を返す。


「大丈夫だよ。心配ないから、先に行っ……て――っ!?」


 ドオオォォンッ!


 答えている最中に、イングリスの足が地を蹴っていた。

 地面がひび割れて、軋む音が鳴り響く。

 自分の意志ではなく、これもティファニエがイングリスの体を操ったのだ。


 反応し切れない程の圧倒的な勢いが再び出て――

 今度は直進ではなく、体が地面に突っ込んだ。


 そしてその勢いは、地面と衝突して止まるわけではなかった。

 地面そのものを貫通し孔を穿ち、抉り取って行く。


 ガガガガガガガガ――――ッ!


 自分の体が地中を抉って進む音が耳に響く。


「くぅ……っ!?」


 暫く地中を潜行して、地上に浮上、また潜行、浮上と地面と地下の蛇行を繰り返す。


『ふふ……どうです土の味は? それとも、もう答える余裕もないかしら……!?』

「あ、あまり気分のいいものではないですね……! 土の中は、髪が汚れてしまいますから――」

『あらあら――ですが、強がっていても分かりますよ? あなたの生命力がどんどん尽きかけて行くのが――! 呆れるほどに強大な力ですから、その分多くの生命力が削られているわけです……!』

「そうですね……! こうして過去、多くの聖騎士が亡くなって行ったのでしょう――あなたはそれを知っているからこそ、天恵武姫(ハイラル・メナス)の使命を下らないと断じていた――」


 知っているのは、勿論ティファニエだけではないだろう。

 エリスやリップルも、その事を知っているのは間違いない。


 思えば三年前、十二歳の頃――初対面のエリスは、ラファエルの血縁者であるイングリスとラフィニアを紹介したレオンに対して、怒りを見せていた。

 それは――あの時の気持ちはきっと、もしもラファエルが虹の王(プリズマー)と戦って力尽きるような事があれば、親族であるラフィニアやイングリスに合わせる顔が無いと考えていたからだ。

 だから、まるでこちらを恐れるように、逃げるように距離を取ろうとしていた。

 今思うと、あの不自然な態度も、あれはあれでエリスらしいと言える。

 繊細でかつ、不愛想なように見えて心優しいのだ。

 であるが故に、ラーアルの無法に巻き込まれるイングリスを見過ごせず、守ろうと動いてくれたのである。

 きっと今でもイングリス達と顔を合わせる度に、もしもラファエルが自分を使って亡くなるような事があれば――と、その事態を恐れ、イングリス達に対して後ろめたい気持ちになっているのだろう。

 いつも微妙に距離を取ろうとするのが、それを物語っている。


 そして、聖騎士の方もそれを知っているだろう。

 だからこそ、血鉄鎖旅団に走る前にレオンは言っていた。

 自分は仮にも聖騎士。この国や人々を護るために命捨をてる覚悟は出来ている――と。

 あれは誇張や精神論ではなく純然たる事実。聖騎士が聖騎士たる使命を、つまり襲い来る虹の王(プリズマー)を撃退するという使命を果たせば、天恵武姫(ハイラル・メナス)に命を吸われ、散らせてしまうのである。

 だからこそ、自分の使命に正義を問いたくなるのだろう。

 果たしてそこまでの価値があるのか? 自分の命が散った後に、何が残るのか? と。

 そしてそれが、天上人(ハイランダー)の好きに蹂躙され続ける、何も変わらないカーラリアだと思った時、自分の命の価値を、もっと別の物に見い出したくなったのだろう。

 たとえ残された家族が、裏切り者の一族との汚名を着る事になっても――それよりももっと大きな、大義のために――と。その気持ちは、理解できなくもない。

 それは、エリスやラファエル達にとってもそうだったのだろう。

 あの瞬間こそエリスは怒っていたが、その後恨み言を言うような気配は無いし、リップルやラファエルも一言もレオンの悪口は言わない。理解しているのだ。


 リップルに関してもそうだ。

 あの愛想のいい彼女が、シルヴァが昔リップルに命を助けられた思い出を大切にし、聖騎士を目指していると言った時に、いい顔をしなかったと言う。

 それは嬉しさよりも、シルヴァに対する申し訳なさが大きかったからだ。

 シルヴァが念願の通りに聖騎士となり、その使命を果たしてしまえば――その命は失われてしまうのだから。

 リップルからすれば、たまらないだろう。自分を慕って一生懸命に修練を重ね、聖騎士にまで成長したシルヴァの命を、自分の手で奪う羽目にもなりかねない。

 シルヴァはまだ何も知らない様子だったが――正式に聖騎士に任命される際に、それを知る事になるのだろう。リップルもそのような事を言っていた。

 天恵武姫(ハイラル・メナス)の副作用が一般に何も知らされていないのは、そんな事が広く知られても何の意味も無いからだ。

 才能ある者が聖騎士になりたがらなくなるかも知れないし、天恵武姫(ハイラル・メナス)の人々を護る女神という印象が薄れ、それを元に人心を一つに纏める事が出来なくなるかもしれない。人々を統治する側からは、明かにするべきではない情報だろう。

 恐らくそれでも――それらの矛盾を呑み込んで、シルヴァは聖騎士になる道を選びそうではあるが。それがリップルを守る事になると信じて――

 その気持ちはきっと、リップルにも伝わるだろう。

 そしてそれが故に、リップルはまた悩みを深くする事になるだろう。


天恵武姫(ハイラル・メナス)は道具……! 何も変わらない、変えられない、天上領(ハイランド)の支配を維持するためだけの存在――! ですがこの欺瞞に満ちた力も、立場を変えれば有効なものです……!』

「わたしという敵を殺すためには――ですか?」

『そう――私は負けるわけには行かない……! 天上領(ハイランド)の指揮官として成り上がり、かつてその功績ゆえに独自の所領を許された三大公のように、自由と自分の世界を得るまでは……!』

「なるほど、それがあなたの戦う理由――」

『ええ――私利私欲であろうが、ただの道具よりも意志がある分遥かに有意義……! あなたのお友達には、嫌われてしまいましたけど、ね――!』


 がくんっ!


 そこで急激に、ティファニエが操っていたイングリスの足が止まる。

 もうリックレアの街の跡地――街が飛び立った後をイングリスの霊素弾(エーテルストライク)が更に深く抉った大穴の手前まで到達していた。


「クリスっ!? その格好どうしたの!? 大丈夫――?」

「イングリス――!? この大穴開けたのもお前だろ……? いきなりどうして……!?」


 星のお姫様(スター・プリンセス)号に乗ったラフィニアとラティの声が、上から降って来る。


「その鎧はティファニエ様の――!? 貴様、ティファニエ様をどうした――!?」


 続いてハリムの声も降って来た。

 どうやらここまでやって来たラフィニアとラティを迎撃に、空に飛び立ったリックレアの街から出てきたようだ。


 ラフィニアが何かしらの危機に陥る前に追いつけたのは良かったし、目の前にいてくれれば、安心してゆっくり戦える所なのだが――

 今は不味い。まだイングリスの体は自由に動かせない状態なのだ。

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