第223話 15歳のイングリス・悪の天恵武姫28
「…………っ!?」
一瞬確実に意識を失って、地面に倒れた衝撃によって目を覚ます。
これは――確実に霊素弾を発射した故の消耗というだけではない。そもそも、イングリスの身体自体は霊素弾を一発撃っただけだ。それを天恵武姫が増幅したのである。
それだけであるならば、イングリスの負担は霊素弾一発分になるだけのはずなのだ。
『ふふ――どうですか? 苦しいですか? これが天恵武姫の真の姿ですよ? 自分の体に何が起こっているか、分かりますか?』
酷薄な口調のティファニエの言葉が、頭の中に響く。
「え、ええ……天恵武姫は、使用者の生命力と言うべき様なものを吸って――そして捨てている……」
起き上がる事が出来ないまま、イングリスはそう応じる。
『……あなた、知っていたの?』
「以前、別の天恵武姫方が武器形態化するのを見た事がありますので――」
騎士アカデミーの先輩で特級印を持つ三回生のシルヴァが、リップルを一瞬武器化していた時の事だ。
あの時リップルの黄金の銃は、ジルヴァの力を圧倒的に高めていたものの――
同時にその裏で、シルヴァの精気、生命力と言うべき様なものを吸い上げて外に放出していたのだ。
その事が、遠くからでもイングリスには感じ取れた。
あの調子で長くリップルを使って戦っていたら、恐らくシルヴァは命を失っていただろう。だから流石に見過ごせず急行して止め、自分が戦った。
シルヴァの出番を奪ったのは、ただ単に自分が戦いたかったからだけではないのだ。
――とても戦いたかったのも、否定できない事実だが。
そしてその時感じたのは――天恵武姫は使用者の力を圧倒的に高める機能を持ちつつ、消費した力に応じて、使用者の命を削り取って捨て去るという機能も持っているという事だ。
しかもその二つは表裏一体かつ不可分で、避けられない問題だ――
というわけではないのである。
確実に二つの機能は別々で、それぞれに独立している。
技術的な詳細までは分からないが、避けようと思えば避けられる事のはずだ。
あえて欠陥を仕込んで、それを下賜しているのだ。それがあの時はっきり分かった。
つまり、天恵武姫は聖騎士の力を圧倒的に高める女神であり、聖騎士の命を奪う死神でもある。
何故天上領はそんな事をするのか――よく考えれば察しはつく。
聖騎士と天恵武姫の力が、天上領に向けられる事を防ぐためだ。
聖騎士と天恵武姫が組み合わさった時の力は、魔石獣の最強種たる虹の王を滅し得る程のものだ。
現状、地上最強の力であると言える。
それが反乱して、矛を向けられるのは、天上領にとっても流石に脅威と言えるものなのだろう。
だから、聖騎士がある程度天恵武姫を使えば勝手に力尽きるように、生命力を奪い取るような機能を組み込んで下賜している。
そうすれば聖騎士と天恵武姫が反乱して来ても、放っておけば使い手が倒れ、自然と脅威は消え去るというわけだ。
地上を守る力を与えつつ、脅威となり得る存在は取り除く。
虹の王と戦って聖騎士が力尽きても、また次の聖騎士を連れて来ればいし、天上領にとって地上の国々は生かさず殺さずが丁度いい。
一見矛盾する、力を与えつつ、力関係を変えないという事。
それを実現する存在が、聖騎士に力を与えつつ命を奪う天恵武姫という存在なのだ。
ティファニエが天恵武姫の使命を下らないと語るのも、分からなくはない話である。
「そうではないかと思っていましたが……あなたのおかげで確信ができました。先程、ラニが失礼な事を言ったのは代わりに謝罪しておきます――済みませんでした」
イングリスはゆっくりと立ち上がりながら、そう述べる。
天恵武姫の反面しか知らなければこそ、出た言葉だ。
ラフィニアの真っ直ぐで純粋な心根と正義感によるもので、決して悪気があるわけではない。
『……あなた、呆れた子ね――』
「何か可笑しいでしょうか? 主人の騎士の無礼を謝罪しておくのも、従騎士の務めかと思いますが――?」
『そんな場合ではないでしょう! 自分の置かれた状況が分かっているの……!? 天恵武姫の危険性に気が付きながら、私の装着を拒否しなかったなんて……!』
「こちらにも色々と、事情がありまして――」
『何の事情か知りませんが、無意味ですね……! 何故ならあなたはここで私に生命力を吸い尽くされて、帰らぬ人になるのですから――!』
「それは――」
そう、これはティファニエの奥の手とも言える攻撃である。
イングリスに装着して無理やり力を引きずり出し、同時に機能する天恵武姫の使用者の命を削るという副作用を浴びせ、イングリスの命を奪うつもりだ。
事実今、イングリスの体は異常なまでの虚脱感、脱力感に襲われている。
これが生命力を奪われるという事なのだろうか――
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