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第221話 15歳のイングリス・悪の天恵武姫26

「な、何だ今の一撃は――!? 先程は、あんな……!?」

「そんな事よりも、あの娘を止めろ……! これ以上ティファニエ様をやらせるか!」

「おう! いや――!? い、いない!? あの娘、消えたぞ――!」


 その時既に、イングリスはティファニエが止まった地点に立っていた。

 別にイングリスが何か特殊な事をしたわけではない。

 ただ単に、彼等の目には全く留まらない程の高速で移動をしただけだ。


「――追撃させて頂きます! はああああぁぁぁぁぁっ!」


 イングリスはティファニエが起き上がる前に、拳の連打を繰り出した。


 ドガガガガガガガガガガガガッ!


「ああああああぁぁぁぁぁぁっ――!?」


 弾幕のように降り注ぐ拳は、ティファニエの体を撃つだけではなく、その周囲の地面を破壊して行く。

 あっという間にティファニエの周囲の地面が陥没し、大きな孔が出来上がっていた。


「ティファニエ様! それ以上やらせるか――!」

「命に代えても救いするぞおぉぉっぉっ!」

「うおぉぉぉぉぉっ!」


 必死の形相で、天上人(ハイランダー)達が飛び込んで来る。


「や、止めなさい……! あなた達では、止められません……!」


 連打を浴びながらも、ティファニエは部下達を制止する言葉を口にする。

 こんな状況でそれが出るのだから、どうやら本気で彼等の身を案じているようにも思えた。だからというわけではないが――


「…………」


 イングリスは一旦攻撃の手を止め、ティファニエの様子を窺う。

 彼女の纏う白金の鎧は、不自然に凹んだり歪んだりしているものの、決定的に破壊されているというわけではない。


 凄まじい強度だと言えるだろう。

 上級の魔印武具(アーティファクト)をも遥かに上回っている。

 例えば、レオーネの黒い大剣の上級魔印武具(アーティファクト)――もしあれに霊素殻エーテルシェルを発動したイングリスがこの勢いで拳打を撃ち込んだなら、今頃は粉々になっているのは間違いない。


 流石は天恵武姫(ハイラル・メナス)が召喚した鎧だ。

 もし特級印を持つ聖騎士と共に戦う事になれば、虹の王(プリズマー)の攻撃から聖騎士の身を守る事になる鎧の素体に当たるのだろうから、それも当然かも知れない。

 ただイングリスとしては、これだけ攻撃して破壊できないのは少々悔しさも感じる。


「――く……う、うぅ……」


 その強度に守られたティファニエもまた、かなり効いてはいる様子だが意識はある様子だ。こちらも流石と言えるだろう。

 イングリスは少し跳躍して、後方に距離を取る。


 入れ替わるように、イングリスを無視した天上人(ハイランダー)達がティファニエを助け起こす。


「ティファニエ様……!」

「だ、大丈夫ですか……っ!?」

「後は我等に任せ、お退き下さい――!」


 しかし、彼等の言葉にティファニエは首を振る。


「い、いけませんよ……あなた達の敵う相手ではありません――」

「し、しかし……!」

「ここは命を捨ててでも、お守りいたします……!」

「どうかご自重を――!」


 この光景だけを見れば、美しい主従関係にも思えるかもしれない。

 しかし、彼女達がこのアルカードの土地で残虐非道を働いていたのも事実。


 ラフィニアがこれを見たら、どうするべきかと悩んだだろうか?

 いや流石に、同情の余地はないと断罪をしただろうか?


 ラフィニアは基本的に人を性善説で捉えて、いい所を探そうとする思考をする。

 だから、これを見たら多少なりとも悩んだだろう。


 しかしイングリスは悩まない。人を性善説で捉えたりもしない。

 性悪説を唱えるつもりも無いが――善悪よりも、もっと大事なものがあるのだ。


「――これまでにしましょう。捕らえたプラムやリックレアの生き残りを開放し、『浮遊魔法陣』も元に戻して下さい。その上で天上領(ハイランド)に撤退して頂ければ、それ以上の追撃はしませんので――」


 本当ならばもっとゆっくりと楽しみながら戦いたかったが、ラフィニアの安全確保のためにティファニエとの戦いを早期決着させたのだ。

 ならばその後も早期決着。ラフィニアの願いや身の安全が最優先である。


「ティ、ティファニエ様……?」

「どういたしましょう――?」


 天上人(ハイランダー)達がティファニエを見る。

 そういう反応をするという事は――条件に乗ってもいいと考えているようだ。

 ある種自然だろう。イングリスは圧倒的優位に立ちながらも、今戻せるものを戻したら水に流すと言っているに等しい。何の贖罪も賠償も求めないのだ。

 甘過ぎると怒る人間も相当数、いるだろう。


 だがそんな提案――というよりも一種の助け舟に近いものにも、ティファニエは容易に首を縦に振らなかった。


「……それをして――何になります?」

天上領(ハイランド)に戻り、再起を図る事が出来るかと思いますが?」

「ふふっ……それは、失敗しても次が許されるような立場の方には効果的かもしれませんけど、ね――」

「……あなたは違う、と?」

「ええ。イーベル様のような、元々の支配層であり教主様のお気に入りとは違います。私は天恵武姫(ハイラル・メナス)――持っている力が如何に強かろうとも、天上領(ハイランド)の上層部にとって、地上に払い下げる程度の道具でしかない……失敗して天上領(ハイランド)に戻れば、本来の道具として扱われるだけでしょうね」

「わたしはあなたが無事に再び地上にやって来て、再戦出来そうであればそれで構いませんが……?」

「それに何の価値があるの? 天恵武姫(ハイラル・メナス)天恵武姫(ハイラル・メナス)である限り、本当の意味で地上を救う事など出来はしませんし、何も変わらないし変えられません。私はそんな馬鹿馬鹿しい事のために戦いたくありません」


 ティファニエは余程天恵武姫(ハイラル・メナス)としての役割、立場を嫌っているようだ。様々な事情が背景にあるのは推測できるが――


「戦いに理由や意味など必要ありません。戦いたいから戦い、強ければ楽しい――それで十分では? ともかく今度わたしと再会したら、本気で倒そうと攻撃をして下さると約束をして頂ければ――」

「だからそんな事に何の意味があるというの!? 獣ですか、あなたは!」

「わたしはただ、何処までも強くなりたいだけです。そのために出来るだけ多くの実戦経験を積む機会を確保しようとしています」

「……付き合い切れません! 何なの、あなたは――! 天恵武姫(ハイラル・メナス)を一蹴するような、それだけの力を持ちながら、ふざけた事ばかり……!」

「ふざけているつもりはないんですが――」


 思えば、システィアや黒仮面やイーベルにも、こういう話をしていたら怒られたような気がする。ティファニエは少し気色が違うと思ったが、やはり怒られてしまった。

 中々「よし分かった! 次はお望み通り叩き殺してやる!」などと言って去って行き、修業をしてまた再戦に来てくれるような器の広い相手には巡り合えないものだ。


 やはりこちらに来る前に考えていた、イーベルの残した施設を探して自分を複製してみるというのは必要だと、改めて思った。やはり自分の最大の理解者は自分――である。

 今回の件がすべて片付いたら、探しに行かせて貰おう。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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