第219話 15歳のイングリス・悪の天恵武姫24
「相手の攻撃を避けも防ぎもせず、自らの攻撃に専念する……という事ですね」
「ふふ――お分かりになりました? でしたらどうします? 逃げますか? その綺麗な顔があまり腫れたりするのも、嫌ですものね?」
「まさか……! お付き合いしますよ、あなたの戦い方に」
戦いとは、相手の長所を受け止めて、その上で勝つもの。
それが最も自分の実戦経験となり、自分の成長に繋がるのだ。
ティファニエが防御なしの殴り合いを挑んで来るというのなら、受けて立つ。
そしてその上で、殴り倒して勝たせて貰う――!
「では、行きます――!」
イングリスが再びティファニエへ突進しようとした時――
「ティファニエ様あぁぁぁぁっ!」
「お、お怪我をされているのですか――!?」
「な、何とおいたわしい……!」
何人かの天上人達が、機甲鳥に乗って姿を見せていた。ハリムの姿は無いが、皆彼のように美形の青年達で、ティファニエの趣味と言うものが窺い知れるようだ。
ティファニエはかすり傷程度の軽症だが、大袈裟に騒いでいる。
「あら、あなた達。お留守番をなさいと言っておいたでしょう? リックレアはもう空に進み始めているんですから、しっかり見ていないと――」
「いやしかし――! ティファニエ様お一人が戦いに出られるなど――!」
「我々も戦わせて下さい!」
「今度こそ、そこの銀髪の娘を倒してご覧に入れます――!」
「いけませんよ。あなた達では敵いません。無駄死にはいけませんよ? これでもあなた達が大切なんです――今は我慢をして、後で私を癒して下さい?」
「は、はい……! 私に任せを!」
「いや僕が!」
「俺が……!」
「ふふっ。あせらずに順番に――ね? 私は逃げませんし、このままリックレアを天上領に持ち帰れば、きっとご褒美を頂けますからね? 任務を終えた後は、しばらくゆっくり楽しみましょう? 今はそこで応援していて下さい。それが私の力になりますから――」
すっかりこちらが悪役のような雰囲気だが――こちらも一人ではない。
「クリス! 大丈夫!?」
頭上から、ラフィニアの声が降って来た。
機甲親鳥から星のお姫様号を出してきたらしく、ラティと二人乗りで搭乗していた。操縦桿を握っているのはラティだ。
姿の見えないレオーネとリーゼロッテは、機甲親鳥を守っているのだろう。
「うんラニ、大丈夫だよ」
「先に行くぜ! ここは頼む!」
「お願いね、クリス!」
二人がそう言い残し、星のお姫様号は空に浮かぶリックレアの街へと飛んで行く。
その加速はイングリスとラティが色々と改造した甲斐もあり、並の機甲鳥より遥かに速い。
「お、おお……! 速い……!?」
「何だあの機甲鳥は……!」
「追いなさい。あれはお偉方への貢ぎ物――何かあっては私達の立場にも差し支えます」
「「「ははっ!」」」
天上人達は頷いて星のお姫様号を追う。
が――星のお姫様号のラフィニアが後ろを振り返り、愛用の弓の魔印武具――光の雨を引き絞っていた。
「そうは行かないわよ――!」
弓から白い光が放たれて、いくつもの細かい雨のように拡散し、天上人達の周囲をぐるぐると回り始める。
「うおぉぉっ!?」
「くっ――目晦ましかっ!?」
そこに、別の方向から声が割り込む。
「でええぇぇぇぇいっ!」
レオーネの声だった。
同時に地上から魔印武具の黒い刀身が長く伸び、天上人達の乗る機甲鳥の機体を薙ぎ払った。
「何っ……!?」
「伏兵か――っ!?」
それ程の高度では無かった事もあり、天上人はそれぞれ無事着地はしていたが――足は潰した。容易にラフィニア達に追いつく事は出来ないだろう。
「おお――いいね」
先に出たラフィニアが敵の目を引き付け、その隙をレオーネがついて敵の足を潰す。
ティファニエが自らこちらの足を潰しに来た敵側のお株を奪うような、中々に考えられた連携だ。
誰が考えたのだろう? ラフィニアが考えた作戦ならば少々鼻が高い。
だがやはり、騎士アカデミーの座学も優秀なレオーネかリーゼロッテだろうか?
「イングリス! 私達も行くわね!」
「後はお願いしますわね――!」
レオーネとリーゼロッテも機甲親鳥に積んでいた機甲鳥で飛び出し、ラフィニア達の後を追って行く。
今は、リックレアの街に取りついて、プラムや生き残りの人々の救出を優先、という事だ。
「分かった――!」
「ふう――困りましたね。あまりゆっくり楽しんでもいられなくなりました」
ティファニエが嘆息する。
「ええ、そのようですね」
「では、急がせてもらいます――!」
そう言ったティファニエが向こうから、一直線に突進して来た。
「……!」
イングリスはそれを迎え撃つべく、身構える。
見た所、ティファニエの突進の勢いは鋭く力強いものの、先程までとそれ程の変わりはない。
急ぐという言葉の意味は、まだ把握できないが――ティファニエは笑顔を見せていた。
「そう、正面から受けて立って下さるのね――ありがとう、私はちょっとズルをさせて貰いますけど、ね――!」
カッ――!
ティファニエの体が光に包まれる。
直後、振りかぶったイングリスの拳がティファニエに着弾するが――
ガアァァァァン!
「!?」
手触りが、硬い――!
ドゴオオォォォッ!
返しの蹴りの威力も、先程とは段違いだった。
「くぅ――っ!?」
衝撃に吹き飛ばされながら、何とか踏み止まった。
「その姿は……!?」
先程の光が収まった後、ティファニエの姿が変わっていた。
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