第216話 15歳のイングリス・悪の天恵武姫21
「――よくそんなこと平気で言えるわ……! あれだけの事をしておいて――!」
ラフィニアの呟きの通りではあるが、ハリムや他の天上人達はティファニエを異様に慕っている様子ではあった。
だから本当に、自分の子飼いの者達には手厚い待遇をするのかも知れない。
逆に敵や地上の人々に対しては、一切の情け容赦を持ち合わせていないのだろう。
「天上人になりたければ、して差し上げますよ? 何でしたら天恵武姫化を試してみても構いませんし――下らない使命や義務なんてものを捨ててしまえば、力を得る手段としては悪くないかも知れませんよ?」
「――わたしでも天恵武姫になれるものなのですか?」
イングリスの問いかけに、ティファニエは頷く。
「可能性はありますよ? 生まれつきの天恵武姫などいません。皆天上領で処置を受けて、そうなるんです。私も元はただの娘でした。他の天恵武姫達もそうです。イングリスさん、あなたなら天恵武姫化に成功すれば私を超えると思いますよ? 無印者の今でさえ、私とこうして渡り合えるんですから――」
長くお喋りを続けているが、手元の鍔迫り合いはずっと続いていた。
ティファニエはずっと、人間離れした力強さでイングリスを押し返して来ている。
それはとても、心地の良い手応えだった。つい長く楽しみたくなってしまう。
「ふざけないで! 天恵武姫は、あなたの言ってる下らない使命や義務があってこその天恵武姫だわ! だから尊い! だからあたし達の守り神なのよ! あなたは何も分かってない――! 天恵武姫だけど天恵武姫じゃない……! そんなあなたに付いていくなんて、絶対に嫌! 馬鹿にしないで!」
「……ええ――!」
「その通りですわね……!」
「ああ……!」
ラフィニアの力強い言葉に、レオーネやリーゼロッテやラティは頷く。
こういう時のラフィニアは見ていて微笑ましく、保護者の立場としては少々鼻が高い。
だからこそ一つ、思う事がある――
「……すいませんでした――」
天恵武姫化にちょっと興味を惹かれていた事を、小声で謝っておく。単に力を増すのであれば、それも面白そうだと思ったのである。
一度試しに受けてみて、何かおかしな所があったら、かつて洗礼を受けた時のように、影響を弾いて無効化するまでである。
だから大丈夫だし、見る価値はあると――仕方がないのだ。知的好奇心というやつだ。
「……クリス? 今何か変な事考えてたわね?」
「い、いやそんな事ないよ……!? わたしもエリスさんやリップルさんは立派だと思ってるから――」
そんな様子を見て、ティファニエはくすくすと笑い始める。
「ふふふっ。そうですか――黒髪のあなた、お名前は?」
「ラフィニアよ! ラフィニア・ビルフォード!」
「そう、ラフィニアさん――あなた、いい子ですね? それも、とってもね。清く、正しく、美しく――ですね? 私もそういう子は好きですよ? ふふ……そういう子がどこで折れて、どこまで堕ちるか――見てみたくなりますもの」
「……!」
「あなたは肉体的苦痛か、精神的苦痛か、どちらがお好みでしょうね? そうだ、生爪を一枚ずつ剥いで、あなたが声を上げてしまったら目の前の人質が殺される――みたいな遊びをしましょうか? 無理にでもあなたは連れて帰ってあげますから――楽しみにしていてくださいね?」
「う、うるさい……! そんな事であたしが謝るとでも思ってるの――!?」
「ふふ――ですがもう、顔が少し怯えていますよ? そして、イングリスさん――あなたはどうなさいます? 興味がありそうなご様子でしたが?」
「……いいえ、それは勘違いです。あなたと交渉の余地は一切ありません」
「? あら、急に冷たいですね?」
「ええ――わたしはラニの従騎士です。ですから、ラニを傷つけようとする者は許しません。排除あるのみです――」
ラフィニアを傷つけようとする者。ラフィニアを泣かせようとする者。
そしてまだまだ子供のラフィニアを、かどわかそうとする悪い虫――
絶対に許さない。排除、排除、絶対に排除だ。
「まあ、これだけの力を持つあなたが――こんな浅はかな正義感だけの子に従おうと言うの? それでいいのかしら? 勿体ないですよ?」
「力だけで全てが決まるわけではありません。人の世の愛や絆と言うのは、そういうものでしょう? わたしとラニにはそれがありますから、それでいいんです」
イングリスはきっぱりとそう応じる。
「……いつも力しか追い求めてない人が急にそんな事言っても――」
「ラニ……! わたしは真面目に言ってるんだよ……!」
「ふふっ。ウソよ。ありがと――嬉しかったわよ。ちょっと恥ずかしかったけど」
ティファニエはふう、と一つ嘆息する。
「お話は楽しかったですが、ここまでのようですね。では初めの予定通り――足を潰させて頂きましょうか? あのリックレアの土地は天上領に持ち帰って、前任者とは違うという所をお偉方に見せなければいけません。邪魔が入らないように念入りに――ね?」
「望むところです……! そろそろあなたの本当の力もお見せ頂きたかった所です」
今のティファニエは、レオーネの魔印武具を奪って使っているだけだった。
天恵武姫は通常の女性の時でも、自分の武器を召喚して使ってくる。
リップルは銃を呼び出して使っており、武器化形態になるとやはり銃だった。
同じく血鉄鎖旅団の天恵武姫は槍。
エリスの武器化形態は見た事が無いが、戦う時に召喚していたのは双剣だった。
恐らく武器化形態も双剣だろう。
ではこのティファニエは何なのだろう? 今の所はまだ見えないのだ。
興味深い――早く見せて頂きたい。そして思い切り戦わせて貰いたい。
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