第215話 15歳のイングリス・悪の天恵武姫20
「……ちょっと否定できない――」
「わたしは、故人にはその美点を以て評価したいと思います。あの方の戦闘能力は惜しむべきものがありました――やはり残念です」
「……イングリスさん――あなた変わった子ね? もう少し別の見方をした方がいいと思いますが?」
ティファニエが小首を傾げる。
「――よく言われますが、ご心配には及びません」
「……まあ、どちらにせよもし彼の死にあなた方が関わっているのなら、むしろ感謝を申し上げないといけませんね? おかげ様で後釜として機会を得ました。私、彼には嫌われていましたから。あれでお子様な所はお子様でしたから、中々取り入る事が難しかったんですよね」
彼女の言う取り入るという事が何を意味するか――想像には難くない。
清楚な美しさの裏から感じる妖艶さは、そういう所から滲み出ているのかも知れない。
「……女性の武器を使って――という事ですか」
「ふふふ――天上人と言えども、別に神でも天使でも何でもありませんからね。欲深い方は沢山いらっしゃいます」
そうやって天上人の権力者に取り入って、エリスやリップルとは違う立場を得たという事か。
「――私も人の事は言えませんけれど……ね? 天恵武姫だからと言って、聖人君子ではありません。野心もあれば欲もあるんですよ」
「そうですね――ハリムさんのお話を聞いていると、何となく想像は付きます」
「あまりいじめないであげて下さいね? 戦いは弱いかも知れませんが――とても元気が良くて、お気に入りなんです。落ち込まれると私が困りますから――ね?」
「……そんな事よりも、わたしは戦いに強い方がいいですが――」
「あら。よろしければ、一度お貸ししましょうか? 良さがわかると思いますよ?」
「け、結構です……!」
何と言う恐ろしい事を言うのか。
イングリスにとっては、有難迷惑以外の何物でもない。
「ふふっ。そんなに可愛いらしいんですから、もっと楽しまないと損ですよ?」
「お構いなく。これでも十分楽しんでいますので――」
ただその方向性が、イングリスとティファニエではまるで折り合わないというだけだ。
「あなたは、他の――わたしの知っている天恵武姫の方々とは随分立場やお考えが違うようですね?」
「そうですね。私はこれでも大戦将の副官、要は天上領の役人ですから――それは、地上に投げ捨てられた道具達とは違うと思いますよ?」
「何が道具よ……! エリスさんやリップルさんを悪く言わないで! 二人とも本当に一生懸命あたし達の事を守ろうとしてくれるんだから……! それに比べてあなたはアルカードに来て何やってるのよ!? あんなに沢山の人達を傷つけて、食料を奪って! そんなの天恵武姫じゃないわ! あの人達のほうがずっと立派よ!」
ラフィニアが怒って、ティファニエに食ってかかる。
「ふふ――地上の人々は天恵武姫を地上を守る女神だと崇め、他に行き場のない天恵武姫もまた、寄せられる期待に使命感を見出すのかも知れません――ですが、そんなものは空の上から見れば、道具が道具として、体のいい働きをしているだけ。何も変わらず、天上領は地上を見下ろし続けるだけ――おままごとなんですよ? 楽しそうでいいですね?」
「た、楽しくなんかないわよ……! みんな一生懸命に、必死に――! それを馬鹿にしたような言い方は許せないわ!」
「あはっ。でしたらどうします? 私を倒しますか? 倒せますか? あの大地の楔を離れた街をどうします? 止められますか? ちなみに、『浮遊魔法陣』を急速発動させるために、捕らえた人間の過半数は処刑して魔素を大量に解放しましたよ? 今からあなたに何が出来ます? 死者を生き返らせるとでも? そもそも、ここで足を潰されれば、もう近づく事すらできませんよね?」
「そ、そんな……!? 『浮遊魔法陣』ってそんな事に……!?」
どうやら『浮遊魔法陣』については、イングリスの想像通りだったようだ。
が、あえて言わなかった事をティファニエが言ってしまった。
余計な事を――と思うが、ラフィニアは衝撃を受けた様子から、すぐに頭を振って前を向き直していた。
「いや、まだ生き残りがいるのなら、その人達を助けるわ……! 何もかもあなたの好きなようにはさせないから……!」
「プラムは!? プラムはどうした!? お前達がイアンに命令して攫わせたのか!?」
ラティのその問いかけに、ティファニエは特に勿体ぶらずにあっさりと応じる。
「ああ、ハリムの妹さんですか? 心配しなくても、ハリムが丁重に保護していますよ。イアンと言う人は知りませんが――ね」
それは、どういう事だろうか。
ではイアンは一体どうしたのか――ティファニエは何かを隠しているのか、それとも本当に知らないのか。
気にはなるが、今はそれだけに構ってはいられない。
「心配いりませんよ? 人質だなんて言うつもりはありません。そんな事をしては、部下達との信頼を損ねますから。これでも、仲間は大切にしたいですし、優秀な方にはどんどん集まって頂きたいんです。ですから、私の部下を退けたあなた達なら歓迎しますが、どうなさいます?」
ティファニエは全く悪びれず、穏やかな顔でそう述べる。
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