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第211話 15歳のイングリス・悪の天恵武姫16

「どうだった、みんな……!?」


 ラフィニアの問いかけに、レオーネとリーゼロッテは首を振る。


「こっちはダメ――手掛かりになりそうなものも、何も――」

「同じくですわ。何の異常も見られませんわ」

「荷物は全部そのままだったよ。機甲鳥(フライギア)が持って行かれたわけでもないみたい――」


 イングリスも見て来た事を報告する。

 確認してきた限り、機甲親鳥(フライギアポート)の積み荷にも、船体に係留している機甲鳥(フライギア)にも何の異常はなく、また、街から外に出て行った足跡のようなものも見当たらなかった。


「どういう事だよ――出て行った跡は無いのに、いなくなっちまったのか……!?」


 徒歩なり機甲鳥(フライギア)なり、何かしらの移動手段が使われていないという事は――


「考えられるのは……外から移動手段を持った何者かがやって来て、二人を連れて行ったという事かしら――」


 断言はできないが、恐らくレオーネの言う通りだろうとイングリスも思う。

 だからと言って、イアンも巻き込まれた被害者かと言うと、そこは判断の難しい所だ。

 彼がその外部の人間を手引きした可能性もあるからだ。


「外からそんな事をなさりに来る方というのは――」

「……そうなると、考えられるのって……」

「――ハリムか……!」


 当然そう考えられる。

 今のアルカードの状況で、イングリス達と敵対する勢力は、それしかいない。

 これまで血鉄鎖旅団の姿は見ていないし、正規のアルカード軍は、カーラリアとの国境付近に集結中だ。

 明確にイングリス達を敵として存在を認識しているのは、リックレアを根城にする天恵武姫(ハイラル・メナス)ティファニエの一派だけだろう。


「けど、プラムはハリムには会ってねえ筈だ……」


 ラティの言う通り、ハリムと対面した時にプラムは顔を見られないように隠れていたはずだ。


「という事は――」


 そこに、姿の見えないイアンが手引きしたという推測の妥当性が出て来る。


「……それはまだ、分からないわよ。遠くから見られてたのかも知れないし、ツィーラの街からここまでで、他の天上人(ハイランダー)とも戦ったから、そこから話が伝わってるのかも知れないし――決めつけるのは早いわ。イアン君はプラムを守ろうとして、一緒に連れて行かれただけかも知れないでしょ?」


 そう言ったのはラフィニアである。

 こういう状況ではあるが、まだイアンを信じてあげたいのだろう。


「……そうね、ラフィニア。それに今考えなきゃいけないのは、プラムを早く見つけて、助けてあげる事だわ」


 レオーネもそう言って頷く。


「これまでのお話を総合すれば、恐らく行き先は一つですわね――」


 無論、ティファニエの一派が根城にしている場所。それは――


「……リックレアだな。それしかねえ」

「元々王都かリックレアか、どちらに向かうかを決めなければいけませんでしたが――これで決まりですわね」

「ええ……! 急いでリックレアに向かいましょう!」

「うん! じゃあすぐに出発よ!」


 と、ここで皆の話し合いの流れを見守っていたイングリスは口を開く。


「ちょっと待って、そこはよく考えないと――」

「クーリースぅ~。ひょっとして、まだ先に王都行きたいとかってって言うんじゃないでしょうね? こんな状況なんだから、いっぱい戦いたいからとか、イーベルの研究施設で遊びたいからとか、下らない事言ってたら怒るわよ?」


 ラフィニアがじっとりした瞳で見つめて来る。


「いや、それはそれで下らない事なんかじゃないとは思うけど……それは置いておいてもね、今ここで考えておかなきゃいけない事があると思う――ラティにね」


 と、イングリスはラティに視線を向けた。


「え? 俺か?」

「うん。このままリックレアに向かえば、間違いなく戦いになる。それで敵を追い払って、プラムも助けて、住民への徴発も止めれば――それって間違いなく大手柄だよね?」

「いい事じゃない、何か問題あるの?」


 と、ラフィニアは首を捻る。


「それだけの大きな事を、わたし達が――つまりカーラリアの騎士がやっちゃったら、後々の影響は大きいよ。住民の人達からすれば、大変な時に助けてくれたのはカーラリアだって事になって、アルカードの国自体の信用が落ちる事になる……それを見たら、今度はカーラリアの側から、アルカードを攻めて領土を拡大しようなんて言い出す人が出て来ても可笑しくない――アルカードの民もそれを望んでいる……! なんて言ってね」

「そんな、あたし達そんなつもりじゃないのに――」

「だけど、そうね――イングリスの言う通り、そういう事もあるかも知れないわね」

「ですがそれは、今に限った事では無いのではありませんか? 元々そういう事だと言うだけで――」

「うん。だから、ここからはラティが表に出る必要があるよ。ラティがカーラリアの騎士の協力を取り付けてリックレアを落としたっていう形にすれば、手柄はラティのものになって、住民の人達の気持ちはアルカードからは離れないから」


 アルカードの王子がアルカードを救うのだから、民衆の気持ちがカーラリアに向いてしまうという事はないだろう。

 だが――国同士という大きな点で問題が無くても、個人としてはまた別の問題が出て来る。


「それならそうすればいいだけじゃない。何か問題あるの?」

「そうなると、皆ラティに感謝するよ。救国の英雄ってやつ。そこからは――逆に言うと、もう逃げられないよ? 必ず、ラティに国王陛下になって欲しいって話になる。それを回避しようと思うなら、ラティのお父さん――アルカード王に話を通して、別の人を立ててもらって、その人に前面に立ってもらえばよかったんだけど……今のままなら、強制的にラティが立つしかなくなるよ?」


 それに、アルカード王と話をつける前に独断でそれをやってしまったら、完全にラティ一人の手柄になる。そうすると、アルカード王の立場も危険だ。

 大変な時に何もしなかった国王だと思われてしまうから。

 下手すればラティにそのつもりが無くても、過激な者がラティを王位に就けるために、アルカード王を襲うかも知れない。

 つまり――心情的に早くプラムを助けたいのは分かるが、政治的な環境整備――根回しや調整というものも重要で、今はその点で重要な岐路に立っているのだ。

 ラティのこの先の人生を、大きく左右する事になるのは間違いない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 脳筋だが、一応前世は王だったんだなって。
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