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第206話 15歳のイングリス・悪の天恵武姫11

「おい――今の爆発を見ただろう? 私の指示一つで、奴等はすぐにそこらの建物に突っ込み、自爆をして見せる……この意味が分かるか?」

「――中に隠れている住民の皆さんを人質に取ったも同然……という事かと思いますが」


 イングリスが応じると、ハリムはにやりと笑みを見せる。


「ご名答! 物分かりがいいようで何よりだ」

「……!? 汚いわよ! まともに戦えないの、あなた!?」


 ラフィニアがハリムに食ってかかる。


「ハン……! 正々堂々などに何の価値も無いな――! 全てはティファニエ様のために……! あの方は利のためには手段などお問いにはならない! むしろ今の様子を見たら、面白いとお喜び下さるさ!」


 ハリムはそうきっぱりと言い切る。


「……どんな天恵武姫(ハイラル・メナス)なのよ――こんな事認めるなんて……!」

天恵武姫(ハイラル・メナス)にも色々いるという事なのね――信じたくないけれど……!」

「エリス様やリップル様にお護り頂いているわたくしたちは、幸運なのですわね――」


 ラフィニア達は、まだ見ぬティファニエという天恵武姫(ハイラル・メナス)への嫌悪感を露にする。


「ふふふ……会えるのが楽しみだよね」


 イングリスにとっては、そう言う事だが。


「ティファニエ様にお目にかかる事などできないさ。何故ならここでお前達は……! さあ住民達の命が惜しくば――分かっているな!?」

「く……!? ま、まずいわ。クリス……!」

「下手に逃げられない――!」

「反撃もできませんわ……!」


 下手に逃げても、反撃をしても、ハリムは部下を住民諸共自爆させるつもりだ。

 住民を守る事を放棄するというのであればまた別だが、それを簡単に決断できるラフィニア達ではない。

 もしそうしてしまったのなら、ラフィニア達の心には傷が残る事になるだろう。

 ならば、ここは――


「ええ分かっています。つまり――」


 イングリスは掌を空に翳しながら、一歩前に出てハリムに応じる。


「やられる前にやれ、ですよね?」

「「「へ……?」」」


 ――霊素弾(エーテルストライク)


 ズゴオオオオォォォォォッ!


 巨大な青い光弾が唸りを上げて、地面から空に向かって疾走する。

 その膨大な破壊力に呑み込まれ、機甲鳥(フライギア)ごとハリムの部下が二人、一瞬で消滅して行った。

 ――しかしまだ、二人が消滅しただけ。他の大多数は健在である。


「な……っ!? 貴様、いい度胸だ……! ならば見せしめに――!」


 そう言ってハリムがイングリスを睨み付けようとした時――

 すでにその姿は元の場所には無かった。


「む……!? どこだ――!? いやどこであろうと――! やれっ!」

「させません――! はあああぁぁぁぁっ!」


 そのイングリスの声が響いた方向は――

 敵兵を呑み込んだ霊素弾(エーテルストライク)の進路上だった。

 霊素殻(エーテルシェル)の輝きに包まれて、既に大きく蹴りを振りかぶっている。


 ドゴオオオォォォォォンッ!


 イングリスが蹴り足を振り抜くと、霊素弾(エーテルストライク)の軌道がガクンと折れ曲がり、その進行方向にいた別の敵兵を呑み込んで機甲鳥(フライギア)ごと消滅させた。


「か、構うな……! 散開して各個に突撃しろっ!」


 しかしハリムの命じた散開と個別突撃よりも、イングリスの動きの方が圧倒的に速かった。


 ドゴオオオォォォォォンッ!


 再び打撃音が鳴り響くと、霊素弾(エーテルストライク)の軌道が変わって別の敵兵を呑み込む。


 ドゴオォォッ! ドゴオォォッ! ドゴオォォッ! ドゴオォォッ! ドゴオォォッ!


 縦横無尽に動き回る霊素弾(エーテルストライク)が軌道を変える度に、敵兵が確実に減って行く。そして――


「はあぁぁぁぁぁぁっ!」


 ドゴオオオォォォォォンッ!


「うおおおぉぉぉぉっ!?」


 最後に真上に撃ち上がった霊素弾(エーテルストライク)は、ハリムの面前を掠め、天高く昇って消えて行った。

 そしてその時――ハリムの連れていた部下達は全て、光に呑まれて消滅していた。

 無論ハリムに当てようと思えば当てられたが――そこはイアンの願いを聞いたまでだ。


「ほ、ほんとにやられる前にやったわね……」

「す、すごい……!」

「ま、眩し過ぎて目を開けていられませんでしたわ……!」

「本当ならゆっくり戦いたかったけど――事情が事情だから……ね」


 せっかくの実戦の機会だ。イングリスとしては、それがどんな状況であろうとも、最大限自分の成長に繋がるような戦い方をしたい。

 こんな、圧倒的な力で相手を瞬殺するようなやり方は、本当は好みではない。


 消滅して行ったハリムの部下達には、憐れみを禁じ得ない。

 生きてさえいれば、また戦えたかもしれないのに――


 だがハリムの意志一つで周囲を巻き込んで爆発してしまう彼等への対抗手段は、この状況ではこれしかなかった。

 人道的な問題を無視すれば、ハリムの戦術は中々に効果的だったのだ。

 彼の頭脳の優秀さは分かった。そして、決して褒められた人間性ではないという事も。


「まあ新しい技も試せたから、良しとするしかない――よね」


 正確には新しい技と言うより霊素弾(エーテルストライク)霊素壊(エーテルブレイカー)の応用だが。


 攻撃したら周囲諸共巻き込んで自爆するような相手は、霊素弾(エーテルストライク)で有無を言わさず消し去ってしまうのが一番。

 しかし、あれだけ散開している相手を全て消し去る程に霊素弾(エーテルストライク)を連射する事は、イングリスの霊素(エーテル)の持久力では不可能だ。


 ならば、一度撃った霊素弾(エーテルストライク)により多くの敵を倒して貰う事が必要になる。つまり、直線軌道のみではなく、敵を追い続ける誘導弾だ。

 しかし扱いの極めて難しい力である霊素(エーテル)を、そこまで制御する技術もイングリスには無い。直線軌道を曲げる事さえ出来ないのだ。

 霊素(エーテル)の制御技術に極めて優れている血鉄鎖旅団の黒仮面ならば、それも可能かもしれないが――


 霊素弾(エーテルストライク)の誘導弾を放てないイングリスにも出来るのが、先程のあれ――つまり、霊素弾(エーテルストライク)の軌道に先回りして、霊素殻(エーテルシェル)の打撃によって無理やり軌道を変更し、疑似的な誘導弾として一発の霊素弾(エーテルストライク)で可能な限り多数を巻き込む、という事だ。


「滅茶苦茶力任せの荒業だったわね――光の弾を蹴飛ばして無理やり方向変えるなんて」

「まあ、でもイングリスらしいわ。すごく――」

「ですわねえ……」

「そうね。可愛い顔してこの世の全ての問題は全て殴って解決! だもんね、クリスは」

「失礼な。わたしは出来るだけ多くの戦いを経験したいだけで、問題を解決したいわけじゃないんだよ?」

「いや余計悪いでしょ、それ――」

「それに、さっきのあれだって結構難しいんだよ?」


 力任せの荒業に見えるかも知れないが、これはこれで繊細な技術が必要だった。

 何故なら、イングリスが特に何も意識せず霊素弾(エーテルストライク)に対して霊素殻(エーテルシェル)の打撃を叩きこめば、威力の相乗効果で数倍の破壊力がその場で炸裂してしまう。

 それがつまり、虹の王(プリズマー)の幼生体を撃破した技、霊素壊(エーテルブレイカー)である。


 打撃を加えて軌道だけが変わるようにするには、イングリスの本来のものとは意識的に霊素(エーテル)の波長を変えてやる必要があった。

 最近になって、僅かながらイングリスにも霊素(エーテル)の波長を変える事が出来るようになって来たおかげである。


 先日のワイズマル劇団の公演を手伝った件で、ユアと手合わせをしたり、近くでその高度な力の制御技術を観察しているうちに、力の波長や流れと言うものを、より深く意識する事が出来るようになっていた。その成果がこれだと言える。


 ユアもユアで虹の王(プリズマー)の力を逆に取り込んで力を増したような様子を見せていたし、次に再戦する時が楽しみだ。

 ユアは何か理由が無いと全く手合わせをしてくれないので、またいい口実を見つける必要があるが。


「まあ、それはそうと――」


 イングリスは一人取り残されたハリムへと視線を向ける。


「くうぅぅぅ……! な、何だとあんな一瞬で全滅……!? ば、化物か――!?」


 慄くハリムに、イングリスは笑顔を向けた。


「さあ、リックレアにお戻りになって、ティファニエさんにお伝え下さい。近々そちらに伺いますので、手合わせをお願いします――と。よろしくお願いしますね?」

「くっ……! 見逃すというのか、いいだろう後悔させてやる――!」


 ハリムはそう言い残すと、ふっと姿を歪ませて、機甲鳥(フライギア)ごと姿を消した。異空間に転移する魔術を、逃亡用に応用したのかも知れない。


「まあ、今日の所はこんなもの――かな」


 物足りなさは残るが、習得したばかりの技術を実戦で試せたので、良しとしておこう。


 ――しかし、良しとしておけない者達もいる。


「ハリム様――信じられません、僕には……」


 イアンは項垂れ、消え入りそうな声で呟いていた。


「あっ……! おいこらプラム! まだ出るなって!」


 プラムとそれを追いかけるようにラティが、機甲親鳥(フライギアポート)の積み荷から駆け出して来た。


「お兄ちゃんの馬鹿――ッ! どうしてこんなひどい事をするんですか……!? これに懲りたら、もう二度と来ないで下さい……!」


 しかし、プラムがその声を向けたハリムはもう姿を消して、誰も答える者はいない。


「ってて……あいつ暴れるから、抑えとくの大変だったぜ――」


 どうやらハリムの前に飛び出してしまいそうなプラムを、ずっとラティが抑えていたようだ。地味だがこれは結構重要な役目である。


「お疲れ様です、ラティ君――」

「ああ――それにしてもハリムの奴……! くそっ……!」


 アルカード出身の三人には今日の事はとても、堪えた様子だった。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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