第196話 15歳のイングリス・悪の天恵武姫
遅くなってしまって申し訳ないです。。
最近本業の方がかなり忙しくて。。もっと小説書く時間が欲しい。。
何とか準備できたので、バシバシ上げていきますね!
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ビュウウゥゥ――――ヒュウウゥゥゥ――――
雪混じりの寒風が、甲高い音を立てて吹き抜けていく。
夕暮の茜色が、周囲の木々を彩る雪を染め上げていた。
ここはイングリス達の国、カーラリアのはずれ。
北の隣国アルカードとの国境付近だ。
今でも十分寒いのだが、これから夜を迎えますます気温が下がって行くだろう。
「ふう――大分寒いわね。こんなに冷えるのって初めてだわ」
レオーネは身震いしながら、木の間から見える山砦の様子を窺う。
あれはアルカード軍の所有する国境警備用の拠点らしい。
これから国境を越えて、アルカード領内に潜入する事になる。
こちらは一機の機甲親鳥を移動拠点とし、接続可能な機甲鳥を複数、艦載機として搭載。その中にはイングリス達の私物の星のお姫様号もある。
更に積み荷として、食料類も山盛りに搭載――という小隊編成である。
これを一言で言うと、結構目立つ。
明るいうちに機甲親鳥で飛んで行ってしまうと確実に見つかるだろう。
よって夜の闇に紛れて国境越えを行うべく、ここで待機中なのだ。
「そうですわね――風が冷たくて頬が痛いですわ」
そうリーゼロッテが言う。
防寒対策はしっかりとし、もこもことした毛皮の服や、耳当てもしているのだが――
それでも不慣れな寒さは身に染みるのだ。
「平野を避けて山側に回りましたから……平野の街道沿いなら、今の時期はもう少し温かいんですけど」
プラムの言葉は、流石はアルカードの出身という内容である。
「仕方がないわね……そっちにはアルカード軍が集結中みたいだし――」
アルカード軍が集結しているという平野部は避け、山間部の国境に回って来たのだ。
が、ここにも点在する砦があり、行動には慎重さが要求される。
平野部に集結中のアルカード軍は、今はまだ動き出していないようだった。
ここでこちらが見つかってしまい、下手にアルカード軍を刺激してしまうと、平野部の大部隊に連絡が行き、予定を早めて動き出してしまうかも知れない。
そうなると、国境に向けて動き出し始めているはずのカーラリア軍との衝突は避けられない。あちらはカーリアス国王直属の近衛騎士団と各地の領主達の所有する騎士団の連合部隊。そこには、イングリス達の故郷ユミルの騎士団を率いたビルフォード侯爵も参加している。
お互いの軍が激突し消耗してしまう前に、こちらの小隊がアルカード国内に潜入し、政変やあるいは国上層部の意見の変化を促し、アルカード軍を撤退させる。
それが今回の作戦の目的である。
国上層部への繋ぎ役は、ラティがいるため問題ない。
彼は身分を隠していたが、アルカードの王子なのだ。これ以上の適任は無いだろう。
これはイングリスが発案した作戦だが、上手く行けば戦争状態を防ぐ事が出来る。
そこで失われるはずだった多くの騎士や兵士達や、踏み荒らされて散ってしまう無辜の民の命を救う事に繋がるのだ。
イングリス自身は単にアルカードに存在するはずの軍の強者や、天上人や、虹の王や、とにかく何でもいいので何かと戦いたいだけだ、とラフィニアは分析していたが――そこはまあ言っても仕方がないので放っておくとして、レオーネにとってはこの作戦はとても意義深いもの、重要な使命だと思える。
だから、寒いからと言って甘える事など許されない。
「――少し体を動かしておこうかしら。いざという時に動けなくても困るし」
レオーネは黒い大剣の魔印武具を構えて、素振りを始めようとする。
そんな彼女に声をかけたのは、ラフィニアだった。
「レオーネもリーゼロッテも、寒いんだったらこれ食べればいいじゃない。あったまるわよ!」
にっこり笑顔の傍らには、一体何人前だと言いたくなるような巨大さの大鍋が鎮座。
イングリスとラフィニアが、鍋が小さいと何度も作る手間が面倒と言い、特注して来た野戦行軍用の巨大鍋である。
そこには具沢山の魚介のスープが、ぐつぐつと煮えていた。
「寒い時には、温かいものを食べるのが一番だよ?」
イングリスもたおやかな笑みで、二人に呼びかける。
「……もう食べたわよ――!」
「お腹一杯ですわ……!」
普通の人間は、イングリスとラフィニアのように、延々食べ続ける事など出来はしないのである。だからそれ以外の手段で、体を温めようというのだ。
「そう? じゃああたし達が残りもらうわね?」
「こういう所で食べるお鍋は、いつもより美味しい気がするね」
「場所が味を引き立てるってやつね。同感~♪」
そんな二人の様子に、ラティはただただ乾いた笑みを浮かべていた。
「ははは――いきなりそんな大量に食料消費して、最後まで足りるのか……?」
「まあ、途中で買い足せばいいわよ!」
「国王陛下から貰った軍資金はまだあるし――せっかくだからその土地のものを食べたいしね」
「そうそう、そのために美味しいものの情報は調べたし!」
「――もっと別に調べるものがあると思うんだけどなあ……」
とそこに、横からおずおずと問いかけて来る少年が。
勿論ラティではなく――イアンだ。
前回の事件の時、天上領の技術で無数に複製されたイアンの中で、唯一ユアが持って帰るため、と言って救い出していた一人だ。
事実ユアに持って帰られそうになっていたが、助け出して今回の作戦に同行させている。現在のアルカード国内の事に、一番詳しいのが彼だからだ。
彼の行った事は罪ではあるのだろうが、元々アルカードの王子であるラティに対しての悪意は無く、また反省している様子も見える。
なので危険は無いだろうと、イングリスだけでなく皆が判断した。
もしあったとしたら、イングリスとしてはそれはそれで歓迎するが。
手強い敵はいくらいてもいい。ただし、ラフィニアに手を出さなければ――だが。
「あの、イングリスさん、ラフィニアさん。追加でお野菜を入れますか?」
「うんお願い、イアン君!」
「お魚もお願いします」
「はい。分かりました、用意しますね」
イアンはせめてもの罪滅ぼしにと、甲斐甲斐しく色々と働いてくれる。
正直こういう状況では、非常に助かっているのだ。
「よーし、この辺の何処で食べたら一番美味しいか試してみるわ! あっちの崖とか」
「落ちちゃダメだよ? わたしは木の上で食べてみようかな」
「あっ! 高い所に昇ったら美味しい理論? じゃああたしは機甲鳥に乗って食べようかな」
「それは止めた方がいいわよ、目立つから!」
流石にレオーネが慌てて止めた。何のために隠れているのか分からなくなる。
そんな調子で、イングリスとラフィニアは完全に日が落ちるまで食べ続けていた。
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