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第189話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優42

 きゅんきゅんきゅんきゅんっ!


「ぬうううぅぅぅっ!」


 無数の光の雨がディーゴーの体を撃ち、傷をつける。

 頬や耳の部分に光が掠めると、その部分はまだ生身の肉が残っているようで、血が滲んでいた。

 が――拡散した分、当初の狙いのような頭部を一撃で仕留めるような決定打にはならない。


 これが普通の肉体の相手なら、無数の浅手というのも十分に有効で、それにより動きを鈍らせたり戦意を奪う事もできる。

 しかしディーゴーの場合は、痛みを感じないような機械化された体。多少の手傷はものともしない。


 だからこの攻撃の効果は薄いが、まとめて圧し潰されるよりはいい。

 それに――


「二人とも! お願い!」

「ええ……っ!」

「了解ですわっ!」


 二人の攻撃に繋げる、絶好の目くらましになる!

 ラフィニアの光の矢に続き、レオーネとリーゼロッテは既にディーゴーに肉薄していた。


 ガギイイイィィィィンッ!


 二人の攻撃が、ディーゴーの身体を撃つ音が激しく響く。

 しかし――


「くっ……! 斬れない――ッ!」

「先程の方は真っ二つでしたのに……っ!?」

「見くびって貰っては困る……! 『集束魔方陣』を刻まれたこの身体、力を集めれば集める程、本来の強度を超えて強くなる……! もはやお前達の攻撃などっ!」


 同時に繰り出した左右の腕が、レオーネとリーゼロッテをそれぞれ弾き飛ばした。

 二人の体は大きく吹き飛び、壁に強く叩きつけられる。

 先程までとは、まるで力が違う――アリーナから魔素(マナ)を吸って、また一段と強くなってしまった。


「くうぅぅっ……!」

「あぁぁぁっ……!」

「邪魔はさせん! 少し大人しくしていてもらおう――!」


 ディーゴーがすかさず腕から何かを放つ。

 それは、先に尖った円錐のようなものが付いた鎖だ。

 まるで意志を持つかのように、レオーネとリーゼロッテの体に巻き付くと、先端を壁に深く埋め込ませ、彼女達を磔のように拘束する。


「う、動けない……ッ!」

「こ、こんなもの――ッ!」


 二人とも必死にもがいているが、すぐに抜け出せそうにはない。


「レオーネ! リーゼロッテ!」

「ら、ラフィニア――! なんとか時間を稼いで……っ!」

「そうすれば、イングリスさんも戻って来ますわ……!」


 確かに、イングリスさえ戻ってくれば話は速いが――

 そう言っているうちに、ディーゴーが再び『集束魔方陣』の刻まれた掌をアリーナに向けている。


「ああああぁぁぁぁっ!?」


 再び上がるアリーナの悲鳴。


「アリーナちゃんっ!」

「お、おねえちゃんっ! い、痛いよ助けて――っ!」

「うん! 待っててね!」


 駆け寄ろうとしたラフィニアだが、何かに足を取られてがくんとつんのめってしまう。


「っ……!? 何なのよ――!?」


 足元を見る。

 レオーネ達を拘束しているのと同じような鎖が、足元近くの床下を突き破って飛び出しており、ラフィニアの足に巻き付いていた。

 ――これではこの場から動けない……!


「いつの間に――!? 離しなさいよ! アリーナちゃんを助けなきゃ……!」

「諦めろ。この子のが秘めたる優れた力――我等が志の礎として有効活用させて貰おう」

「ふざけないで! アリーナちゃんは、そんな事のためにここにいるんじゃないっ!」

「どうかな? あんな場末の商家で一生を使われて過ごすなら――大義のために命を捧げる方が有効というものだ」

「黙りなさいッ!」


 ――許せない!


 こんな小さな、可愛くて純粋な子供に、こんな仕打ちをするなんて――

 痛みに震えて涙を流しているアリーナを見ていると、身体が沸き立つほどの怒りを感じる。


 この子は何不自由の無い幸せな環境で生まれ育ってきた自分と違い、小さな頃から苦労を重ねている。それは自分には想像も出来ない事だ。

 せめて今日は、ワイズマル劇団の舞台を見て、楽しい思い出を作って欲しかった――


 それをこんな風に踏みにじる者は、どんな高尚な目的や大義があっても許せない!

 これまで、天上人(ハイランダー)や様々な人間の非道な行いを目にしてきたが――その中でもこれは最大級だ。


「……っ!」


 ラフィニアは再び弓を引き絞る。

 そこに生まれた光の矢が、ぐんぐんと大きく輝いていく。


「もう無駄だ、止めておけ」

「何ですって――!?」

「何かを待っているのだろう? なら、私のする事を邪魔せずに見ているがいい。そうすればこちらも手を出さん。何なら条件次第で命は助けてやってもいいが――? この通り、力を回収するのに忙しいのでな」

「見くびらないでッ!」


 アリーナを見捨てるなんて、そんなことは絶対にしない!

 ラフィニアは返答代わりに光の矢を放つ。

 その光の矢の太さは先程と変わらず――しかし色は純白だった先程と違い水色をしていた。


「ふん。ならばお前から……!」

「弾けろっ!」


 きゅんきゅんきゅんきゅんっ!


 無数に分かれた水色の光の雨が、ディーゴーの体へと降り注ぐ。


「二番煎じだな……!」


 もうアリーナから力を吸い取るのを止めようともせず、逆の左手を軽く翳しただけの防御姿勢を取る。

 そして光の雨を浴びたディーゴーの体は、今度は傷一つ増えなかった。

 逆に、首や耳の肉に付いた傷などは、治って跡形も無くなってしまう。


「くくくっ――もはや傷もつかぬどころか、回復までし始めるとは……! 素晴らしい力だ――!」


 笑い声を上げるディーゴー。

 しかしそれは違う。違うが、訂正する義理も必要もない。


(せ、成功したわ……! これなら――!)


 ラフィニアは心の中でそう頷く。

 この新しい魔印武具(アーティファクト)は、二種類の奇蹟(ギフト)の力を持っている。

 一つは、先ほどから使っていた光の矢を生み、そして操る力。

 そしてもう一つは、傷ついた者を癒す治癒の力だ。


 これまで治癒の力の奇蹟(ギフト)のほうは、相手に直接触れて行使しなければならなかったが――

 今放った水色の光の矢は、両方の奇蹟(ギフト)の力を合わせたもの。

 つまり、攻撃ではなく撃った者を治癒する癒しの光の矢だ。


 失敗してもいいように、ディーゴーに向けて撃って試したが――

 ずっと練習はしていたものの、ここまで上手く行ったのは初めてだ。


「……だったらやるわ! アリーナちゃん、待ってて!」


 ラフィニアはアリーナに向けて弓を構える。

 狙うのは、彼女の二の腕に輝きを放っている『送出印』だ。

 足元を拘束されて動けない今、こうする他はない――!


「あああぁぁぁ……っ! おねえちゃん、痛い――痛いよぅ……!」

「今助けるわ! 痛いけど動かないで、我慢してね!」


 ラフィニアは光の矢を矢継ぎ早に二連射する。


 シュウシュウウゥッン!


 その二つの矢は、それぞれに色が違う。

 先を行く一矢は通常の攻撃用の白い光。そして後に続くのが、癒しの青い光の矢。


 ――先頭の白い矢が、アリーナの二の腕を撃って、通り過ぎる。


「あああぁぁぁっ!?」


 最初の矢はアリーナをまともに傷つけている。痛いのは当然だ。

 しかし続く水色の矢が傷口に当たり――


「あ――あ……あれ? い、痛くない――!?」


 傷口が瞬時に塞がり――そしてそこにあった『送出印』は消え去っており、同時にアリーナを包んでいた光も消えた。


「むぅ……!? まだ全ての力を吸い取ったわけではないぞ――!?」

「残念だったわね! そんな事やらせないわ、絶対に!」


 一つ目の矢で『送出印』を抉り取り、二つ目の矢でその傷口を癒した。

 『送出印』はアリーナの体にとっては異物だ。

 傷を癒しても復元はされず、結果的に『送出印』が除去されたというわけだ。


 咄嗟の試みだったが、上手く行った。

 普段からの訓練が活きた。活かす事が出来た。

 そういう点では、自分も成長しているのだ――と思える。


「そうか――ならば、お前から消えて貰うとしよう」


 ディーゴーが凄まじい速さで、ラフィニアに向けて突進してくる。


「――くっ!」


 足元は拘束されていて、距離を取るため動き回る事が出来ない。


「悪いが、『送出印』はいくらでも私が刻める……! まずはお前に『送出印』を刻み、魔素(マナ)を吸い取ってやろう――!」

「嫌よ! お断りだわ!」


 繰り出された刃を弓の本体で受けるが、力負けして弓が弾かれて地面に落ちた。


「あっ――!」


 拾おうと手を伸ばすが――


「させん!」


 鉄の拳がラフィニアの顔に向けて繰り出されて――


 ズドオオオオオオオォォォォォォンッ!


 突如、耳を劈く轟音と、地震のような揺れが発生する。

 同時に立ち上る巨大な青い光――霊素弾(エーテルストライク)によって、劇場の屋根が完全に吹き飛んでいた。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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