第188話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優41
「三対一、か――」
しかし不利なはずのディーゴーに、焦りの色は感じられない。
「将軍……! このままではいけません――!」
「かくなる上は、我等の力をお使い下さい……!」
「ああ――すまん……!」
ディーゴーはそれまで着けていた厚手の手袋を取り去り、掌を倒れている部下達に向ける。そこには青白く輝く、複雑な方陣のようなものが刻み込まれていた。
雰囲気は、ラフィニアが以前セイリーンの治めるノーヴァの街で見た『浮遊魔法陣』に似ているだろうか。
「『集束魔法陣』――お前達の力、使わせて貰うぞ」
シュウウゥゥゥンッ!
倒れた部下達の身から青白い光が立ち上り、それがディーゴーの掌の『集束魔法陣』に吸い込まれて行く。
その光景は、実際には見えるはずも無いし見た事も無いが、人の魂が抜き取られているようなイメージだった。
そして光を抜き取られた側の暗殺者達は――意識を失い、動かなくなっていた。
「……! な、何……!?」
「彼等の力――私が受け継がせて頂いた――!」
「――つまり、殺して奪ったって言うの……!?」
レオーネの言う通りだ。言い換えれば、そう言う事だ。
「酷い事をなさいますのね……!」
「この状況では、致し方なしっ!」
ディーゴーの体が、吸い取った青白い輝きに満ちている。
「彼等の魂と心意気――無駄にはできんっ! 加速ッ!」
先程から接近戦を演じていたリーゼロッテに向け、突進する。
背面の管から噴き出す炎は、より高熱の青白い炎だった。
ガキイィィィンッ!
ディーゴーの腕からせり出した刃と、リーゼロッテの斧槍が激突する。
「くっ……! 先程よりも速くて強い――!?」
リーゼロッテが確実に圧されている。
「問題ないわっ!」
レオーネが振った剣はグンと伸び、リーゼロッテと競り合っているディーゴーの刃を撃った。ディーゴーに対し、二人分の力が加わった形だ。
「ぐううぅぅぅっ!?」
圧されたディーゴーの体は吹っ飛び、壁に叩きつけられる。
「レオーネ! ありがとうございます――!」
「ええ……! 大丈夫よ、力を合わせれば勝てるわ……!」
視線を合わせて、頷き合う。
「おねえちゃん達、かっこいい……!」
目の前の派手な戦いに、アリーナは目を輝かせていた。
「ああ、さすが騎士様だよな!」
「機甲鳥をダサいって言ってごめんなさい!」
他の子達も、盛り上がり始めていた。
「お、お前ら黙ってろ……! まだ終わったわけじゃねえんだぞ!」
商家の男性がそれを窘めている。
これを見ている限り、本当に単に巻き込まれただけのようにしか見えない。
何故この子達だけ取り残されたのかは分からないが――
さっさと終わらせてしまえば問題ない。
「もうすぐ終わるわ……! もうちょっとだけ、大人しくしててね!」
ラフィニアも加わって、三人でディーゴーを取り囲む。
「さあ、観念しなさい――!」
「逃げられないわ……!」
「三人で力を合わせれば、あなたなど……!」
しかしディーゴーは、まだまだ余裕のある態度を崩さない。
「まだ足りんか――ならば……!」
掌の『集束魔法陣』を、アリーナ達のほうへと向ける。
「うわっ……! な、何だこりゃあ――!?」
商家の男の二の腕の辺りが、激しく輝き始めている。
そこには小さな文様のようなものがあり――今見るとディーゴーの『集束魔法陣』によく似ている。
「それは『集束魔法陣』へと力を送り込む『送出印』。我が力となる贄の証――」
「た、単なる幸運のまじないじゃなかったのか……!? だったら俺達をここに招待したのも……!?」
「済まんな。いざという時の、備えだ――」
「ぐおおぉぉぉぉぉぉっ!?」
商家の男は苦しみ悶え、叫び声を上げはじめた。
恐らく、『集束魔法陣』とやらで力を抜かれるのは、本当はかなりの苦痛を伴うものなのだ。
ディーゴーの部下達は、痛みを感じ無い体だったから、声を発さなかったに過ぎない。
シュウウゥゥゥンッ!
先程と同じように、青白い光が男から抜き取られ、ディーゴーへと吸い込まれて行く。
「あああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
商家の男が、白目を剥いてその場に倒れ伏してしまう。
「「「お……おじさあぁぁぁんっ!?」」」
子供達が悲鳴を上げる。
「な……!? 止めなさい! 無関係な人まで……!」
だがこれで、アリーナ達がこの場に残されてしまった理由も分かった。
『送出印』とやらのせいだ。それをイングリスが『魔素の流れが普通じゃない人』と判断したのだ。
その見立ては正しかったのだろうが、逆にそれが裏目に出てしまった。アリーナ達も避難に巻き込んでいれば、ディーゴーもこんな真似は出来なかったはずだ。
「ラフィニア! リーゼロッテ! 今すぐに倒しましょう!」
「ええ、もう容赦しませんっ!」
「加速ッ!」
ディーゴーがラフィニア達の囲みを突破してしまう。
そして、再びアリーナ達に掌を翳す。
「まだまだ――! 力が足らんッ!」
そして次に『送出印』が光り始めたのは、アリーナだった。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「あ、アリーナちゃんっ!?」
「――ふ、ふふふふふ……っ! これは素晴らしい――かなりの魔素の持ち主だ。これならばお前達を倒し、任務を果たす事も……!」
どんな高尚な目的や志があるのかは知らないが、こんな事をする者は外道だ。
何の罪もない子供を巻き込むなど――絶対に許せない!
「許さない――っ! これを、食らいなさいっ!」
最大の威力を込めて、光の矢をディーゴーの顔面に向けて放つ。
体の部分は痛みも感じず、破壊されてもまだ動くが――
頭を吹き飛ばされれば、一撃のはず。もはや手段を選んでいるような場合ではない!
最大限の太さの矢は光の奔流のように、ディーゴーに迫る。
「凄まじい威力――! だが『集束魔法陣』を持つ私は、吸えば吸うほど強くなるっ!」
腕からせり出した刃やその右腕が、強い光に覆われていた。
そしてそれを、力任せにラフィニアの光の矢に叩きつける。
バシュウウゥッン!
「――!? 押し負ける……!? なら――こうっ!」
ラフィニアの意思に従い、大きな光の矢が無数の細い光の雨へと拡散する。
それが一斉に、ディーゴーの身へと降りかかった。
「ぬうっ……!? 小賢しい真似を――っ!」
この至近距離で圧倒的な数に拡散されてしまえば、全て迎撃することも、避けることも難しい。
ディーゴーは太い腕を体の前で組み、防御姿勢を取らざるを得ない。
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