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第183話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優36

「ですが、アルカードの国にとてもそんな余裕はありません――今まで精一杯だったんです……! だから大戦将(アークロード)のイーベル様の命に従って……! 上手く行けば、天恵武姫(ハイラル・メナス)を下賜して頂けるんです……! そのために、国王陛下は決断されました。そのためなら、僕もこの身を捧げます――!」

「それじゃ自分達さえ良けりゃ、他はどうなっても構わねえって事だろうが――! あの温厚な親父が、そんな……っ!」

「ラティ! それは……!」

「ラティ君! いけません……っ!」


 プラムばかりかイアンまで、口を滑らせたラティを窘めていた。

 そうするあたり、イアンは本当にアルカードの国の意志、命令でここにいるという事なのだろう。

 ラティの発言内容から、彼がアルカードの王子だというなら、それはアルカードの人間にとっては何をおいても守るべき対象となる。


 イアンがディーゴーという将軍と話していた時、何か反対するような気配だったのはそのためだろう。

 ラティを巻き込む可能性があったからだ。


 今こうしてしっかりラティを隔離している所を考えると、イアンとしても狙い澄ましたタイミングで行動を起こしたのだろう。


「――あんまり驚かねえんだな、イングリス」

「最初に、イアンさんも何か言ってたし――ね」


 イアンを疑ってかかった場合、あの発言も気にはなっていた。

 だからそういう予感も無くは無かった。


 それに――イングリスは『王子様』という存在に惹かれるものがない。

 これがラフィニア達普通の少女だったら色めき立っただろうが、イングリスにはその肩書に興味が持てない。

 イングリスから見る男性は――強いかどうか、そして本気で手合わせをしてくれるか、それだけである。

 そういう意味ではラティよりイアンに興味があるかも知れない。


「……他には黙っといてくれよ? 元々身分を隠して、留学して来たんだ――」

「うん。分かった――じゃあもう戦っていい?」


 あの機甲鳥(フライギア)のように機械化された体は、どのような力を持っているのか――

 地上人から天上人(ハイランダー)になったラーアルやファルスに比べて、強さはどうなのか?


 戦闘力に特化すればああなるのか――

 単に天上人(ハイランダー)の体を与えるような功績が無い者に、力を与える代わりに絶対的な服従を強いるための仕打ちなのか――

 あの状態になってしまえば、天上領(ハイランド)の技術無くして生命維持をすることは難しいだろう。

 つまり、生き続けたければ絶対服従するしかない。


 イーベルという天上人(ハイランダー)は、見た目は少年だがかなり残酷な性格をしていた。

 楽しみのために人をああいう姿に変える事も、平気でするだろう。

 ――どちらかは、戦ってみれば分かる。


 天上人(ハイランダー)のファルスと同様の異空間を生み出している事を考えれば、互角以上のものは期待できるだろうが――

 イングリスとしては、もっともっと上を求めたい所だ。


 もうキスシーンという最強最悪の危機は去った。


 あとは絶妙に舞台を壊してくれたイアンに感謝をしつつ、見た事の無い機械兵士とも言うべき存在との闘いを楽しみたい――のだが、そうも言っていられない事情がある。


「ちょ、ちょっと待ってくれ……! もう少しあいつを説得させてくれ――!」

「ごめん。ラニが心配だから――早く見える所に行かないと……」


 ここにいると、空間の外で別動隊と戦っているであろうラフィニアの様子が見えない。

 見える所にさえいてくれれば、時間をかけて手合わせを楽しみたい所ではあるが――

 だが、物ごとには優先順位というものがある。


 まず第一に、ラフィニアの安全を確認できる場所を確保する事。

 それが出来ていないと、安心して楽しめないのだ。


「……わ、わかった。どの道俺にはどうする事も出来ねえからな、情けねえけど――」

「そんな事ないよ、じゃあ後は任せてね」


 イングリスはラティの肩をポンと叩き、前に進み出る。


「警告します。イアンさん、わたしを足止めしたいのであれば、今すぐ元の空間に戻して下さい。ラニの安全が確保されれば、あなたとゆっくり戦うのも吝かではありません。ですが要求を聞いて頂けないならば――容赦はしません」

「……それはお断りします。それにいくらあなたが強くても、この場所ならば先程のような力は出せません。僕を倒す事は不可能です――」


 イアンは冷静にやや無表情に、そう答える。


「では、倒させて頂きます」

「やれるものな――」


 ズシュウゥゥッ!


 音と共に、イアンの目が驚愕に見開かれる。


「ら、ああぁぁぁぁぁぁ……っ?」


 イングリスの貫手が、イアンの胸部を貫き背中から飛び出していた。

 手加減無しで霊素殻(エーテルシェル)を発動した全速力である。


 ラフィニアのためなら、相手の強みを受け止めて、そして勝つという戦いの王道も放棄せざるを得ない。その事に迷いはないのである。


「ば、馬鹿な……全く見えなかった――ど、どうしてこんな力が……!?」

「済みません、今は説明する時間がありませんので――」


 ビシュビシュビシュビシュッ!


 霊素(エーテル)を帯びたイングリスの手刀が、イアンの体をいくつもの破片に斬り刻んで行く。

 機械化された体はガランガランと音を立てて、その場に転がって何も言わなくなる。


「す、すげえ……! で、でも……あっけないもんだな――」

「イアンくん――」


 ラティもプラムも、顔を伏せて辛そうな顔をしていた。


「ううん、まだ終わってない」


 イングリスだけは、警戒を解かなかった。

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