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第180話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優33

「はあぁっ!」

「キスシーンを諦めない。絶対にだ――」


 イングリスの追撃の蹴りを、ユアは片手を構えて受ける。

 不利なその姿勢では、体ごと弾き飛ばしても可笑しくはなかったのだが――


 ドガッ!


「むっ……!?」


 全く、微動だにせずに受け止められてしまった。


「キスシーンキスシーンキスシーン――」


 返しに飛んで来た拳を受けると――


 先程までとは明らかに次元の違う力で、守りごと大きく弾き飛ばされた。


 ドゴオォォォンッ!


 受け身も間に合わず、イングリスの体は背中から壁に激突する。


「ぐうぅぅ……!? す、凄いですユア先輩――!」


 これは、エリスやリップル達天恵武姫(ハイラル・メナス)をも上回る力かも知れない。

 素晴らしい! まだ力を隠していたとは――


「すごいばっきゅん」


 今度の光線は虹色の尾を引くような輝きだった。


霊素穿(エーテルピアス)!」


 光がぶつかり合って――霊素穿(エーテルピアス)が押し負けて消滅した。


「くぅっ!」


 飛んで軌道を避ける。ユアの放った光が壁に大穴を穿った。

 ――知らない。後処理はワイズマル伯爵に任せよう。


 ユアに視線を戻した瞬間、すでにその姿は掻き消えていた。

 この状況ではイングリスにはユアの動きが追えない――はずだったが、違った。


「……! 分かるっ!」


 先程からユアの力は明らかに増していた。

 増している分――魔素(マナ)の動きが大きく分かり易くなっていたのだ。

 恐らくユアにとっても慣れない力で、それ故に周囲に合わせて流れを隠蔽する程に制御できないのだろう。

 これでは視覚的に消えただけ。

 魔素(マナ)の流れは目に見るよりも明らかだ――


「見切った――!」


 渾身の蹴りで、飛び込む!


 ドカッ!


 蹴りは狙い通り、姿を現したユアを捉える。

 しかし、先程と同じく微動だにしない。


 これは明らかに、ユアの力が一段上の、次元の違うものになったという事――

 ならばもっと上の戦いが、楽しめる!


「はあぁぁっ!」」


 霊素殻(エーテルシェル)を発動したイングリスの体が、青白い光に包まれる。


「反撃」


 ズガアアアァァンッ!


 ぶつかり合った拳の威力。今度はその余波が吹き上がり、天井を打ち貫いて立ち上って行った。

 ――知らない。今はもうこの戦いを、止める気はない!

 この目の前のユアと、至福の一時を……!


 と、ユアを見て一つ気が付いた。


「ユ、ユア先輩――その耳はどうしたんですか……!?」

「ほえ? 耳?」

「気付いていませんか? リップルさんのような耳が――」


 いつの間にかユアの頭部に、ぴょこんと生えているのだ。


「お? ほんとだ何かある」

「それに尻尾も――」

「おお、ふさふさ。きらきら」


 まるで獣人種のような耳と尻尾が生え、それがキラキラと虹色に輝いているのだ。

 獣人種。虹色。強大な力。つまり、つまり――

 そう、今のユアの力の雰囲気は、あの先日現れた――

 元はリップルの父親だという虹の王(プリズマー)によく似ているのだ。


「ま、まさか虹の王(プリズマー)の力……!?」

「……って何?」


 きょとんと首を捻られた。


「いや……魔石獣の最強種です。この間現れて、ユア先輩が取り込まれてしまった――」


 ユアはあれを何だと思っていたのだろう?


「おお。キラキラした化物」

「え、ええそうです――それと同じ耳と尾が、今ユア先輩に……」


 これはどういう事なのか?

 ユアはあの虹の王(プリズマー)の幼生体に取り込まれていたが――?


 考えられるのは――あの時は、ユアが吸収されて消えてしまうかも知れないと皆心配していたようだが、逆だったかも知れないという事だ。

 つまり、ユアのほうが虹の王(プリズマー)の力を吸っていたのだと、イングリスは推測する。


 自然現象に近い位に自らの魔素(マナ)を環境に同化させる力を持つユアならば、虹の王(プリズマー)の体内環境にも紛れてしまえたのだろうか? そして同化して、力を奪ってしまったと……?


 もしかして、リンちゃんがユアを異様に怖がっていたのは、そのためだろうか?

 自分も魔石獣の一種ゆえに、その最強種である虹の王(プリズマー)の力をユアに感じて怯えていた――と? そう考えるとあのリンちゃんの反応も納得がいく。


 顔を忘れたと恐ろしい事を言っていたユアの父親の、世界に還れという教えは凄いものだ。ユア共々、一体何者なのだろう。興味が尽きない。


 推論は間違っているかも知れないが、事実として今のユアは虹の王(プリズマー)のものらしき力を宿している。

 体に特に問題が無いのならば、強い先輩がいるのはいい事だ。


「何にせよ、素晴らしい力ですよ! さあこのまま手合わせを続けましょう――」


 それに、前回のあの虹の王(プリズマー)も、ユアに力を吸われていたため本来の能力では無かったとすれば、それもいい事だ。

 本当の万全な虹の王(プリズマー)は、もっともっと強いというなら、より戦い甲斐があるというものだ。


 面白くなってきた――! これなら全力での手合わせが出来る――!


「ごめん。なんか眠い」

「え?」


 ばたん。


 ユアがいきなり、その場に倒れた。

 そしてすうすうと寝息を立て始める。虹の王(プリズマー)の耳と尾も消えていた。


「あ、ちょっとユア先輩、起きて――」


 会場に、ワイズマル伯爵の甲高い声が響き渡る。


「かくして、ユーティリスに勝利したマリアヴェールは、マリク王子の元へ向かうのでした――」


 わあああぁぁぁっ! ぱちぱちぱちぱちっ!


 観客から歓声と、拍手。


 舞台転換のために幕が下りて――


「いやあ、劇場が壊れる前に決着ついて良かったな――」

「で、でも何日も持ちませんよ、これじゃ」


 と言いながらサッとラティとプラムが出て来て、ユアを抱え上げて舞台袖へ連れて行った。


 これはつまり――イングリスが勝ってしまった流れになっている……!


「し、しまったあぁぁぁぁぁぁっ!」


 夢中になり過ぎて、勝ちをユアに譲る機会を逃してしまった……!


「しーっ……! 大声出すな、お客さんに聞こえるだろ……!」

「キスシーン、頑張って下さいねっ」


 ラティとプラムに、そう言われてしまう。


 これはまずいこれはまずいこれはまずい――!

 イングリスの心の中を、ただそれだけが支配していた。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、イングリスならやらかしちゃうよね。 予想してたのとは違うけどw
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