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第176話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優29

 幕が上がり最初の場面は、イアンが演じるマリク王子が、普段は立ち寄らない劇場に足を運ぶ所から。

 姿を現したマリク王子の姿を見た会場の女性客が、こう囁き合う。


「あの子、結構可愛い顔してるわね」

「うん。声もね、王子様っぽいわ」

「いい感じ――」


 評価は悪くない様子だ。

 ユアの好みに合わせた配役だが、それが一般的なようで助かった。


「――民の心を知るには、民の楽しみを知らねばならぬ。ここへ行けば、分かるだろうか」


 大きく伸びのある声でマリク王子は言い、そして舞台は一時暗転。

 ――イングリス達の出番。劇場で踊るマリアヴェールのシーンだ。


 イングリス達は頷き合って、暗転の舞台の中央へ。

 ラフィニア達四人は客席に対して横一列に並び、イングリス一人がその前に進み出る。

 一呼吸おいて――


 ぱっ。


 範囲を絞った照明が、イングリス一人だけの姿を照らし出した。


「「「おお……!」」」


 瞬間、客席中からどよめきが起こる。

 先ほどのイアン演じるマリク王子よりも、何倍も大きな――


「「す、すげえ……!」」

「「とんでもなく可愛いぞ、あの娘――!」」

「「吃驚するくらい、きれいね……!」」

「「絵の中から飛び出して来たみたいよ……!」」


 口々にあちこちから、感嘆のため息が漏れ聞こえる。

 暗い中一人だけを照らす演出のおかげで、イングリスの姿もより引き立っていた。

 それがこの観客の反応に繋がっていた。ワイズマル伯爵の手腕の賜物である。


「イングリス殿ーーーーっ! お綺麗ですぞーーっ!」

「「「イングリスちゃーーん!」」」


 野太い声援が響き渡る。

 ――カーリアス国王が座っている近くだ。

 つまりレダスと、その部下の近衛騎士団の面々だ。


「……」


 恥ずかしいので止めて頂きたい。

 そもそもここであんなに大きい声を出すのは、行儀の面でどうなのだろう。

 案の定、カーリアス国王がすぐ反応し、レダス達は窘められている様子だ。

 遠いので、聞こえないが。


「「「マリアヴェールちゃーーん!」」」

「……!?」


 声援が役名に変わっただけだった。

 一体カーリアス国王は何と言ったのだろう。

 ちゃんと役名で呼べ、と? そういう問題ではない気がするが――


「……ふぅ」


 ともあれ一つ呼吸を整え、静止していたイングリスはゆっくりと円弧を描くように両腕を上げ、踊りの動きに入る。

 その後を追うように、劇団の面々が演奏する楽器の旋律が流れ始めた。

 照明がイングリス一人から舞台全体に広がり、合わせてラフィニア達も動き出す。


 踊りながらちらりと横目で様子を窺うと、ラフィニアは満面の笑顔で、元気よく溌溂と踊っている。見ているこちらが楽しくなるような、そんな華がある。

 出来れば自分は観客として、ラフィニアの姿を見ていたいと思えて来る。


 生真面目なレオーネは緊張に少し頬を紅潮させながら、忠実に振り付けを再現している。踊りの振り付けは身体能力抜群の騎士アカデミーの生徒用にと、かなり激しく複雑にされている。

 そのせいかレオーネの豊かな胸元はかなり揺れるのだが、そこに視線を感じて恥ずかしいのかも知れない。まだまだ初心な少女ゆえ、仕方のない事だろう。

 イングリスはワイズマル劇団の舞台に立つのは二度目なので、ある程度慣れているが。


 リーゼロッテは堂々としたもので、自信に満ちた強気な表情がある意味挑発的で、これも見る者の目を惹く魅力がある。元宰相の娘であり、皆の中で一番の大貴族の令嬢だ。

 幼い頃から周囲からの注目を当然として育った者の威厳が、舞台の上で輝きとなっている。


 プラムは表情も動きもとにかく一生懸命で、必死な様子だ。多少動きはおぼつかないが、健気な頑張りは伝わって来る。舞台袖のラティが、心配でたまらないという表情でプラムの動きに一喜一憂しているのが面白い。


 皆それぞれの魅力を発揮しているが、やはり一番の注目を浴びているのはイングリスだった。少し戯れに流し目をしてみたり、にっこりと笑顔を向けるだけで、客席から歓声が漏れる。


 客席の中にいるアリーナの様子を窺うと、目を輝かせて舞台上を見つめていた。楽しんで貰えているだろうか? だとしたら幸いだ。


 母セレーナのほうを見ると、確実に目が合った。笑顔を向けると、うんうんと頷きながら目を細めてくれていた。

 喜んで貰えているだろうか? いくら自分に前世のイングリス王の記憶があろうと、自分の母として、慕っている存在である事は間違いがない。

 自分は結婚をするつもりも子を作る気も無いので、花嫁姿も孫の顔も見せられないだろう。だから出来るうちに親孝行をしておかなければ、と思う。


「よし――」


 さらに盛り上げる、というわけではないが――


「はあぁぁっ!」


 イングリスは高く飛び上がり、くるくると空中で回転をしながら、客席の真ん中を仕切る通路へと降り立った。

 台本には無かったが、ワイズマル伯爵に申し出て許可して貰った動きだ。


「「おおっ!?」」

「「す、すごい飛んだぞあの娘――!」」


 より皆に見て貰えるように、より皆の息遣いを、それぞれの魔素(マナ)の流れまでをも感じられるくらいに――


 そうして音楽が終わりに近づいて来ると、イングリスは再び足元を蹴って、舞台へと跳び上がった。

 そして音楽の終了に合わせて全員が集合し、見得を切った。

 客席からは割れんばかりの拍手が起こり、イングリス達五人に降り注いだ。


 余韻を楽しむように一拍を置いた後、イングリス達は舞台袖へ。


「うーん。気持ち良かったわね~」

「な、何とか上手く行きましたぁ~」


 ラフィニアは満足そうな笑みを見せ、プラムはほっと胸を撫で下ろしていた。


「お、思った以上にちょっと恥ずかしかったかな……ちゃんと出来たのかしら――」

「大丈夫ですわよ、レオーネ。自分が気にしているから、人の目が気になるのですわ」


 レオーネとリーゼロッテはそう感想し合っている。


「おいプラム――! 思ったよりマシだったぞ、褒めてやらあ!」

「わ! ラティがそんな事言うなんて、じゃあご褒美に頭を撫で撫でして下さいっ」

「やだよ、なんでそんな……!」


 と、仲睦まじいのを横目に見つつ、ラフィニアがそっと耳打ちしてくる。


「で……? どうだったのクリス?」


 その声と表情は、先程までと打って変わって真剣だ。


「うん。思った通り――今から言うから、校長先生に伝えて」

「分かった……!」


 イングリスとラフィニアは、そう頷き合った。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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