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第173話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優26

「人買い……!? そんな――禁止でしょ!? そんなひどい事……!」

「ユミルではね? 侯爵様が凄く頑張ってそうしてるんだよ」


 家族――特に娘の前ではくだけた姿も見せるが、あれで一廉の仁君なのである。

 自分の前世、イングリス王の時代に家臣にいたとしたら、やはりある程度の領地を任せているだろう。

 ビルフォード侯爵は、それに足る人物である。


「でも王国法で……!」

「あれは国王陛下の直轄地だけの話で、貴族の領地ではそんな決まりないよ?」

「ここ王都なんだから、直轄地じゃない!」

「でも、他所で取引してこっちに移動して来たら分からないよ?」

「それはダメでしょ! ちゃんと調べて、取り締まらないと!」

「でも、取り締まってないと思うよ?」

「何でよ?」

天上人(ハイランダー)が勝手に地上の人を攫ったりするじゃない? 厳密にやると、それも取り締まらないといけなくなるから。それって天上人(ハイランダー)に攻撃するのと一緒でしょ? やりたくないから、一般人への取り締まりも緩くするの。そうじゃないと自分達ばっかりって不満がたまって、反乱が起きかねないから」


 もし直轄地で明らかにそのような事があったとしても、そこで起きた事ではなく、別の貴族の所領で起きた事として、事実を葬る事が可能になるわけだ。

 そもそも、王国法に人買いの禁止という項目がある事体、現状とは矛盾するようにしか見えないが。

 一切の良心と良識を排除して考えるなら、そんな項目は無い方が、こうしてラフィニアのように義憤に駆られる者に大義名分を与えずに済む。

 国が王国法を守っていない! と非難されれば、その通りとしか言いようがない。


 人間、自分が正しいと確信すれば行動が過激になってしまうもの。

 それを行った者を、イングリス達は目の当たりにしている。レオンだ。

 レオン程の聖騎士を離反させてしまう現状が、確かにこの国にはあるのである。


 しかし、現状に沿うように人買い禁止の項目を削除するなど、出来るはずもない。

 そんな人道的な決まりを自ら無くせば、自分は冷酷無情な愚王だと宣言するに等しい。 一気に求心力を失う事になる。


 カーリアス国王は決して愚かな人物ではない。

 現状の矛盾を分かりつつも、何とか騙し騙しやっていく他は無いと思っているだろう。


「セオドア様はそんな事しないわよ!」

「セオドア様も言ってたじゃない。自分達みたいなのは少数派だって」


 しかし、この項目の成立は何十年も前の話だと習ったが、そうだという事はその当時の王国は、この項目を作っても大丈夫な状態であったと推測される。

 つまり天上人(ハイランダー)の地上での無法は、今ほどではなかった――と考える他はない。穏便に近い状態だったのだ。

 では天上人(ハイランダー)の態度の急変の理由は――?

 何かあるのだろうか? 天上領(ハイランド)の事情は、セオドア特使に質問してみれば分かるかも知れないが――


「じゃあ、セオドア様の言う事聞かない奴らは叩き出せばいいのよ!」

「……血鉄鎖旅団に入る?」


 ばしっ! ばしばしっ!


 後ろから背中を叩かれた。


「いたっ!?」

「……じゃあどうしろって言うのよ――!?」


 ちょっと拗ねさせてしまったかもしれない。


「それは、ラニが決める事だよ? わたしは知って欲しいだけ。そのほうが可能性が多くなるから――でも一つ確かなのは、わたしはずっと一緒だよ?」

「……あたしが血鉄鎖旅団の仲間になるとか言い出したら?」

「……黒仮面の人とかシスティアさんに謝らなきゃね。許してくれるかなあ」

「ったく、クリスは何でもあたしに押し付けようとするんだから」

「その代わり、世界で一番強くなってみせるから。存分に使ってね?」

「はいはい――ごめんね、アリーナちゃん。あたし達無神経で何も知らなくて――ほんとにごめんなさいっ!」


 深々と頭を下げるラフィニアに、アリーナは面食らった様子だ。

 確かに、子供相手にここまでするお姉さんも珍しいだろう。


「う、ううん……私の事心配してくれてるんだし――でも大丈夫だよ。私が住んでた村、私が出て行った後魔石獣に襲われて、無くなっちゃったんだ。お父さんもお母さんも、それで……だから、二人は私を逃がして、助けてくれたんだって思うようにしてるの」

「アリーナちゃん……」

「凄いね。強いね」


 ラフィニアはアリーナをぎゅっと抱きしめ、イングリスは頭を撫でた。


「お、大袈裟だよ……今いる所も、そんなに悪くないし――」


 アリーナはちょっと困ったように、微笑んでいた。


「ありがとう、おねえちゃん達! すっごく楽しかった! でももう帰らないと――」


 気づけばもう完全に夜だ。子供が出歩くには遅い時間である。


「そうね、じゃあ家まで送るわね! クリス、お願い」

「うん。じゃあ行くよ」


 星のお姫様(スター・プリンセス)号は、来た時よりはゆっくりと、ボルト湖畔を後にした――

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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『イングリスちゃん!』


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