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第169話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優22

 イングリス達がワイズマル劇団の公演のために稽古を始めて、暫くの期間が過ぎた。

 もう本公演の開始も間近だ。

 その間、イングリス達の食事は劇団の方で用意してくれて、非常に有り難かった。

 そしてついに――


「と、とうとうこの日が来たわね、クリス――!」

「うん。長かったね、ラニ――!」


 イングリスとラフィニアの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「ここまでよく頑張ったわよね、あたし達……!」

「うん。自分で自分を褒めたい……!」


 これまでのお互いの忍耐の日々に思いを馳せて、健闘を称えてぎゅっと抱き合う。

 再建された、騎士アカデミーの新校舎。まだまだ工事中の部分も多いが――

 二人の前には、食堂の入り口の扉があった。今日から再開になるのだ。

 いても立ってもいられず、営業開始前からこうして待機している。

 もうすぐだ、もうすぐ待ちに待った時が――


「いや、泣く程の事なのかしら――」

「そもそも、食堂が開いていない間は、劇団の賄いを散々食べていたではありませんか」


 レオーネとリーゼロッテは、少々呆れ気味だ。


「メニューが少なくても、我慢してたもん!」

「食べる量も、劇団の皆さんの分が無くならないように控えてたし!」

「「あ、あれで……?」」


 劇団の料理当番の人達が頭を抱え、これでは公演しても採算がとれるかどうかと悩んでいたのに――

 ワイズマル伯爵は、いい公演が出来ればそれでいいと気にかけていないようだったが。


 と、食堂の扉が軽い音を立てて開け放たれた。


「おや? 並んで待ってくれてたのかい? お待たせ! 食堂の再開だよっ!」


 顔見知りの食堂のおばさんが、笑顔で迎え入れてくれた。


「きゃーっ! やったわ! 超特大全部乗せ激辛パスタがあたしを待ってる!」

「わたしもだよ! 何人前、食べられるかな……!?」

「いや……この後、また劇団の稽古があるでしょう?」

「あまり食べ過ぎると、動けませんわよ」

「「腹が減っては戦は出来ぬ……!」」


 声を揃えるイングリスとラフィニア。もはや食べ物の事しか頭にない様子である。

 と――


「ああやっぱりここにいましたねえ、イングリスさん、ラフィニアさん!」

「あ、校長先生――」

「こんな所でこんなことしてる場合じゃないですよお!」

「え? どうかしたんですか?」

「劇団の稽古までは、まだ時間があるかと思いますが――」

「違うんですよぉ! 大事なお客さんが来てますよぉ!」

「はあ……?」


 それは本当に、食堂の超特大全部乗せ激辛パスタを上回る大事な用件なのだろうか。

 また前みたいに、王城に呼び出されて面倒な役職を打診された挙句、ごちそうを食べ逃すなどと言う悲しい出来事になりはしないだろうか。正直、気は向かない。


「それって、食堂でご飯食べた後じゃダメですか?」


 ラフィニアも、イングリスと同じ感想だったようだ。


「ダメです! お待たせしては失礼ですよぉ!」

「うーん仕方ないか……」

「すぐ行ってすぐ帰ってこよう、ラニ」

「うん。そうね――」

「校長室でお待ちですから、すぐ行きましょう」


 イングリス達は、食堂はお預けにして校長室へと向かう事にした。


「ふぅ~よかった、食堂を食べ荒らされる前で――再建で予算も厳しいですし、少しでも節約しないと……」


 ミリエラ校長はこっそりと、そう呟いていた。

 そして校長室に行ってみると――


「イングリス!」

「ラフィニア!」


 そこに待っていたのは、成熟した美しさの、大人の女性が二人――


「お母様!」

「母上!」


 母セレーナと、伯母イリーナだった。


「お母様っ! ここに来てくれるなんて――! 会えて嬉しいっ……!」

「ふふふ――まだまだ甘えん坊ね、ラフィニアは」


 ラフィニアは一目散に伯母イリーナに駆け寄って、自ら抱き着いた。


「クリスちゃん……! 元気だった? お母さん、心配していたわよ……!」

「はい母上。問題はありません、お会いできて嬉しいです」


 イングリスはラフィニアほど子供っぽい振る舞いはしないが、向こうから抱き締められては抵抗できない。懐かしい温もりが心地良いのは確かだった。

 いくつになっても子にとって、母親は母親。前世の時代は孤児だったイングリスにとって、母親という存在の尊さ、ありがたさは人一倍身に染みて、実感できる。


「問題――無いんですかねえ……? いやでも、うーん――」


 ミリエラ校長が唸っている。


「あの――娘が何かご迷惑をおかけしていますでしょうか……?」

「あ、いえいえ……とんでもない! お二人とも優秀な生徒さんで、色々助けて下さっていますよお」

「そうですか。安心しました」


 と、母セレーナは笑顔を見せる。


「ですが母上、どうしてこちらに――?」

「毎年、侯爵様から国王陛下に税をお納めしているでしょう? 今年からは、あの空飛ぶ小船……」

機甲鳥(フライギア)機甲親鳥(フライギアポート)ですね」

「そう。あれで王都からお役人がやって来て、税を納めるための移動を手伝って下さるようになったの」

「それはいい事ですね。陸路で運ぶより安全で速いです」


 従来ならば、陸路で王都まで税を運んでいた所だ。

 辺境のユミルからは時間がかかるし、道中魔石獣に襲われる危険もつきまとう。

 王都側から機甲鳥(フライギア)を回して回収してくれれば、安全度も輸送の速さも増す。陸上型の魔石獣からは襲われないし、飛行型の魔石獣も振り切れる可能性が高い。


 本来は領主側が輸送の手段や人を手配する所だが、機甲鳥(フライギア)は最新鋭の兵器。田舎のユミルではまだまだ普及していない。

 ゆえに王都側から派遣をするという事になるわけだ。

 最新の技術を柔軟に取り込んだ対応だろう。気が利いている。


「ええ。それでね、侯爵様も王都に戻る機甲鳥(フライギア)に同乗して、国王陛下にご挨拶なさるという事だったから、私達も連れて来て頂いたの。あなた達の顔が見たかったから――お父さんはお留守番で、残念がっていたけれど」

「そうですか――父上にもお会いしたかったですが」

「わ! じゃあお父様も来てるのね! やったぁ!」

「ラフィニア。あまりはしゃがないのよ? クリスちゃんの気持ちも考えてあげなさい」


 と、伯母イリーナはラフィニアを窘める。


「構いませんよ。侯爵様とお会いできるのは、わたしも嬉しいですから」

「そう? 本当にクリスちゃんはしっかりしてて、大人よねぇ。クリスちゃんがラフィニアと一緒にいてくれれば、安心だわ」

「いえ、わたしなどまだまだ力不足です。ラニに不順な異性交遊になど興味を持たず、騎士候補生としての修練にのみ専念するように言って下さい」


 精神的には男性である故か、ラフィニアがやれ誰々が格好いいとか、どういう人が好みだとか、セオドア特使が素敵だとか、そういう事を言うのを止められないのだ。

 ここは母親であるイリーナに、強く釘を刺しておいてもらいたいのだが――


「ええっ!? 何々、ラフィニア彼氏が出来たの? 良かったわねえ、ねえどんな子どんな子? この機会に紹介してくれるのかしら?」


 イリーナはキラキラと目を輝かせるのだった。

 こういう時の眼差しは、ラフィニアにそっくりである。


「伯母上えぇぇぇっ! 違いますそうではありません! ラニに為すべき事に専念するようにお説教を――」

「あら? 若いうちに恋をする事も重要なお勉強よ? で、どうなのラフィニア?」

「えー。彼氏なんてできてないわよ。そりゃまあ、できたら欲しいけど――」

「じゃあ誰か、いいなって思う人はいるの?」

「えー? えへへ――」


 何のえへへだ――!

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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