第165話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優18
「どわああぁぁぁぁっ!?」
間一髪、ラティが舵を切って星のお姫様号から発射された光を避ける。
これで大丈夫――なのはいいが、それだけで済ませるのは勿体ない。
「はあっ!」
イングリスはラティの機甲鳥から飛び出すと、壁を蹴って勢いを増しつつ、光の起動に先回りをする。
そして――掌をかざして魔術光を受け止めた。
バヂイイィィィィッ――!
「「「な……!? 受けた!?」」」
イングリスの行動が予想外だったようで、皆驚いていた。
「ちょ……!? く、クリス大丈夫――!? 煙が出てるわよ!?」
「うん。ちょっと熱いけどね」
「火傷したらどうするのよ? 避けられてたのに――!」
「いや、やっぱり攻撃は避けるより受けた方がいいじゃない?」
あれは故意ではないにしろ、間違いなくユアの力が込められたもの。興味を惹かれたのだ。
「いやいや、その理屈はあたしには分からないわよ」
「じゃあ、壁が壊れて怒られるのも嫌だし?」
「まあそれなら理解可能ね――」
「ごめん。わざとじゃなかったけど――」
ユアもきょとんと首を捻っている。
「いえ。きっと、その星のお姫様号の機能が暴発したんです」
星のお姫様号は天上人用の機体を鹵獲したもの。純粋な天上人仕様である。
イングリスとラティが協力して調べた所、騎士アカデミーが保有しているものには無い機能も有している事が分かっている。
それが今の、魔術を増幅して船首砲門から発射する武装だ。
これは魔印武具と違って自動的に魔素の流れを制御する仕組みは持っていない。
だから少なくとも、自分自身で魔術やそれに近い力を発動できる必要がある。
ゆえに天上人用の機能なのだが、ユアは特別なのだ。
前に素手の手刀で魔石獣を切り裂いた事があったが、魔術的な力を肉体に纏わせて具現化できるのかも知れない。
例えばイングリスが使う霊素殻を、魔素で行うようなものだ。
ユアの場合、単なる魔素では無く、非常にその動きが見え辛く、強いという特徴もあるが。
だから今の光の威力も一見して感じた予想以上に威力が高く、受けた掌が少々ヒリヒリしていた。
ユアの様子から故意ではなさそうなので、彼女は常に魔術的な強化状態にあるのかも知れない。その力が、意図せず砲門に流れ込んでしまい発射されたのだ。
「やばそう。私これに乗らないほうがいいね」
ぴょんと飛び降りる。かなり高い天井に近い位置からだが、すたんと実に軽く着地していた。
「そうですね! やはり普通の機甲鳥がいいですよ」
ならばあの可愛らし過ぎる星のお姫様号で大勢の前に出なくてもいい。
「ダメよ! どっちにしろ色は塗るからね!」
と大声を出したから、というわけではないだろうが――
ぐらり、と星のお姫様号の船体が大きく傾いた。
「えっ!? ウソ、機関停止!?」
急に武装を起動したせいで、機関部に故障が発生したのかも知れない。
浮力を失い、星のお姫様号が落ちて行く。
その真下にいたユアは――
「ん。いかん、ずれた」
何がと言うと、ラフィニアが仕込んでくれた、胸を大きく見せるための詰め物だった。
それに気を取られて、ユアは全く無警戒の様子である。
「あ、危ないっ!」
そんなユアを押し退けて助けようと、人影が飛び出して来た。
こちらと歳もそれほど変わらない、少年のようだ。
ワイズマル劇団の関係者のようだが、勇気のある行動と言える。しかし――
どんっ!
ぶつかっただけで、ユアはビクともしない。
少年は単にユアに抱き着いただけのようになってしまう。
「え、えぇ……!? 動かない――!?」
「ん?」
少年が驚愕に目を見開き、ユアはきょとんと首を捻る。
「ユア先輩、危ない避けてえぇぇっ!」
そこにラフィニアの悲鳴が。
「おっ?」
ばしっ!
ユアは落ちて来る星のお姫様号を、片手で無造作に受け止めていた。
小柄で華奢な体に似合わない、その怪力。流石だ。
イングリスも受け止めに回り込もうとしていたが、その必要はなかったようだ。
「あ、ありがとうございますユア先輩。助かりました! 落ちたらこの子も壊れちゃう所だったし……!」
「うん。胸パッドの借りは返した」
「ラニ、怪我は無い?」
「うん大丈夫よ」
「で――何してるの?」
と、ユアはまだ腰に抱き着いている少年に顔を向ける。
「あ、あはは……通りかかったら、それが落ちて来るのが見えたもので――一応助けようと……あははは――」
まさかこの少年も、この華奢なユアがビクともしないとは思わなかっただろう。
とその時、ラティが声を上げる。
「ん……!? お、おい! お前ひょっとしてイアンか!? イアンだよな!?」
「あ、本当だイアンくん! 久し振りですっ!」
知り合いなのか、ラティとプラムが大きな声を上げた。
「え……!? あ――お、おうじ……!?」
「……!? おい……!」
「「「おうじ?」」」
皆に聞かれて、イアンと呼ばれた少年は慌てて首を振る。
「あ、いえ何でもないんです……! お、お久しぶりですラティ君、プラムちゃん!」
「でも、今王子って言ってたわよねえ? クリス?」
「うん、そうだねラニ」
「わー!? 何でもないんです、ごめんなさい! 本当に何でもないんです!」
「……ひょっとして、王子様の役、やりたい?」
と、ユアはイアンに尋ねる。
「あ、そ、そうなんです! 道具係として劇団には入らせて頂きましたが、舞台にも立ってみたいなあと思っていて……!」
「うんいいよ。採用」
ユアは即答し、ぽんとイアンの肩に手を置いた。
その無感情な瞳が、今はちょっと輝いている。
よく見るとイアンは少女のように中性的な、綺麗な顔立ちをしているのだった。
これは恐らく――ユアの好みのタイプのど真ん中なのだろう。
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