第164話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優17
「ほーうほぅ! どうもどうも、ご苦労様で御座います! オーディションも一段落しましたし、早速お二人に機甲鳥での戦闘シーンの動きを試して頂きたいですが、如何ですか?」
「わたしは構いませんが? 戦いはいつでも大歓迎です」
「私は、マジ喧嘩は最後だけがいい――疲れるから」
「ええ、ここは台本が決まっているシーンですので、大丈夫です。結末が決まっていないのは最後の舞台中央での戦いですな」
イングリスとしては少々残念な話だが、準備運動と割り切れば悪くはないだろう。
「なら、分かりました」
ユアはひょいと立ち上がるとひょいと地面を蹴って、高い天井近くに滞空するラティの機甲鳥に飛び乗った。
正確には途中で姿がふっと歪んで、いきなりラティのすぐ側に現れていた。
「おおっ!? い、いつの間に――!? なんか途中で姿が消えたような……!?」
「ん。運んでくれてありがと。飛び降りて」
「いや高いっす! ここじゃ飛び降りれませんって!」
「? 虚弱体質?」
ユアはきょとんとしている。
「いや俺従騎士科ですから! 魔印武具とか持ってねーし!」
「? 私もだけど?」
「…………」
ラティとしては、返す言葉も無いようだった。
「いや、そのままで構いません。本番でも操舵手を付けて、お互いの機甲鳥に飛び移ったりするアクションを入れようかと思います! こう、ぴょんぴょーんと!」
と、ワイズマル伯爵は大げさな身振りで動きを表現して見せる。
「というわけで君! そのままユアちゃんの操舵手をお願いできますか?」
「うぃっす! そういう事なら任せて下さい!」
ラティの機甲鳥の操縦技術は、騎士アカデミーでも一二を争う。適任だろう。
「えぇと――じゃあイングリスちゃんがこっちに乗るんですか? 私、ラティの操縦には付いて行けませんよぉ」
そう言ったのは騎士科の同級生のプラムだ。
彼女もラティと一緒に、機甲鳥を運んで来ていたのだ。
今回のワイズマル劇団の舞台を手伝うのは主に一二回生で、シルヴァ達三回生の先輩達はアカデミーの再建作業に専念という事になっている。
「大丈夫よ、プラム! クリスはこっちに乗るから!」
とのラフィニアの声は、頭上から響いてきた。
――星のお姫様号にいつの間にか乗っている。素早い。
「……やっぱりそれ使うの?」
普通の機甲鳥ほうがいい。絶対に。
「使うのよ! 絶対!」
「ほーうほう。是非それで! 少女らしくて可愛らしいと吾輩も思いますぞ」
「ですがワイズマル伯爵、ユア先輩の機甲鳥と比べて浮くと思いますが」
「――だいじょうぶ。問題ない」
「何故ですかユア先輩?」
「こっちも塗ればいいから――あとでかわいくする」
「賛成っ! 手伝いますユア先輩! ね、プラム?」
「はいっ! もう一台塗っていいんですねっ!」
星のお姫様号を仕上げた張本人二人が、目を輝かせていた。
「校長先生に怒られても知らないから――」
言いながらイングリスも地を蹴って高く飛び上がり、くるりと一回転をして星のお姫様号に飛び乗った。
踊り子の衣装と、ラフィニアが仕上げてくれた髪の毛とリボンとが、華麗な舞のようにふわりと揺れる。
「ほっほ! 全くイングリスちゃんは、何をしても絵になりますなぁ。吾輩、今の動きだけで既に見惚れてしまいます」
ワイズマル伯爵は満足そうに頷いていた。
「ありがとうございます」
見た目は奇抜だが、この人の言動からは邪なものは感じないので、素直に受け取ることが出来る。
「そうですね! イングリスちゃん、とっても可愛くて、星のお姫様号にぴったりです!」
「うんうん、何せクリスを一番分かってるあたしがデザインしたんだから、当然よね!」
「いや、分かり合えない所もあると思うけど――」
主にこの星のお姫様号の見た目について、だが。
「それでは皆さん、お互いにけん制し合うような感じで、客席の上を広く飛び回って見て頂けますか!」
ワイズマル伯爵が注文する。
「よし――そっち準備いいか? ユア先輩も大丈夫ですかね?」
「うん。任せた」
「いいわよ! せーの!」
二台の機甲鳥が同時に動き出す。
距離を均等に保ち、お互いに船首を向き合わせて睨み合うようにしながら、円弧の軌道を描く。
「これだけだと、単純過ぎて見栄えがしねえ――もっと派手に行こうぜ! ついて来てくれよ!」
ラティの駆る機甲鳥の動きが更に複雑化。
限りのある空間の中で、ぐるりと縦に大回転をしたり、波打つような複雑な飛行軌道を描いて見せたり。この室内での事なので、より迫力が際立つ。
「くっ――やるわねえ! 性能なら星のお姫様号の方が勝ってるのに……!」
ラフィニアが舌を巻くくらい、ラティの技量は見事なものだった。
だが、まだこれでは機甲鳥で飛び交っているだけ。
これに肉弾戦を織り交ぜて、更に迫力あるシーンにせねばなるまい。
「ユア先輩! お互いに機甲鳥から飛び出して、空中戦の動きを試しましょう!」
「うん――とう」
ユアは何でもない感じで宙に身を躍らせる。
椅子やベッドから降りるくらいの、気軽さである。
「はあっ!」
イングリスもユアを追って飛び出す。
空中で、お互いの距離が肉薄する。
「ユア先輩、拳を! 軽く見せる感じで構いませんので!」
「ほい」
ドガッッ! ドゴゴゴゴゴッ! ドゴオォォォン!
お互いの拳打がぶつかり合い、盛大な打撃音が壁や天井に反響して響き渡る。
「蹴りの反動で、機甲鳥を入れ替わります!」
「ん」
バキイイィィィィィィッ!
イングリスとユアの蹴りが交差。再び衝撃音。
二人は力の反動を利用し、互いに逆の機甲鳥に飛び、見事に着地。
「ほっほほぅ! これは凄い迫力ですぞ――! 素晴らしい!」
「確かに、これは見応え十分! いい舞台が出来るぞ――!」
「俺達には到底できない動きだ! 騎士アカデミーに協力して貰えて良かったなぁ!」
ワイズマル伯爵や、劇団の他の役者達も満足気である。
自然と拍手が沸き上がっていた。
「ははは……あんな動き見せられたら、こっちが霞んじまうぜ」
「そんな事ないよ、ラティの操縦は凄かったよ」
言いながら、ユアが乗り移った星のお姫様号に目を向けると――その船首から突き出した細い砲門に魔術光が収束しようとしていた。
「!?」
ユアが操縦桿に掴まっていて、そこから光が発生しているようだった。
「ええっ……!? な、何これ!? ユア先輩、これは……!?」
「いや。知らん」
「ラティ、逃げて!」
バシュウウウウゥゥゥンッ!
高速の魔術光が、ラティの駆る機甲鳥へ向けて発射された。
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