第163話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優16
――という事で、ユア曰く『商品』である王子マリク役の選考が始まっていた。
イングリスとしては、別に誰になってくれても構わない。
ユアが好きに決めてくれていいのだが、ワイズマル伯爵にも参加を求められたし、何よりラフィニアやレオーネ達がどんな人が選ばれるのか興味津々で見たがっていたため、大人しく付き合う事にしていた。
ここまで十人程候補が紹介されて、それぞれが歌や踊りや特技などを見せてくれた。
主には、ワイズマル劇団に所属する役者のようだ。
他にも、シルヴァにしていたように、ワイズマル伯爵が自らスカウトして来た人もいたようだが、誰がどうかなどはよく分からない。
「……今の人でおわり、ですか?」
と、ユアは紙に何か書きながら、ワイズマル伯爵に尋ねる。
――10ばん、×
ちらりと覗き込むに、先程の人はお気に召さなかったらしい。
○と書かれている人もいて、2ばん、6ばん、8ばんがそれだ。
そして振り返って、彼等の特徴を考えてみると――
どうやらユアは、比較的線が細く、中性的と言うか、可愛らしい感じの少年が好みのようである。
だとしたら確かに、シルヴァは候補から外れるだろう。
シルヴァは美形ではあるが、雰囲気は鋭いし、年齢よりも大人びている。
「まだ一人、いらっしゃいますよ。さぁ、最後の方、どうぞ!」
ワイズマル伯爵が、候補を呼び込む。
「よろしくお願い致しますッ! 是非ともあの方と共演させて頂きたくッ!」
――レダスだった。仮にも近衛騎士団長が何をしているのだろうか。
ワイズマル伯爵に頼み込んで、潜り込んだのか。
「特技は剣術、戦闘指揮! 自慢はこの声の大きさで歌い上げる軍歌でありますッ! それでは聞いて下さい――!」
すう、と大きく息を吸い込んで――
「いらん。不合格」
「……ですね。わたしも賛成です」
「なっ……!? 何故ですか――!?」
「かわいくないから」
「だそうです」
ユアが即却下してくれて助かった。
確かにレダスは、弟のシルヴァよりも更にユアの好みから外れるだろう。
かなりの偉丈夫で、武骨な雰囲気なのだ。
――この所の行動を見ていると、武骨でも何でもない気もするが。
「う、うう……! 仕方ありません、陰ながら応援させて頂きます……!」
がっくりと項垂れたレダスが、退場して行く。
「ではこれで最後ですぞ。如何です、お二人とも。誰か一緒に演じたいと思った役者はいらっしゃいますか?」
「うーん。ちょっと悩む――そっちは?」
「わたしは、ユア先輩にお任せします。2番か6番か8番の方ですか?」
「でも、ビビッと来た感じじゃないけど」
これと言う決め手に欠けるという事だろうか。
後ろの席では、ラフィニア達も話し合っていた。
「ね、ね。レオーネは誰が良かった?」
「え? わ、私……? そうね、1番の人とか、5番の人とか――」
「あー、なるほどなるほど。レオーネの好みってそういう感じなんだ~」
生真面目、かつ冷静で厳格そうな雰囲気と言えばいいだろうか。
どちらかと言うと、シルヴァやウェイン王子のような――
と言うよりも、こうかも知れない。つまりレオンの真逆、だ。
レオーネの置かれて来た環境からすれば、そうなるのも仕方がないとも言える。
「ラフィニアはどうなの?」
「あたしは3番の人とか、7番とか10番の人とか――」
「ああ、分かり易い。ラファエル様みたいな人ね」
「もしくはセオドア特使様のような――ですわね?」
「ふふっ」
その笑みは何なのだ――放ってはおけない!
「ダメ――ラニ! 昔を思い出して。大きくなったらラファ兄様と結婚するって言ってたじゃない? そのままでいいんだよ」
まだまだそう言う事に関しては、幼いままのラフィニアでいいのだ。
悪い虫の存在は必要ない。恋愛などまだまだラフィニアには早い。
「いやダメでしょ、いつの事言ってるのよ! それじゃ変な子になるわよ、もう――!」
「あはは――ところでリーゼロッテは誰が良かったの?」
「わたくしは、4番の方や9番のかたが――」
「「「えっ!?」」」
皆驚きの声を上げたのは、リーゼロッテの趣味がかなり意外だったからだ。
「あのごっつい人達がいいの?」
「何と言うか、かなり暑苦しい感じだったわよね……?」
「ええ。わたくし、男性の大きい筋肉が好きなので――」
「じゃあひょっとして、レダスさんは――?」
「悪くありませんわね。素敵ではないですか?」
「「「…………」」」
人の好みは色々あるものだ。
「ふむ……」
聞いていたユアが、何かペンを走らせていた。
――トンガリちゃん、しゅみわるい。
「……」
それを書いて意味があるのだろうか?
「と、ところでユア先輩。誰にするか決まりましたか?」
「うーん。みんな差が無い――」
「では、明日にでもその三人でもう一度オーディションをして見ましょうか?」
「――うん。それで」
ワイズマル伯爵の提案に、ユアは頷いた。
「ええ、ええ。では今日は、稽古の続きを――」
と――
「おーい。お願いされた機甲鳥持って来ました! どこに置いとけばいいっすか!?」
機甲鳥の搬入をしてきたのは、従騎士科の同級生のラティだった。
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