第151話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優4
謁見の間には既に結構な数の人がおり、中に入るとイングリス達は一斉に注目を浴びた。
「おお――いらっしゃったぞ……!」
「相変わらず、お美しい……!」
「ほほう……あの少女が噂の――これは確かに……だが――」
などと、その場の皆の声が聞こえてくる。
服装からして、レダス配下の近衛騎士団の者が多いが、それ以外の者もいる。
立派な身なりからして、カーリアス国王に近い貴族達だろうか?
「おめでとうございます!」
誰かがそう声を上げると――
「「おめでとうございます!」」
「「一生付いて行きます!」」
などと歓声が沸いて、拍手が起こった。
「「……?」」
イングリスもラフィニアも、事情が呑み込めないので首を捻るしかできない。
いったい何がそんなにおめでたいのだろう。
「待て待て、皆。気が早いぞ、ご本人はまだ何も知らされておらんのだ」
と、レダスが苦笑しながら周囲に呼び掛けていた。
「さ、どうぞ王の面前へ」
レダスは丁寧な仕草でイングリス達に道を開け、その場に控えた。
まるで部下や臣下が、目上の者に礼を尽くすかのような態度である。
いくら何でも不自然なまでのへり下りようだった。
「は、はい――」
少々戸惑いながら、イングリスとラフィニアは玉座のカーリアス国王の前へと進み出た。
イングリスは片膝をつき、深々と礼をした。
「イングリス・ユークス、ラフィニア・ビルフォードの両名、お召しにより参上しました」
「うむ。よく来てくれたな――なるほど。前は城のメイドだったが、今日は騎士アカデミーの学生……それはそれで、美しい花よな?」
「――ありがとうございます」
しかし、イングリスにとっては花より団子。
お褒めの言葉などより、ごちそうが欲しいのだ。
お腹が鳴ってしまうのを抑えるのにも限界がある。
流石にこの状況で鳴ってしまうと恥ずかしい。とにかく早くごちそうが必要である。
「あの現場に居合わせた者も多かろうが、初対面の者もおろう? 彼女らこそが、先日の事件で我を救ってくれた者達だ! その節は世話になったな――この通り、礼を言わせて貰おう」
カーリアス国王のほうから、こちらに頭を下げて来た。
前からそういう印象はあったが、見栄や外聞には全く拘らない人物だ。
だからこんなにもあっさりと、王自ら騎士アカデミーの一学生に過ぎないこちらに、頭を下げることができる。
振り返ると、ウェイン王子にもそのような傾向はあるように思う。
政治的には対立しているようだが、人間性には似た所がありそうだ。
ぱちぱちぱちぱち!
再び起こる拍手。
「素晴らしいご活躍でした!」
「我らに成り代わって王をお救い頂き、有難うございます!」
「あの光景は、一生忘れません!」
絶賛、そして絶賛である。
「ふふっ。こんなに褒められると、さすがにちょっと気分がいいわね~」
ラフィニアがこっそり話しかけてくる。
彼女が嬉しそうなのは結構な事だが――
「でもそれより、早くごちそうが欲しいよ……早くしないとお腹が鳴っちゃう……!」
「う……あ、あたしも――さすがに王様の前では、はしたないから我慢しなきゃ……!」
今は百の絶賛の言葉よりも、一切れのお肉のほうが重要だ。
早く、早くして欲しい――
「特にイングリスよ――」
「はい」
「そなたは天上領の大戦将を単騎で制し、攻め寄せて来た血鉄鎖旅団をも撃退して見せた。その戦いぶりは、そなたのような可憐な少女には見合わぬが、まさに鬼神の如しと言わざるを得まい……!」
「光栄です……」
イングリスは短く礼を述べる。
正直、カーリアス国王の言葉は聞き流し気味だ。
お腹が鳴らないように神経を集中しているから、である。
そして待ち望んでいる。「さあ宴だ、料理を持ってこい」の一言を。
「うむ。そしてあの時も今も、イーベルや我の前に出ても微塵の動揺も感じさせぬ冷静沈着さよ」
そこは、そうでもない。
ここでお腹が鳴るとさすがに恥ずかしいので、少しはらはらしている。
そしてわくわくもしている。言わずもがな、お城の豪華なごちそうに。
総合的に、そこまで冷静でもない。少なくとも今は――
「まだ少女だが、確かな戦略眼と弁舌を持ち、頭脳の面でも非凡なものがあるとレダスも申しておる」
「……はい」
「そこで――だ。そなたの功績に、我は最大限の誠意を以て応じることに致した」
来た――!
さぁ宴が始まる。ごちそうだ。嬉しい。頬が緩んできそうだ。
「イングリス・ユークスよ。我は宣言する――これより、そなたを近衛騎士団長の役に任じよう……!」
「……!?」
「ええええぇぇぇぇぇっ!?」
イングリスは目を見開いただけで済んだが、ラフィニアは吃驚して声を上げていた。
「「「おめでとうございます!」」」
皆カーリアス国王が、この宣言をする事を知っていたのだろう。
だから先ほど、少々先走ってお祝いの言葉が投げ掛けられたのだ。
ぱちぱちぱちぱちぱちっ!
謁見の間に響き渡る拍手の音、祝福の声――
「――いや、それよりわたしのごちそう……」
ぎゅ~!
とうとう我慢できず、お腹が鳴ってしまったではないか。
盛大な拍手と祝いの言葉にかき消されて、何とか事なきを得たが――
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『イングリスちゃん!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)からの評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!