第149話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優2
騎士アカデミーの敷地から真っすぐに王城へと向かうと、人出の多い大通りの上を飛んで行く事になる。
必然、星のお姫様号の姿は、そこにいる人達の目に触れることになる。
「あっ! 騎士様だ! おーい!」
「わーいっ!」
大人はいちいち騒いだりしないが、子供達は喜んで手を振って来る。
正確にはイングリス達は騎士ではなくアカデミーの学生なのだが、子供達にはそこまで分からない。
機甲鳥で飛んでいれば、そう見えるのである。
「はいはーい。こんにちは~♪」
愛想のいいラフィニアは、機甲鳥の速度を落として滞空し、子供達に手を振ってあげている。
これからごちそうにありつける予定でもあるし、すこぶる上機嫌だ。
憧れの騎士様が足を止めて手を振ってくれるので、子供達はますます喜んで手を振っている。
「あははっ。子供って可愛いわよね~。ねえ、クリス?」
「そうだね。ラニが小さかった頃のこと、思い出すね。ラニも可愛かったよ?」
「いや、その時はクリスも子供だったじゃない。まあ、いいけど……あたしも早く子供欲しいな~」
「それはダメ。ラニには早過ぎるから」
「でも、クリスも子供好きでしょ? お母さんが若いほうが子供は喜ぶんじゃない?」
「い、いや……! わたしは自分の子供はいらない……!」
想像しただけで、恐ろしい。
と言うよりも、そもそも想像すらしたくない事である。背筋が寒くなる。
「戦えなくなるから?」
「そ、そうだね。そういう事――!」
本当はそれ以前のもっと根源的な、生理的な問題なのだが――
そういう事にしておいてもらおう。
「よく見るとあの騎士様が乗ってるやつ、何かすっげえダサくねえ?」
「うわぁ……ほんとだ、なんだあの色とかキラキラとか――」
と、星のお姫様号を目の当たりにした子供達の感想が飛んで来た。
「えぇぇぇぇっ!?」
ラフィニアは驚いているが――
イングリスとしては、ラフィニアの気を逸らしてくれた上に事実を指摘してくれた男の子に、拍手をしたい気分だ。ありがたい。
「そ、そんな――あたしとプラムの自信作が……!」
「ちょっと派手過ぎるって事なんじゃない? 色を元に戻せば――」
と――
「そんな事ないよ! 私はすっごく可愛いと思う!」
子供達の中にいた女の子が、鼻息を荒くして星のお姫様号を擁護する。
「そ、そうよね……! ほーら男の子たち! これは女の子用なの! 女の子のロマンが詰まってるんだから! 女のロマンは男には理解できないわ!」
ラフィニアが元気を取り戻してしまった。
「ねぇクリス? そうよね!?」
「え、ええと――でもまあ、男の子達の言う事にも一理あるかもしれないし……こういう時は万人受けの折衷案を採用するのもいいかも知れないよ?」
「却下! ねえねえあなた。お名前は?」
と、庇ってくれた女の子に話しかける。
「あ、アリーナです……!」
「そっか、アリーナちゃん。褒めてくれてありがと! 今度この可愛い機甲鳥に乗せてあげるねー?」
「ほ、本当!?」
「うん! 今日はこれから用事があるんだけど、また今度見かけたら声掛けてね!」
「うん分かった! 約束だよ!」
「オッケー約束! じゃあまたね~!」
ニコニコと手を振って、ラフィニアは星のお姫様号を出発させた。
「うーん、いい子だったわね~」
「…………」
これで少なくとも、あの子を星のお姫様号に乗せてあげる約束を果たすまで、ラフィニアは船体を塗り替えたりはしないだろう。
早く約束を果たさせるためにも、あの子の顔はしっかり覚えておかなくては。
「どうしたのよ、クリス? 安請け合いだって言いたいの?」
「いや、そんな事ないよ。後でちゃんと探せるように、しっかり顔を覚えておいただけだよ」
むしろラフィニアが住民と気さくに接しているのは、好ましい事ではある。
騎士としても侯爵令嬢としても、ごく自然に民の中に入り込んで行けるのはよい事だ。
そこに信頼関係が生まれ、いつかラフィニアの身を助けるだろう。
これもラフィニアの才能の一つ――とまで言うのは、欲目が過ぎるのかも知れないが。
「お。助かるー。クリス、人の顔覚えるの得意だもんね」
「そうだね。人生経験上ね」
前世の王の経験として、人の顔を覚えるのは重要であり、自然と鍛えられたのだ。
些細なやり取りでも、一番上の王がその事を記憶して後で触れると、皆喜んでくれる。
そのちょっとした喜びが積み重なる事により、忠誠が培われていく。
王たる者、一度会って人間の顔は全て覚えておくべし、だ。
少なくとも前世のイングリス王はそう考えて、可能な限り実行していた。
「強い奴の顔をしっかり覚えて、後で喧嘩を売るため……?」
「手合わせをお願いする、だよ」
まあ、そういう事にしておこう。
「一緒じゃない!」
「違うよ。無理やりじゃなくてお願いするんだから」
と、やり取りしながら、星のお姫様号は王城付近に到達。
「止まれ! これより先は王城上空の警戒区域だ。君達は騎士アカデミーの生徒だな? 王城に何か用なのか」
警備に当たっていた機甲鳥に乗る騎士に、呼び止められた。
「騎士アカデミーのラフィニア・ビルフォードと、イングリス・ユークスです! カーリアス国王陛下がお召しだって聞いて、参上しました!」
と、ラフィニアが騎士に応じる。
「おぉ君達がか! 話は通っている! さぁ、では機甲鳥を中庭に降ろすといい。誘導しよう」
「はい、分かりました」
騎士に誘導して貰い、星のお姫様号を中庭に停めていると――
「やあお二人とも! よくぞお出で下さいました!」
近衛騎士団長のレダスが勢いよく走って来て、深々とお辞儀をして見せるのだった。
何だか以前と様子が違う。
別に尊大な人物というわけではないが、騎士団長というかなりの立場のある人物だ。
弟のシルヴァの事に関しては恥も外聞も無い過保護だが、イングリス達にはそれなりの威厳を持って接していたはず。
それが、異様な低姿勢なのである。
「レダスさん……?」
「ど、どうも……」
イングリスとラフィニアは、少々戸惑って、顔を見合わせた。
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