第148話 15歳のイングリス・ふたりの主演女優
天恵武姫のリップルの身に起きた異変は、イングリス達の手によって無事解決をした。
リップルは皆に深く礼を述べて、隣国ヴェネフィクとの国境付近の戦線へと戻って行った。
しかし、その代償として騎士アカデミーの校舎が崩壊。
校舎内にあった食堂も同じくで、食べ放題を封印されたイングリスとラフィニアにとっては、危機的状況が訪れていた。
毎日空腹を抱えながら、一刻も早い食堂の再開を願い、校舎復旧の土木作業を手伝う日々。
復旧を早めるため、早く動きたいけれど、動けば動くほどお腹は空く。
ぐきゅ~!
「わっ……!? どなたのお腹の音ですの? はしたないですわよ」
と、工具を抱えて前を歩いていたリーゼロッテが、吃驚して振り向く。
「「……」」
イングリスはラフィニアを、ラフィニアはイングリスを指差した。
「嘘よ! クリスよ――!」
「いや、ラニが……!」
「人のせいにしなーいっ! 左右両方から聞こえたわよ?」
と、二人の間を歩いていたレオーネが暴露する。
「「ちっ……」」
「……二人とも、あまりにお腹が空いて、やさぐれてきたわね――」
レオーネが苦笑する。
「そんなにお腹が空くものですの? わたくしたちと同じだけは食べているでしょうに……」
一応、校舎の復旧作業を手伝うとお弁当が貰えるのだ。
「「全然足りない!」」
「ま、まぁ、ちょうどいいダイエットだと思えば……? ほら、こっちが少し減れば、肩もあまり凝らなくなるかも……」
と、リンちゃんが谷間に潜り込んでくつろいでいる自らの胸元を指差す。
今日はレオーネのところがお気に入りらしい。
「うーん……まあ、それは言えなくもないけど――」
レオーネの話は、イングリスには頷けるものだが――
「言えないわよ! あたしには減るものなんてないのに……!」
「ま、まあラフィニアはね――スレンダーだから……それはそれで羨ましいのよ?」
「じゃあ替わって欲しいわ。絶対、クリスやレオーネみたいに大きいほうがいいもん! こういう時落とすものが無いから、先に干乾びて死ぬんだから……!」
「あはは……どれだけ食べても太らないわよね、ラフィニアは」
「……というわけで、あたしの方が生命維持に危機的状況だから、クリスのお弁当をちょっと分けてよね!」
「ええっ……!? そればっかりはいくらラニの頼みでも――」
「いいじゃない、ここにこんなに栄養蓄えてるでしょ!」
「ひゃあっ!? や、やめてラニ……! 大きい木運んでるんだから……!」
「あら? なんかまたちょっと大きくなった気がするわ。食べてないのになんで育つのよっ! このこのこのっ!」
「やっ……だ、ダメだって……! わかったから、後でまたボルト湖に魚を取りに行こう? それをちょっと多めにあげるから!」
「えー、でも地元の漁師さんから苦情来たんでしょ? 俺達の生活を脅かすなって」
「夜中にこっそり行けば、ばれないよ。たぶん……」
「そ、それって密漁よね――」
「そこまでしなければ、生きられないものなのでしょうか……」
レオーネとリーゼロッテが苦笑する。
と、そこに――
「イングリスさーん! ラフィニアさーん!」
ミリエラ校長が、二人の名を呼びながら駆けつけて来た。
「校長先生?」
「どうかしました?」
「ついさっき、お城から使者が来たんです! 国王陛下がイングリスさんとラフィニアさんをお召しだとの事で……!」
「国王陛下からの出頭命令……!?」
「お城に……!?」
「ええ。すみませんが、すぐに王城に向かって下さい」
「おぉぉぉ……! やったわね、クリス!」
「そうだね、ラニ! 天の助けだね……!」
イングリスもラフィニアも、ミリエラ校長の知らせを聞き、目をキラキラと輝かせた。
つまり――
お城――呼び出し――この間の助けたお礼――ごちそう!
そう、ごちそう! だ。二人共のその可能性に希望を見出し、飛びついたのである。
「わー! 楽しみ~♪ この間、お城の料理すっごく美味しかったもんね!」
「うん、そうだね! じゃあさっそく行こうよ」
「じゃあ馬車を呼びますからねえ。お二人は支度をしていて下さい」
「はい、校長先生」
とイングリスは頷くが――
「いえ、それじゃ遅いわ! せっかくの料理が冷めちゃう! ねえクリス、あれで行きましょ!」
「あれ?」
「うん、あれ! 空飛んでぴゅーっと行けば、馬車より早いわよ!」
「ああ、あれか――うーん……いいのかなあ……」
「いいですよね、校長先生! あたしたちの星のお姫様号で行っても!」
それは、イングリス達の私物の機甲鳥である。
先日の王城上空の戦闘で、イングリス達は天上領側の部隊の機甲鳥を拿捕していたのだ。
それを使って王城から騎士アカデミーに駆けつけたのだが――
事が終わった後も無事に残った機甲鳥は、イングリス達の私物として所持することが許されたのだった。
天上領側の機甲鳥はこちら側のものよりも高性能で、それはいいのだが――
「あぁ、あれですね。いいんじゃないですか? 女の子らしくて可愛いですよね」
「ありがとうございます、じゃあ取って来ます! 待ってて、クリス!」
「う、うん……」
そして程無く――
イングリス達の頭上に、ラフィニアの操る機甲鳥が現れる。
それは、全体を鮮やか過ぎるピンクに塗装されていた。
さらに船体正面に非常に目立つように、キラキラと星が散るような乙女チックな目が描かれている。
全体にも同じようなキラキラした装飾が描かれている。
ラフィニアが自分達のものだから可愛くする! と極めて趣味的に塗装した結果だ。
騎士科の同級生のプラムもそれを手伝っていた。
「ほら、行くわよクリス! 乗って乗って!」
「う、うん……」
この機甲鳥の中身は高性能で、イングリス自身も手を加えたりして、改修したのだが――
あまりに乙女趣味的な見た目にされると、ちょっと乗るのが憚られる。
精神的には男性なので、こういったものは落ち着いた色合いで、格好いい方がいい。
何なら黒一色で統一してもいいくらいだ。
しかしラフィニアがそうすると言うなら、イングリスには逆らえない。
自分にとって孫娘のようなラフィニアが、おもちゃの色はピンクがいいと決めたわけである。
それに逆らう事のできる祖父がいるはずが無いのだ。
「よぉぉし、行くわよ! ごちそう目指して、飛べーーっ!」
「……じゃあ、行ってきます」
ラフィニアの操る星のお姫様号は、茜色の空へと飛び立って行った。
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