第145話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令53
「――! おいリップル、止せ! 諦めるにはまだ早いだろ!? しかも、そんな若いのを……!」
リップルの体から発せられる光に気づいたレオンは、焦った様子で制止をする。
「だ、ダメなの……! ボクの意志じゃない――! この子に引きずられる……ッ!」
リップルにとっても、初めての事だった。
天恵武姫の武器化は、使い手たる聖騎士との意思の統一が重要だ。
心を一つにする必要がある。
だから、リップルが望まなければ、それは発生しないはず――だと思っていた。
どうしてこうなるのだろう?
シルヴァはまだ何も知らないから、純粋にリップルの力を願えるからだろうか?
シルヴァがリップルの事を物凄く強く尊敬し、リップルもそんなシルヴァの事を微笑ましく思って、つまり、お互いの心の距離が近いからだろうか?
リップルが心の底では、虹の王になってしまった父親を、早く解放してあげたいと願っているからだろうか?
多分、一つではない色々なものが合わさって、シルヴァの意志に引きずられる。
「ああああぁぁっ――!」
もう、止められない――!
リップルの体はますます輝きを増し、最高潮まで達すると、その体はもはや少女のそれではなく――黄金の煌めきに包まれた、双銃身の長銃と化していた。
「感じる……凄まじい力だ、これは――! これなら何だって倒せる……! 例え虹の王でも……!」
シルヴァは興奮をした表情で、リップルが変化した黄金の銃を強く握りしめる。
「いかん……! おい止せ! すぐに放せ!」
「シルヴァさん! 冷静になって下さい! 力に身を任せてはいけません!」
レオンとミリエラ校長は非常に緊迫した様相である。
だがその理由が、見ているレオーネには全く分からない。
リップルが武器化して、虹の王を倒せるのならば、それでいいと思うのだが――
シルヴァの主張していた通り、虹の王を王都の外に誘導など難しい。
それをすれば、大きな被害が出るだろう。
時間をかけて住民の避難誘導をしながらならば、人的被害は抑えられるかも知れない。
だが、進路上にある民家や商店などの建物は無事には済まないだろう。
それを守るのも騎士の務めであると思える。
そう言う意味で、レオーネとしてはシルヴァの主張に賛成するところは大きい。
大きいのだが――
「……綺麗な光ですわ。あれが、わたくし達の守り神たる天恵武姫の真のお力――」
リーゼロッテは純粋に、目の前の光景に釘付けになっているが――
「え、ええ――でも何だか……」
レオーネには、妙な不安感も感じられる。
神々しく、美しい光のはずなのに、何故だか怖い。
理由を説明できないが、そう感じるのである。
「調子に乗るんじゃねえ! そいつはお前にはまだ早いんだよ――!」
レオンがシルヴァから、リップルが変化した黄金の銃を取り上げようとする。
「リップル様は僕の意志に応じて下さったんだ! 僕がやる、どいてくれっ!」
シルヴァはレオンを振り払う。
その力は普段よりも遥かに増しており、レオンを簡単に弾き飛ばしてしまう。
「す、すごい――やはり天恵武姫は僕達を御守り下さる女神だ……! 桁が違う!」
確信を持って頷くと、銃口を虹の王へと向ける。
「リップル様のお父上――同情はしますが……リップル様と共に、この僕があなたを討たせて頂こう!」
「ちいいぃぃ……っ! だから止めろって言ってんだろ!」
立ち上がったレオンは、虹の王への射線上に立ち塞がった。
「馬鹿な……!? 邪魔をしないでくれ! さもなくば虹の王ごと撃つことになる!」
「嫌なこった! ならお前が銃を下ろしな!」
「できない相談だ! ならば、もろとも――!」
銃口に膨大な、太陽のような強烈な光が収束して行く。
「! いけません、シルヴァさん!」
「何故です!? 裏切り者レオンを同時に仕留められるなら、一石二鳥でしょう!?」
「ま、待って下さいシルヴァ先輩!」
レオーネも思わず、声を出していた。
「レオーネ君も……!? どうしてだ!?」
「わ、分かりません……! けど、いつかはお兄様が討たれても仕方ないと思います……でも――それは今じゃないような気がして――!」
本来敵対関係のレオンが、ああまで強行に止めようとするのには、理由があるはず。
直観的に感じた不安感も、それを後押ししていた。
グオォォォッ!
様子を窺っていた虹の王の体に三度浮かぶ、無数の光点。
全周囲を薙ぎ払う光線がまた来る――!
「いけない! レオーネさん、退避を!」
「は、はい……!」
と、レオーネが応じた瞬間――
バギイィィィンッ!
何かが割れるような、高い音。
ミリエラ校長が展開していた結界が、破壊されたのだ。
その音と同時に、シルヴァの懐に、ふっと歪んだような影が滑り込んでいた。
ドゴオォッ!
「ぐうっ……!?」
シルヴァが白目を剥いて、その場に倒れた。
リップルが変化した黄金の銃も、手から滑り落ちて――
元の獣人種の少女の姿に戻る。
その瞳は、驚きに見開かれている。
視線の先は、シルヴァを気絶させた犯人に向いている。
つまり、綺麗な肘打ちを決めた姿勢のイングリスに。
「い、イングリスちゃん……!?」
「……どうやら間に合ったようですね」
イングリスはにこり、と笑顔を浮かべる。
「い、いやどこが……!? 何が!? 味方を攻撃して、無理やり出番を奪ったようにしか見えないんですけど……!?」
上に浮かぶ機甲鳥に残ったラフィニアは、吃驚して目を見開いていた。イングリスの行動が予想外だったようだ。
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