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第144話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令52

 虹の王(プリズマー)は捕らえたリップルの体を、力任せに握り潰そうとした。


「――うあああぁぁぁっ……!?」


 その巨体による剛力でリップルの全身の骨が軋み、思わず悲鳴が口から洩れる。


「リップルさんっ!?」


 ミリエラ校長は、再びのあの光線をやり過ごしていた。


「ミ、ミリエラは結界に集中しなきゃダメだよ……! ボクは大丈夫だから……っ!」


 虹の王(プリズマー)を結界の外に出す事だけは、避けねばならない。


「で、ですが……!」

「大丈夫……! 天恵武姫(ハイラル・メナス)はそんなにヤワじゃないから……!」


 天恵武姫(ハイラル・メナス)の体の耐久力は、普通の人間とはまるで違う。

 普通ならば致命傷になるような怪我を負っても、時間を置けば治癒し、再生する。


 リップルも過去、両腕が消滅する程の怪我をしてもやがて再生したという経験がある。

 人が魔印武具(アーティファクト)になるというよりも、魔印武具(アーティファクト)が人の姿を取っているだけなのだ。


 だから、人の体の常識は通用しない。

 どこまでの攻撃を受ければ自分が死ぬのか、リップルにも分からない。


 このまま体中の骨をバラバラにされても、恐らくそのうち治るだろう。

 天恵武姫(ハイラル・メナス)としての長い戦歴で、肉体的な痛みは経験し尽くして、慣れている。


 それに、体の痛みよりもっと痛いものがある事も分かっている。

 だから、この程度ではへこたれない――!


「このおぉぉぉっ!」


 バシュウウゥゥッ!


 リップルを捕らえる虹の王(プリズマー)の手の内から、光が漏れこぼれる。

 リップルは巨大な手に握り潰されながらも、銃は離さず、力を溜めていた。


 準備に時間はかかるが、強い一撃を放つ事が出来るのだ。

 圧力に耐えながら、力を溜めていたのである。


 それを、手の中で炸裂させたのだ。

 自分もその攻撃の余波を被る事になるが、天恵武姫(ハイラル・メナス)の耐久力頼みだ。


 グオォォォッ!


 攻撃に驚いたのか、虹の王(プリズマー)の手の力が緩む。


「親父のくせに娘を本気で潰そうなんて、酷い事するよねっ!」


 その隙に体をすり抜けさせ、大きく後方に飛んで抜け出す。

 だが、着地の時点で足に激痛を覚える。


「っ……!?」


 上手く着地できずに、転んで倒れてしまう。


「リップルさん!」

「うう……足の骨がおかしくなっちゃったか――まっずいなぁ……」


 これでは素早く動き回ることは出来ない。

 その時、異空間に退避していたレオーネ達が戻って来る。


 負傷したリップルを見たシルヴァが、血相を変えて駆け寄って来る。


「リップル様、足を……! 大丈夫ですかっ!?」


 手を貸して、リップルを立たせてくれようとするが――


「……! おい気をつけろ! 奴が……!」


 レオンの警告が鋭く響く。

 虹の王(プリズマー)は再び、リップルを捕らえようと突進して来ていたのだ


「くっ……! お怪我をされているリップル様を狙うなど、許さんっ!」


 シルヴァはその前に立ち塞がろうとするが――


「ダメッ! シルヴァくん、どいて!」


 リップルはそれを突き飛ばして、自分が虹の王(プリズマー)の攻撃に臨む。


 リップルと同じ攻撃をシルヴァが受ければ、命は無いだろう。

 特級印を持つ聖騎士候補のシルヴァは無論強いが、あくまで生身の人間でもある。


 体の耐久力という点では、天恵武姫(ハイラル・メナス)とは比較にならない。


「っ! ううぅぅぅ……!」


 再び虹の王(プリズマー)に体を掴まれ、強烈に締め上げられる。

 今度は悲鳴を上げずに、耐える。

 こうしているうちに、他の者が打開策を探る時間が稼げれば、それでいい。


「貴様っ! リップル様を離せ!」


 シルヴァはリップルを握り潰そうとする拳に向けて、魔印武具(アーティファクト)の火炎弾を撃ち込む。

 だがシルヴァの焦りをあざ笑うかのように、虹の王(プリズマー)は逆の手でそれを叩き落としてしまう。


「くっ……!」


 背後の方で、声がする。


「おいミリエラ! ここからどうする!? 未完成とは言え、やっぱり虹の王(プリズマー)はとんでもねえぞ……!」

「そ、そうですね――撃破は一度後回しにして、何とか郊外に誘導しましょう! 人里から遠く引き離せば、どこかへ去って行く可能性もあります……!」

「分かった! ところでイングリスちゃんはどうしたんだよ!? あの子なら、何かやらかしてくれそうなんだがな……!」

「王城で、国王陛下の守りに付いています! あちらが落ち着けば、駆けつけてくれると思います……!」

「なるほど! なら余計に、時間をかける作戦の方がいいな!」


 ミリエラ校長とレオンに、シルヴァは異を唱えた。


「待って下さい! そんな事をしていたら、進路の街に多大な被害が出ます! リップル様に武器化して頂いて、この場で決着をつけるべきだ! それに何を悠長に話しているんです! 早くリップル様をお助けしないと!」

天恵武姫(ハイラル・メナス)はそんなにヤワじゃねえ……! まだ大丈夫だ!」

「だからと言って、あんなに華奢で可憐な方を……!」


 バシュウウゥゥッ!


 再び虹の王(プリズマー)の手の内でリップルの力を溜めた銃撃が爆発。

 緩んだ手の内から、その体が飛び出す。


 今度は着地の姿勢を取る事も出来ずに、リップルは直接地面に落ちた。


「リップル様!」


 シルヴァはすぐさま駆け寄って、助け起こす。


「だ、大丈夫大丈夫――」


 苦しそうに言って咳き込むリップルは口から血を吐いていた。


「!? リップル様、血を……!?」

「あー。アバラの骨が変な具合に折れたかなあ……でも平気だよ。天恵武姫(ハイラル・メナス)はタフだからね……」

「そんな――も、もう無茶はなさらないでください!」

「いや……! あいつを街の外に誘導するんでしょ? ボクが囮にならなきゃ――」


 よろめきながら立ち上がろうとするリップルの脇を、レオンが通り抜けて前に出た。


「少し休んでな! 囮には俺がなってやる!」

「お、お願い……! 少しだけ休んだら、ボクが……!」


 リップルは再び、地面に膝を着いてしまう。

 シルヴァはその肩をグッと掴む。


「リップル様……! お願いします――! 武器に姿を変えて、僕にお力をお貸しください! あれを王都の外まで誘導するなんて無茶です! この状況を覆すには、リップル様の真のお力をお借りするしかありません……っ!」

「ダメ――! それはダメ……! まだやれる事があるんだから――!」


 リップルは即答で首を振る。


「しかし! リップル様がそんなにも傷つく姿を見たくありません……! 僕は子供の頃にリップル様に命を助けて頂いて以来、いつか共に戦えるように修練を積みました! 頂いた言葉の通り、強くなったつもりです! 今こそその力を使う時でしょう!?」

「……シルヴァくん――あの小さい子がこんなに立派になるなんて、時間が経つのは早いなあ……ボクも年取っちゃったよね」

「では、僕に力を貸して下さい! 命を救われたお礼に、天上人(ハイランダー)に利用され肉親と戦わされるあなたの、心を護りたいんです……!」

「シルヴァくん……でもね、でも――うぁっ!?」


 リップルの体の内側から、太陽のように眩く輝く光が発せられる。

 これは天恵武姫(ハイラル・メナス)の武器化が始まる兆候である。


「う、うそ……!? ボクはやろうとしてないのに……!?」


 天恵武姫(ハイラル・メナス)の武器化は、天恵武姫(ハイラル・メナス)と特級印を持つ聖騎士との意識が合わないと出来ない。

 つまりシルヴァがいくらその気でも、リップルにそのつもりが無ければ、武器化は発生しないはず――

 それがシルヴァの意思に引きずられるようにして、発生しようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] こっちはこんなにシリアスしてるのに、クリスはどっちと戦おうかなぁ、と涎垂らしながらワクテカしてる最中という。
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