第143話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令51
「え、えぇぇぇっ!?」
「あ、あれがリップル様の父親――!?」
「うん……! 間違いないよ……! あれから……こんなになるまでずっと、世界のどこかでずっと、生き延びてたんだ……」
長い年月の間、多くの者を傷つけたはず。多くの命を奪ったはず。
いったいどれ程の罪を重ねて来たのか――
「リップルさん……そんな、なんて残酷な仕掛け――」
「で、ではリップル様は下がって下さい! 肉親と戦うなんて……!」
ミリエラ校長とシルヴァは、リップルに声をかける。
グオオオオォォォッ!
しかし、虹の王の方には情けなど無い。
地を蹴ると巨体に見合わぬ恐るべき俊敏さで、リップル目掛けて貫手を突き下ろす。
「いや……! だから戦えないなんて、甘えるつもりはないよっ!」
リップルは高く宙返りをしながら、虹の王の貫手をかわす。
同時に両方の銃を下に向け、虹の王の手に銃撃を浴びせる。
虹色の表皮になっている部分はリップルの銃撃を弾いてしまうが、まだそうなっていない不完全な部分には、銃撃が突き刺さって傷を穿つ。
結果的に、リップルの銃撃で下に圧された貫手は、地面に深く突き刺さる。
「今ッ!」
リップルは虹の王の腕から肩に、猫のような身軽さで駆け上がる。
「親父だからこそ、ボクが――! 完全体にならないうちに……!」
その首元に銃口を向け、光弾を連射する。
首の付け根のまだ不完全な表皮に傷がつき、深く抉れていく。
しかし同時に傷口の再生も始まる。
手を休めれば、すぐに塞がってしまうだろう。
「傷が再生する……!? だけど、ボクの攻撃が上回れば――!」
リップルは連射の速度を速め、全力で撃ち込み続ける。
グオォォッ!
邪魔者を打ち払おうと、地面に刺さっていない方の手がリップルに伸びる。
「もらわないからっ!」
伸びてきた腕を、華麗な身のこなしで避ける。
凄いのは、虹の王の首周りに張り付いて離れない事だ。
右に左に避け回りながら、狙った一点に銃撃を浴びせ続ける。
そのため、傷の再生速度にリップルの攻撃は負けていない。
傷が大きく深く、広がって行く。
「か、華麗だ……! 流石は天恵武姫――!」
シルヴァはその姿に、目を奪われる。
連続した銃撃が、首元の傷をどんどん抉っている。
もしかしたら、このまま首を落とせるかも知れない――
「……これはまだ、完全体じゃない! ボクの攻撃も通じる……! みんなも撃って!」
この傷口を一斉攻撃し、首を落とし切る!
リップルは周囲に指示をする。
「はいっ! リップル様!」
「ああ任せろ!」
シルヴァもレオンもリップルを支援するべく魔印武具を構える。
レオンは、壊れた鉄手甲の魔印武具の代わりに、短剣の魔印武具を取り出していた。
だが一斉攻撃の前に――魔石獣の体の表面に、無数の光点が出現した。
あれは先程全周囲を薙ぎ払った、広範囲の攻撃だ。
「リップル様! これが、先程僕達が避難した攻撃ですっ!」
「――! ミリエラとボク以外は、異空間に退避して! レオーネちゃんお願い!」
「はいっ!」
リップルの指示にレオーネは頷き、魔印武具に力を込める。
「分かりました! 行きますっ!」
リップルとミリエラ校長を残し、他の者達の姿が異空間へと消える。
「ミリエラ! フォローは出来ないけど何とか凌いでね!」
「ええ……! 頑張りますよおっ!」
魔石獣から、無数の光線が発せられる。
それはミリエラ校長の張った結界内を縦横無尽に荒れ狂う。
虹の王の間近にいるリップルには、特に大量の光線が降り注ぐ事になるが――
「……避けて見せなきゃ!」
ただ避けているだけでは、虹の王の首筋の傷の再生を許す。
避けながら、銃撃を撃ち込み続けることが必要だった。
前後左右の、あらゆる方向から迸る光線。しかも虹の王の動きで射角も変わる。
リップルは身を捻り、あるいは飛び跳ねながら、その光線を浴びない位置に身を置き続ける。当然手に持つ二兆拳銃の射角はずれてしまうが、問題ない。
人間の姿の天恵武姫にも、次元を飛び越える魔印武具のような特別な力がある。
エリスならば、遠く離れた位置に斬撃を繰り出す事が出来る。
リップルならば、銃撃でそれが出来る。
そうそう長い時間続けられるものではないが――
回避を続けながら虹の王の首筋の傷に、空間を超えて銃撃を送り込み続けた。
やがて、光線の嵐が止んで――
「よし……! このまま――!」
直接銃撃に切り替えて、攻撃を続行する!
と思ったが――
不意に魔石獣の傷口が七色に輝き始め、あっという間に傷口が埋まってしまった。
「……!? うそ……! 傷が治っちゃったの!?」
虹の王として完全な、虹色の表皮の面積が増していた。
修復された傷の部分は、虹色に輝いている。
「こ、こうしている間にもどんどん強くなっていますよお……! どんどん完全体に近づいてます!」
「でも……! でもまだ不完全な部分もある!」
諦めずそこを狙って、攻撃を続けるしかない。
グオオオオォォォッ!
再び虹の王がリップルに向けて突っ込み、攻撃を繰り出してくる。
「――!?」
先程よりも、さらに動きが早い!
「くっ……!」
それでも避けて、虹の王の腕に飛び乗ろうとするが――
がしっ!
その動きを見切られていたか、素早く伸びた逆の手が、リップルの身を捉えていた。
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