第142話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令50
「「「リップル様……!」」」
「あ、みんな……よかった。無事だったんだね――」
シルヴァやレオーネ達の顔を見ると、リップルはほっとした表情を見せる。
「無事かどうかは、これから次第ってトコだ。外はちょっとまずい事になってるぜ?」
レオンに声をかけられると、リップルはぎょっと目を見開く。
「レ、レオン……!? ど、どうしてここにいるの!?」
「ま、それは今は言いっこなしだぜ?」
「緊急事態ですから、手助けを受けています。お目汚しをして済みません、リップル様。事が済めば、速やかに拘束しますので……」
「おいおい人を何だと思っていやがる。せっかく協力してやってるのによ」
「ま、まあまあ。それはいいけど……じゃあ今、相当まずい事になってるんだね? どうなってるの?」
「リップル様、これに触れてみて頂けますか」
シルヴァは力を込めた魔印武具の銃身をリップルに差し出す。
「うん――」
リップルはそれに手を触れて――すぐに、自分の変化に気が付いたようだ。
「あ……! 勝手に魔素を吸わないっ!? じゃあボク――!」
「はい、恐らく最後の魔石獣が召喚されたと思われます」
リップルの異変は、獣人種特有の感応を利用し、獣人種の魔石獣を呼び出してしまうというもの。
獣人種は既に種として滅んでおり、新たに増える事はない。
つまり魔石獣の数には限りがある。これは、それが尽きた証だ。
「そ、そうなんだ――良かった。もうボク、みんなに迷惑かけずに済むんだね……またみんなの天恵武姫に戻れるんだ――」
涙ぐむその表情を見ると、シルヴァは元よりレオーネもリーゼロッテも、誇らしい気持ちになる。危険を冒して頑張った甲斐があったというものだ。
と、同時に頼もしい。
天恵武姫はこの国の守り神。
魔石獣と戦う騎士にとっては、心の支えとなる存在だ。
この状況では、最も頼りになる。
そのリップルが、帰って来てくれたのだ。
「ですがリップル様、喜んでばかりもいられません」
「あ、そうだよね。何か大変だって――何があったの?」
「はい。最後に呼び出された魔石獣が……虹の王だったんです」
「えええぇぇっ!? ボクの仲間の獣人種が、虹の王になっちゃったの……!? そ、そんな――」
「まだ完全体じゃねえようだがよ、それでも俺が見た事のあるどんな魔石獣よりもつええぞありゃ――やっぱ虹の王ってのは次元の違う化物だな」
「そいつはどこにいるの……!? 早く止めないと!」
「今、この異空間の外の、騎士アカデミーの中で魔石獣が暴れています。校長先生が結界を張って街には出ないようにしてくれましたけど、私達全員を巻き込みそうな攻撃をしてきたので――」
「レオーネの魔印武具の力で、異空間に退避をしたのですわ。結界を維持するために、校長先生は一人で外に残られています」
「ミリエラが……!? 無茶だよそんな――とにかく、早く戻ってあげよう!」
リップルの言葉に、シルヴァは強く頷く。
「ええリップル様! 虹の王を倒せるのは、武器化した天恵武姫を操る聖騎士のみ……! まだ修業中の身ですが、お力をお貸し頂ければ僕がやって見せます! どうかお願いします!」
「シルヴァくん――それは……まだ、ダメだよ」
「ど、どうしてです!? 僕ではまだ実力不足でしょうか?」
「そういう事じゃないんだ。レオンが言ってたけど、まだ完全体じゃないんでしょ? だったら別の手で倒せるかも知れない。やれる事は全部やらないと、だよ」
「リップル様も校長先生と同じことを――」
「聖騎士と天恵武姫は、地上の人間にとっての切り札。切り札ってのは、そう簡単に切るもんじゃねえんだよ。ま、順調に成長すりゃお前にもそのうち分かる」
「聖騎士を捨てた者が、知ったような口を……!」
「はっは! 違いねえ――!」
「……とにかく、行くよみんな! レオーネちゃん、元に戻してくれる?」
「はい! じゃあ、戻ります!」
レオーネが奇蹟の力を解くと、光景が一変。
周囲を結界に覆われた、崩壊した騎士アカデミーの風景に戻った。
先程、虹の王が無数の光を放つ前に比べ、より一層校舎は破壊され瓦礫と化し、地面に抉れた溝がいくつも走っていた。
「ミリエラ! 大丈夫!?」
「ああリップルさん――! いい所に……! 何とか大丈夫ですけど、手伝ってもらえると助かります……!」
ミリエラ校長は無事なようだが、所々に浅手を負っている様子だった。
そしてかなり、荒い息をついている。相当、消耗しているようだ。
が、逆に言えばあの虹の王の激しい攻撃を、これだけでやり過ごしているのは驚異的だとも言える。
「うん任せて――! ずっとみんなに迷惑かけてた分、今度はボクがみんなを守って見せる……! それが天恵武姫だから!」
リップルは黄金に輝く銃を両手の内に出現させ、二丁拳銃を構える。
身軽に飛び跳ねるように、ミリエラ校長を護るためにその前に立つ。
そして、虹の王に向き合って注視をして――そして気が付く。
「え……!? あ、あぁぁ――そんな……っ! そんな事――」
その大きな瞳に、見る見るうちに涙が溢れて来る。
「リップルさん……? どうしたんですかあ……っ!?」
「お、親父――あれ、ボクの親父なの……! 虹の雨で獣人種の里が滅びた時に、魔石獣になって……! そ、それがこんな所に――」
もうずっと、昔の話だ。
リップルがまだ天恵武姫になる前の遠い遠い記憶。
獣人種の族長だった父親は、虹の雨に打たれて魔石獣と化してしまった。そして里も滅び、生き残ったのはリップルだけだった。
その時からずっと魔石獣として生き続け、虹の王にまで変わり果ててしまったというのか――
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