第140話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令48
グオオオオォォォォ――ッ!
虹の王が大きく雄叫びを上げると、それだけで空気がビリビリと振動し、頬を強く打つ突風のような衝撃が走る。
「こ、これが生きた虹の王……!?」
とてつもない迫力。存在感――
レオーネもアールメンの街の氷漬けの虹の王を何度も見た事がある。
が、生きて動いている個体は全く違う。桁違いだ。
何か本能的な恐怖感を感じる。レオーネは思わず身震いしていた。
「リップルの異変は、天上領が仕掛けたこの国への制裁だ。その本命がこの虹の王だっていうなら、納得は行くわな――」
虹の王は一国をも滅ぼすという。
確かにレオンの言う通り、一国への制裁には相応しいものなのかも知れない。
「な、何とかしないと……何とか――! で、でも……」
あんなもの、どうにかできるのだろうか――
「レオーネ、もういちどヤツごと空間を隔離しろ!」
「は、はいお兄様――!」
レオンの指示で我に返り、レオーネは奇蹟に意識を集中した。
魔印武具が反応し、一瞬周囲の景色が変わり始めるが――
ヴヴゥゥンッ!
力が崩壊して、再び元の景色に戻ってしまう。
「ダメ……! 虹の王の力が強過ぎて、隔離できない!」
「そうか――ならここでやらざるを得んな……!」
レオンの周囲に、十体近い雷の魔物が出現して展開する。
「レオーネ、お前は気絶してる奴らを集めて避難させろ、巻き込まれるぞ!」
「で、でも私も……!」
「レオーネ! 大丈夫ですか!?」
頭上から、リーゼロッテの声。
気を失った生徒をニ、三人抱えている。
「リーゼロッテ! ええ、私は大丈夫!」
「レオーネさんリーゼロッテさん、二人は気を失っている人達の避難を! 私達が虹の王を喰い止めます!」
別の方向から、ミリエラ校長の指示が飛ぶ。
「わ、分かりました――!」
「ユアさん! あなたはレオンさんと虹の王の注意を引いて下さい!」
「えぇ――? あんなごっついの、怖いんですけど……?」
「今は口答えは許しませんッ! やりなさい!」
「う……!? は、はい――」
ユアはミリエラ校長の剣幕にビクッと身を震わせ、怯えながら頷く。
「し、仕方ない……怖いけど――」
ユアはそろりそろりと、虹の王に接近しようとする。
ゆっくりと、後方に回り込むようにしながら――
グオオオオォォォッ!
それが気に障ったのか、虹の王はユアに振り向いて大きく吠える。
「ひいいぃっ」
と、怯えるユアだが、やはり表情は殆ど無表情だ。
「おいおいビビるなよ。だが、逆にいい囮だがな!」
レオンの意思を受けた雷の獣が、虹の王の巨体を駆け上がり、顔面にぶち当たって大きく爆ぜた。
ゴウウゥゥゥンッ!
それは大きな閃光と共に、虹の王のまだ完全ではない部分――虹色では無い表皮に、多少の傷を残した。
「おお……こいつぁ頼れる――」
ユアが感心していた。
「お? そうかい、そいつは嬉しいねえ」
「うん。ナイス、おっちゃん」
グッと親指を立てる。
「いやまだ俺二十代なんだが……! でも君くらいの子から見たらそうかもなあ。うーん……ま、いいや! ガンガン行くぜ!」
次々に雷の獣が虹の王に躍りかかって行く。
執拗に頭部を狙い、連続爆発。
しかし傷がつくそばから、即座に傷の再生がはじまってしまう。
結果として大きな痛手にはっていない。恐るべき生命力だった。
だが、爆発の閃光で視界を封じるため足止めには十分である。
「いいですよ、そのまま続けて下さい! 今のうちに避難を!」
それを見ながら、ミリエラ校長は杖の魔印武具を振りかざす。
虹の王とその周囲を覆う結界が、大きく半球状に張り巡らされた。
空間隔離が出来ない以上、結界で周囲への被害を防ぐしかない。
「負傷者の避難を優先しつつ、何とか突破口を探ります! シルヴァさん、リップルさんの様子はどうですか!?」
「もう光も収まりましたし、力も吸われません……! 恐らくですが、これで最後の獣人種の魔石獣と思われます!」
「そうですか――踏ん張りどころですね……!」
「もうじきリップル様も目を覚まされるのでは――!? それまで何とかもたせれば、リップル様の力をお借りして、ヤツを――!」
「いや、それはアテにすんな」
シルヴァの言葉にレオンは首を振る。
「ええ――その通りです……!」
「ど、どうしてですか校長先生!? こんな時こそ、天恵武姫のお力を……!」
「あの虹の王は、恐らくまだ完全体じゃありません。でしたら、別の突破口を探すべきです……!」
「ああミリエラの言う通りだ。それにリップルも病み上がりじゃあ、調子が出ねえだろうからな。無理はさせるもんじゃねえよ」
と、話し合うレオン達を尻目に、ユアが虹の王の足元に最接近していた。力を溜めるように、ぐるぐると腕を振り回しながら。
その拳が、内から淡く光っている。
「嫌な事は早く終わらせるに限る――」
たんっ。
飛び上がり、膝頭を蹴り上がり、腹の鳩尾当たりの高さで――
ボゴオォォォォッ!
大きな鈍い音を立てて、ユアの拳が虹の王の体に突き刺さった。
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