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第14話 12歳のイングリス2

「あっ! 天上領(ハイランド)! 通ってるのは久しぶりに見たわね!」


 ラフィニアは、空に浮かぶ天上領(ハイランド)に手を合わせて目を閉じた。


「ラニ。何をしてるの?」

「願いごと! 天上領(ハイランド)を見たら、叶うらしいわよ?」


 流れ星にお願い事をするみたいなものだろうか。

 まあ確かにこの城塞都市ユミルでは天上領(ハイランド)の姿を見る事はあまりないので、貴重ではあるが。

 イングリスもこれまで一度しか見た事は無かった。


 無論前世にはあのような存在は無かったので、興味深くはある。

 魔印武具(アーティファクト)魔印(ルーン)を刻む『洗礼の箱』などは天上領(ハイランド)で作られたものであるとも聞く。

 地上の国々はそれを提供して貰い、自分達の住む場所を護っているというわけだ。


「ははは。迷信じゃない? それ?」

「いいじゃない、一応よ一応! ほらほらクリスも何かお願いしたら?」

「うーん。仕方ない……」


 目を閉じる。願い事は一つだ。


(歯応えのある強い敵と戦えますように……!)


「あたしはラファ兄様が元気でいますようにってお願いしたわ」


 ラファエルは王都に出て騎士学校を首席で卒業した後も、王都に残って騎士として働いているようだ。

 その仕事が忙しく、なかなかこのユミルに帰って来る事が出来ていない。

 最後に会ったのは何年前だったか。


「クリスは? 何をお願いしたの?」

「歯応えのある敵と戦えますように……かな」

「あはは。ホント昔からクリスは、天使の身体に武将の魂が宿ってるわよね~」

「否定はしない」


 言い得て妙だと思う。

 それだけラフィニアはイングリスの事を理解しているのだ。

 ここまで12年、本当の姉妹のように育ってきた。

 イングリスが魔印武具(アーティファクト)無しでも魔石獣を倒す事が出来る力を持っている事も、ラフィニアだけは知っている。


「とりあえず、あたしの願いごとだけでも叶ってくれるといいなあ。クリスのは却下ね。それが叶うって事は、何か大変な事が起きるって事だし」

「それは不公平だよね、不公平だ」

「だったら、もっと可愛いお願い事にすればいいのよ。ほら、素敵な恋人が欲しい~! とかね?」

「い、いらないいらない……! さすがにそれは無いから!」


 そんな恐ろしい事はあり得ない。想像するだけで寒気がする。

 確かに女性の身体で着飾る事に抵抗が無くなって来てはいる。

 が、それは男性の目線で自分自身を見てその美しさを楽しんでいるのであり、あくまで自分の思考、意識は男性のままなのだ。

 その自分に男性の恋人など、気持ち悪い以外の何物でもない。


「そうよね。あたしも知らない人とクリスが恋人になるなんて嫌よ? 認めるとしたらラファ兄様だけね。ラファ兄様の恋人も、クリス以外は嫌よね」

「う、うーん……わたしはそういう気は――」

「ま、とりあえず帰りましょうか」


 この日お願いしたイングリスとラフィニアの願い――

 歯応えのある強い敵と戦えますように。

 ラファエルが元気でいますように。

 ――それは偶然だが、両方とも叶えられる事になるのだった。



 数日後――



「王都からの監察?」

「うん、お父様が言っていたの。今までもニ、三年に一度来ていたけど、今回は天上領(ハイランド)の人も初めて一緒に来るらしいわよ」


 場内にある騎士団の訓練所での休憩時間。

 ラフィニアがそんな情報を教えてくれた。


「……ふうん? そうなんだね――」

「あたし達天上人(ハイランダー)って会った事無いじゃない? どんな感じか楽しみよね? 歓迎の宴にはあたし達も出て欲しいってお父様が言っていたから、そこで見られるわよ」

「うん。そうだね」


 しかしラフィニアは楽しみにしている様子だが、これは喜んでいい事なのだろうか?

 地上の国は天上領(ハイランド)製の魔印武具(アーティファクト)を譲り受け、それを使って魔石獣から土地と人々を護っている。

 それは無償ではない。膨大な地上の作物や資材を献上する見返りである。

 地上の国は、そうしなければ生きてはいけないのだ。


 少なくともこの国はまだ王家や貴族などの支配階級が機能しているが、天上領(ハイランド)側がそれらを排して地上を直接支配するといった事も考えられる。

 今回王命による監察に天上人(ハイランダー)が初めて同行してくるというのは、天上領(ハイランド)側がこの国を直接支配しようとする兆しなのでは……と、そう思うのである。


 そういう政治的な事を、まだ12歳のラフィニアが読み解く事は難しいだろう。つい前世の癖で大局を考えてしまったが、一生を前線の見習い騎士で過ごす予定のイングリス・ユークスにも関係のない事だ。

 ただ、この故郷ユミルや家族には何事もあって欲しくは無い。

 その時は容赦なく力を振るう事になるだろう。


 そして、監察の使節団がやってくる日が来た。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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