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第139話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令47

「お、おいあれ――」

「あ、ああ。見た事あるぞ……!」


 生徒達が騒めき始める。

 レオンは元聖騎士。この国の英雄である。

 その顔を見知っている生徒も、決して少なくなはい。


「……お兄様! どうしてここに――!?」


 レオーネがそう発言したことにより、その場の全員に状況が把握できた。

 彼女が聖騎士の地位を捨て血鉄鎖旅団に走った裏切り者レオンの妹である事は、周知の事実だ。


「じゃあ、血鉄鎖旅団が妨害しに来たのか!?」

「こ、こんな時に……!」

「元聖騎士と戦う事になるのか……!?」


 いきり立つ生徒達。


「おいおい待ってくれよ。さっきのを見てただろ? 俺は協力しに来たんだよ、まあ信じろっても難しいのは分かるがな。なあミリエラ、生徒達に何とか言ってやってくれよ」

「……あなたが、それだけの事をしてしまったという事ですからねえ。そこは擁護できませんよお」


 ミリエラ校長は、渋い表情を崩さない。


「まあな。違いねえわな。はっはっは」

「笑い事ではありませんよお。残されたレオーネさんがどれだけ辛い思いをしてきたか、ちゃんと分かっていますか? あなたにも信念があるのは分かりますが、肯定はできません。レオーネさんは私の生徒ですから――生徒を傷つける方は、たとえ肉親だろうと許せません」

「……そいつはありがてえ。これからもレオーネの事、よろしく頼むぜ」


 レオンは少々真面目な顔になり、ミリエラ校長に頭を下げた。

 ミリエラ校長はふうとため息を吐く。


「――ここで私達に手を貸すのが、罪滅ぼしのつもりですかあ?」

「まさか。そんな事で許されるような甘い話じゃねえのは分かってる。ま、今のボスの命令でな――仕方なくだよ仕方なく」


 ただ、それを命じる時、黒仮面はレオンにこう言った。

 例えそれが他者からどう思われようと、己の中の大義を押し込めるべきではない。

 守りたいものがあれば、守りに行けばいい。

 その結果、これからも同じ道を歩み続ける事が出来るならば僥倖だ――と。


「校長先生。今は使えるものは何だって使うべきです! 元聖騎士の力は大きい!」


 と、シルヴァがミリエラ校長に意見する。


「お? 物わかりのいいやつがいるじゃねえか。結構結構。お前さん見込みあるぜ?」

「勘違いしないで頂きたい! 同じ特級印を持つ者として、責任を放棄して逃亡したあなたを許すことは出来ない! 事が終わったら、即座に拘束して裁きを受けさせてやる! レオーネ君もそれでいいな!?」

「は、はい……! シルヴァ先輩――!」

「おっかねえ……ま、そうなる前にトンズラさせて貰うとしますかねえ」


 肩を竦めながら、レオンは生徒達の作る円陣の中に。分け入っていく。

 中央にいるレオーネや、シルヴァ達の近くまで進むと、懐から丸い球体を取り出した。

 白と黒が交じり合った、斑模様をしている。


「ほらよっ!」


 それを足元に、放り投げる。


 パリィィンッ!


 球が砕けて割れると、白と黒が入り混じった霧のようなものが辺りに充満する。


「な、何だ……!?」

「目潰しか……!?」

「き、気をつけろみんな――」


 そう上がる声に、レオンはため息で応じる。


「やれやれ信用ねえなあ。お前達はこの国の将来を担う精鋭だろ? 一々慌てふためくんじゃねえ、目の前で起こってる事の本質をよーく感じ取ってみな」


 だが言われるまでも無く、その効果に気が付く者もいる。


「こ、これは力が……! 戻って来る――!?」

「本当ですね……! これは一体――」

「体が軽くなって来ましたわ……!」

「ええ、これなら――」


 もう一度全力で、奇蹟(ギフト)を使う事が出来る。


「こいつは魔素の霧(マナミスト)。効果のほどは、お前さん達も体感した通りだ。中々の優れものだろ? うちのボスは何か知らんが色々持って来るからな」


 そしてレオンの指示が、レオーネに飛ぶ。


「レオーネ、もう一度異空間に隔離だ」

「…………」

「おいおい、今はいいだろ? 今更罠に嵌めたりはしねえよ?」

「分かっています――」


 レオーネは努めてぶっきらぼうに応じる。


 本当の事を言うと、悔しかったのだ。

 この状況でレオンが救援に現れてくれて頼もしいと、ほっとしてしまった自分がいる。

 レオーネの事を頼むとミリエラ校長に頭を下げる姿に、肉親の情が蘇りそうになってしまった。


 本来そうあるべきではないのに、だ。

 緊急時ゆえ協力はやむを得ない。

 が、あくまで一時的に利害が一致するだけの敵と見ないといけないのに――


 自分の心の動きは、明らかにそうではない。その事が悔しい。

 だから表に出してはいけないと、そう思う。


 ともあれ力を取り戻したレオーネの手により、再び奇蹟(ギフト)が発動。

 何も無い暗い異空間へと、周囲の光景が切り替わる。


「じゃあこっちに手を貸すぜ。リップルにマナを喰わせて、魔石獣を呼ぶんだよな」


 レオンは未だ気を失い続けているリップルの側に跪き、鉄手甲のアーティファクトを触れさせる。


「う……っ!? しかしこりゃあ、すげえ喰われようだな――」

「シルヴァさん、私達も――!」

「はい、校長先生!」


 三人がかりで、それぞれのアーティファクトからリップルにマナを流し込む。


 すると、その体を覆う光はどんどん膨張し、輝度を増していく。

 余りにも急速に、かつ大量にマナを喰われ、三人に一気に疲労が押し寄せる。


「おいおい……! これだけやって何も出ねえのか――!?」

「さっきまでは、どんどん現れていたんですけどねえ……!」

「今までとまるで違いますね……!」


 そして――


 不意に円陣の外側に、巨大な空間の歪みの渦が現れる。


 ズドオオオォォォォォォンッ!


 次の瞬間、巨大な光の柱が天に向かって立ち昇った。

 その威力の余波で、レオーネが生み出した異空間は吹き飛ばされて消滅し、元の騎士アカデミー内に再び戻ってしまった。


「っ!? 空間が――!?」

「壊れましたの……!?」


 つまり、それ程の威力を今の光の柱は持っているという事。

 天井や校舎の屋根も貫き、更に巻き起こる衝撃波が、校舎の壁も吹き飛ばした。


「「「うわあああぁぁぁっ!?」」」

「「「きゃあああぁぁぁっ!?」」」


 その場にいた生徒達は散り散りに、大きく吹き飛ばされる。

 後に残ったのは瓦礫と化した校舎と――その中心に立つ小山のような巨大な影だった。


「ううぅ……っ!?」


 レオーネも激しく吹き飛ばされたが、何かに受け止められて、大きな怪我は負わずに済んだ。


「……よ。大丈夫か?」

「お兄様――」


 どうもレオンが、レオーネを受け止めてくれたようだ。

 微笑みかけて来るが、レオーネはぷいと顔を逸らす。


「い、今のは一体……!?」

「ああ。見ろよあれを。リップルのやつ、とんでもねえもん呼び出したぞ――」


 レオンの指差す先には、七色に輝く体を持つ魔石獣――虹の王(プリズマー)がいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、イングリスちゃんの歓喜の声が聞こえる気がする。
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