第138話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令46
イングリスとラフィニアが、血鉄鎖旅団の黒仮面と邂逅する少し前――
隔離用の異空間の中で、リップルが呼び出す魔石獣の討伐は続いていた。
「ちょいなああぁぁ~」
ザシュウウゥゥッ!
ユアの手刀が、左右から迫る強化型の魔石獣を縦に一文字に斬り裂いて両断した。
「ほ、本当に凄いですわ、ユア先輩……!」
その光景に、近くで見ていたリーゼロッテは驚きを禁じ得ない。
あのイングリスですら、素手で魔石獣を倒す事は出来ないのだ。
一体ユアは何をどうしているのだろうか?
分からないが、頼もしい事はこの上ない。
ここまで相当数、恐らく数十体の魔石獣を倒しているが、ユアの力が無ければとてもここまでは出来なかっただろう。
「……ありがと。トンガリちゃん」
「ど、どういたしまして……」
だが、変な名前で呼ぶのは勘弁して頂きたいところだ。
「でも、ちょっと疲れて来た」
「え、ええ――わたくしも……」
奇蹟の力を全開にしながらの、休みなしの連続戦闘だ。
ユアとリーゼロッテだけではなく、他の人員もかなり疲弊して来ていた。
それは、リップルに魔素の供給を続けて魔石獣を召喚させ続けていたミリエラ校長とシルヴァも同じだ。
「……シルヴァさん、調子はどうですか?」
「キツいですね。ですがまだ、リップル様はこちらの力を吸われていますよね……!?」
「ええ。そうですね――」
まだ、魔石獣の召還は打ち止めではないのだ。
ミリエラ校長とシルヴァには、体感でそれが分かっていた。
「でしたら、休むわけには行きません……! 続けましょう!」
「ええ――皆さん! 次が出ます! 気を付けて下さい!」
ミリエラ校長とシルヴァは、力を振り絞ってリップルに魔素を供給する。
再び渦のような空間の歪みが発生。
強化型の魔石獣が今度は三体、出現した。
「みんな頼む――っ!」
周囲を鼓舞しつつ、更に魔素の供給を――
と考えて集中を続けるが、明かな異変に気が付く。
ヒイイィィンッ!
そしてリップルの体を覆っていた黒い球体の色が変化する。
様々な色が混ざり合って揺らめく、七色へと――
そしてリップルに魔素を吸われる強さが、これまでと段違いに強くなった。
「うう……っ!? こ、これは――!?」
「リップルさんに一段と強く力を吸われるように……!?」
これでは、もうこれ以上魔素の供給を続けるのが難しい――!
何とか耐え忍ぶ二人を尻目に、現れた三体の魔石獣の掃討が行われる。
ユアが一体を正面から撃破しにかかり、リーゼロッテは一体の注意を引いた。
もう一体の魔石獣は広範囲に熱線を撒き散らすため、力を溜めている。
「させませんッ!」
リーゼロッテはその攻撃を無効化するために、強く奇蹟の力を使おうとするが――
シュウゥンッ!
意思に反して、奇蹟の白い翼が消失してしまう。
――耐久力の限界だ。
「っ!? 誰かあれを止めて下さいませ!」
「私がやるわっ!」
レオーネの大剣の魔印武具が伸び、その魔石獣を弾き飛ばす。
「ありがとうございます、レオーネ!」
「ナイス。二号ちゃん」
ユアも魔石獣の相手をしながら、レオーネを称賛する。
「――でもごめんなさい、もう限界ですっ!」
隔離用の異空間が消失し、元の騎士アカデミーの大教室の景色に戻った。
「すんません、俺も!」
「私も……!」
それは、レオーネと同じく隔離用の魔印武具を持つ生徒達だ。
全員の力が尽き、これ以上異空間で先頭を続ける事が難しくなってしまった。
「みんな限界か……これ以上続けるのは難しいのか……!?」
「とにかく、今いる魔石獣を倒してしまいましょう――!」
ミリエラ校長の指令に、早速ユアは手刀を振るう。
「とう」
ユアと向き合っていた強化型魔石獣の首が落ちる。
しかしリーゼロッテと戦っている魔石獣は健在。
先程レオーネが弾き飛ばした魔石獣は起き上がり、再び力を溜めていた。
「また来ますわ――!」
「よし、ならば僕が――!」
シルヴァが立ち上がって手を貸そうとするが――
勢い良く立ち上がった瞬間、眩暈を感じてふらついてしまう。
段階の上がったリップルへの魔素供給が、予想以上にシルヴァに負担をかけていたのだ。
「う……っ!?」
間に合わず、魔石獣が円陣になるこちらに向け熱線を放った。
これまで撃たせずに凌いできたが、とうとう防ぎ切れなかった。
「「ああっ!」」
「「い、いけないっ――!」」
声が上がる中――
熱線が生徒達に向かう進路上に、青紫に輝く四本足の影が割り込んで来た。
それが熱線を受け、激しい光と共に弾け飛ぶ!
ゴウウゥゥゥンッ!
その爆発と威力が相殺。
魔石獣の熱線も消失した。
「……! 雷の獣――!?」
レオーネが声に応じるように、更に四体の雷の獣が姿を現す。
それが一斉に魔石獣を取り囲んだ。
魔石獣は自分を取り囲む雷の獣を殴りつけて攻撃するが、その手が触れた瞬間――
ゴウウゥゥゥンッ!
雷の獣が爆散。魔石獣の腕も巻き添えに弾け飛んだ。
グオオォォォッ!?
仰け反る魔石獣に残りの雷の獣が体をぶつけ、さらに弾け飛ぶ。
結果、魔石獣の姿も弾け飛んで消えていた。
「離れな! アールシアのお嬢さん!」
そう声がして、再び現れた雷の獣達が、最後に残ったリーゼロッテと交戦中の魔石獣に向かう。
「っ!?」
大きく飛び退くリーゼロッテと入れ替わるように、雷の獣達が魔石獣へと突進。
魔石獣は先程の個体と同じ運命を辿り、爆散して消失する。
その閃光が大教室を包んで消えた後――入口の所に、一人の青年の姿が現れていた。
「……お兄様!」
「よっ。まあ何だ――色々言いたい事はあるだろうが、ここは手を貸させて貰うぜ」
レオンは後ろ頭を掻きながら、少々ばつが悪そうな笑みを浮かべるのだった。
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