第134話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令42
「隠しているもの――何の事かな?」
黒仮面はそう白を切る。
「あなた方の船を撃ったわたしの攻撃――逸らせたのはあなたのはずです。それを見せて下さいと言っています」
「フッ。目聡い事だ――だが、そう面白いものでもないのだがな?」
「それはわたしが見て決めますので」
「横暴だな。が、仕方あるまい。ではご覧に入れるとしよう」
黒仮面がそう言った直後、その身を覆う霊素の光の色が変わった。
イングリスと同じ青白い光の色から、黄色がかった別の色へと変化をしたのだ。
「……!」
それが、霊素である事は分かる。
確かに霊素だ。そう感じる。
だが、黄色の霊素など見た事が無い。
それは前世においても、だ。
イングリスを半神半人の神騎士とした女神アリスティアもその身に纏う霊素は、イングリスと同じ青白い色だった。
その他、女神アリスティアの盟友の神々も同じ色だった。
「これは魔神の気……!?」
前世において存在していた神々の敵。
イングリスはそれを打ち倒し、神々にも人々にも、英雄として認められ王となったのだ。
魔人の気は確か黄色だったはず。
「いや、しかし――」
目の前の黒仮面が身に纏う力は確かに霊素で、魔人のような禍々しさは感じない。
霊素は霊素でも、大きく波長が異なるような印象を受ける。
黒仮面は霊素そのものの質を制御することができるようだ。
驚愕すべき制御力だ。
こんな事が出来るとは、思った事も無かった。
だがこの色は偶然なのか?
そもそも、魔神とは何だったのか?
今更ながらに、そんな疑問が生まれる。
が、それよりも――
面白い!
未知の力からは、未知の技が飛び出すに違いない!
「やはりまだ奥の手を隠していましたね――ふふふっ。あなたとこうしていると楽しいですね?」
イングリスは黒仮面に微笑を向ける。
その格好もあり、とても可憐でとても清楚。
だがしかし――
「何故だろうな。うら若き女性からかけられた言葉にしては、まるで喜びを感じぬな」
「わたしは喜んで下さっても構いませんが?」
「そうもいかぬよ。我は君と違い、己の大義にうつつを抜かす不心得者――戦っているばかりではいられん。さあ、来るがいい!」
「では――!」
イングリスは全速で真っ向から踏み込み、拳を繰り出す。
まずは様子見。
真っすぐ行ってそのまま殴る。
何の捻りも無い攻撃だが、手は抜かない。全力の拳打だ。
剛腕が唸りを上げて、黒仮面に迫る。
だが黒仮面を覆う黄色の霊素に近づくと――
ヴゥンッ!
何か異様な手触りと共に、拳が狙いを逸れて空振りをした。
「え……!?」
もう一発、二発、と拳を振るう。
しかしそれも、不可思議な力で黒仮面に触れられずに逸れてしまう。
「ならば――!」
上段蹴り!
ヴヴゥンッ!
やはり蹴り足は黒仮面に触れられず、表面を滑るように弾かれてしまう。
何だろう。黒仮面に近づけば近づく程、猛烈な反発で相手に触れる事が出来ない。
まるで同じ磁極を近づけた時のように、反発でお互いが離れてしまう。
「これは――!? これでわたしの霊素弾も……!?」
「左様。霊素の質を変え、お互いの力が反発するようにさせて頂いた。これでお互いに、触れ合う事は出来ぬ。ゆえに傷つける事も叶わぬ。これは力の強弱ではなく質の問題だ」
「つまり絶対的な防御手段であり、絶対的な攻撃手段の破棄でもある……?」
「そうだ。もう我々の間には争いは発生し得ぬ。平和だろう?」
「……つまらないです」
それでは、戦えないではないか。
イングリスは不満そうに唇を尖らせる。
「だから言っただろう? そう面白いものでもないとな」
「……仕方ありませんね」
ふう、と一つため息。
「理解を頂けたようで何よりだ」
「ええ分かりました。こうするしかないという事が――」
ピキイィィンッ!
イングリスの身を覆う霊素殻の青白い光が消えて、手の中に氷の剣が現れる。
霊素の戦技では、黒仮面に触れる事が出来ない。
ならば霊素を魔素に落として、戦うまで。
霊素さえ使わなければ、黒仮面の霊素による反発を受ける事はないはずだ。
「……そんなもので、まだ戦おうというか? あえて力を落とせば、圧倒的に君に不利となるのだが?」
「それはそれで――創意工夫をしてみるのも、戦いというものです」
「理解できんな。何が君をそこまでさせる?」
「人生は短いですから。一時たりとも無駄には出来ないという事です」
「やれやれ……そんな若さで、行き急ぐものだ。ならば相手続けねばなるまいか――」
黒仮面がため息を吐いた瞬間――
「クリス! 何か来る! 気を付けて!」
機甲鳥に乗って近くを飛んでいたラフィニアが、そう叫んだ。
確かに光に包まれた何かが、遠くからイングリスと黒仮面の近くに飛来して来ていた。
ドオオォォンッ!
大きな音を立てて降り立ったのは――
「……! あなたは――」
「ハハハハ! 大戦将たる僕が、あの程度で死ぬと思ったか! 残念だったな!」
遥か彼方に蹴り飛ばしてしまった天上領の使者、イーベルだった。
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