第132話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令40
気を失うリップルをしっかりと支えて横たえつつ、シルヴァは他の生徒達に指示を出す。
「みんな! リップル様を中心に円陣の態勢になるんだ! 敵はどれだけの数になるか分からない! 互いに補いながら戦おう!」
「レオーネさん他の、空間隔離用魔印武具を担当される方は、円の内側に! 一歩下がって、皆さんのフォローをお願いします!」
「「「はいっ!」」」
選抜された生徒達の反応は早く、一斉に動き出す。
そんな中、円陣の周囲にいくつもの渦のような空間の歪みが発生。
そこから、獣人種の魔石獣が姿を現してくる。
ラーアルやセイリーンがプリズムパウダーによって変化した魔石獣に匹敵する強さを持つ、強化型の魔石獣だ。
まともに攻撃を受ければ、シルヴァでさえも重傷を負わされるような、全く気の抜けない相手である。
それが五体。散開して円陣を取り囲むような配置に召喚されていた。
「あれが五体も……!? いきなり大勢ですのね――!」
「でも、やるしかないわ! ここで私達がやってみせれば、アールメンとシアロトを守る事に繋がるんだから……!」
「ええ、やりましょう!」
強く頷き合うレオーネとリーゼロッテ。
「えーと……あ、敵。でもええとみんなで集まって――?」
皆が緊迫感に包まれる中、ユアだけは動きに取り残されてふらふらしていた。
「ユア! お前は回りの事なんか気にせず、目の前の敵をどんどん倒せ!」
そう声をかけたのは、二回生のリーダー役のモーリスだった。
ユアは実力は飛びぬけているが、間違ってもまとめ役向きの性格ではない。
そういった役は別に必要で、彼がそれだ。
心の広いタイプらしく、ユアとの関係も悪くない。
「モヤシくん――」
「モーリス! いいからやっちまえ!」
「じゃ、怒られたらモヤシくんのせいだから」
ぽつりとつぶやいて、手近な魔石獣へと軽く走って接近。
ユアの場合、軽そうな動きが全く軽くないのが特徴である。
実際はレオーネ達の目から見ると、異様に速く鋭い踏み込みである。
「てい」
ぺしりと撫でるような掌打。
ボゴオオォォッ!
しかし魔石獣は体を変な方向に折り曲げつつ吹っ飛ぶ。
「「「おおおおぉぉっ!?」」」
思わず声を上げてしまう生徒達。
魔石獣達すらも、一瞬固まったように見える。
あまりの事に、驚いているのだろうか?
「あいつはあれでいいですよね、校長先生、シルヴァ先輩!」
「ああ。構わないさ!」
モーリスの問いかけにシルヴァは頷く。
ユアは協調性のあるタイプではない。
下手に連携を取らせるより、自由に遊撃の方がいいだろう。
一体を強烈に弾き飛ばしたユアは、また別の敵へと向かっていく。
だが敵は五体。それも広く散開している。
グオオオオォォォッ!
ユアの真逆に位置する一体が、大きな雄叫びを上げる。
その周囲にいくつもの光点が収束を始める。
広範囲に熱線を撒き散らす攻撃!
集合して陣形を組んでいると、離れた位置からの範囲攻撃には対処し辛い。
「させませんわっ!」
だが奇蹟の白い翼を出現させたリーゼロッテが、全速力で宙を駆け、間一髪魔石獣の懐へと滑り込む。
勢いを乗せた斧槍の突きは、魔石獣の首筋を深く貫き、同時に収束していた熱線が霧散した。
「わたくしも前に出て、敵をかく乱いたします! 構いませんわよね!?」
敵に深く突き刺さった斧槍を引き抜きつつ、リーゼロッテは言う。
「無理はしないで下さいね! 敵の攻撃を分散させるだけでいいですから!」
ミリエラ校長は頷いて許可を出す。
彼女の奇蹟による縦横無尽の機動力は、下手に隊列に組み込むよりも、動き回って敵を攪乱させてこそ活きる。
ユアだけでは囮役が充分では無いし、リーゼロッテにも出て貰った方がいい。
リーゼロッテは魔石獣の体を蹴って飛び立つと、更に奥で熱線を放とうと力を溜める一体の元に突撃する。
「こちらも! させませんからっ!」
斧槍の斧頭を、突進の勢いを乗せて魔石獣の胸に叩きつける。
こちらも攻撃により、収束しつつあった力が霧散をした。
攻撃直後、すぐに白い翼に力を込めて、距離を取る。
一撃離脱で、敵の大技を妨害しながら飛び回り続けるつもりだ。
更にもう一体に攻撃を加えると――
魔石獣は身体をグッと締めて、突き刺さった穂先を抜かせないように試みて来る。
「くっ……! 小賢しいですわね――!」
そうしてリーゼロッテを足止めをしているうちに、別な一体が彼女の背後から迫る。
知性を感じさせない魔石獣だが、戦いでは意外と連携を取って来る。
一時的に斧槍を手放して回避するか、身を捻って蹴りで対抗するか――逡巡するリーゼロッテの視界の端から、グンと黒い鉄の刃が伸びて来る。
「させないっ!」
レオーネの魔印武具だ。
強く突きを放ちながら奇蹟の力で刃を伸ばす、剣速と奇蹟で刀身が変化する速度を両方乗せた攻撃だ。
聖騎士であるレオンにすら通用した攻撃だ。
それはリーゼロッテの背後に迫る魔石獣を、更に背後から刺し貫いていた。
串刺しにされた魔石獣の足は当然止まる。
その間に、リーゼロッテは魔印武具を引き離して離脱に成功していた。
「ありがとうございます、レオーネ! 二つの奇蹟を同時に扱えていますわね!」
「ええ――練習したから!」
レオーネはリーゼロッテに笑みを返す。
「すごい……いいですよ、レオーネさん!」
それを見ながら、ミリエラ校長は驚きを隠せなかった。
今のレオーネは、隔離用の異空間を奇蹟で生み出しつつ、もう一つの奇蹟を操って見せたのだ。
いずれそうなる事は期待していたが、こんなにも早く身につけているとは――
素晴らしい事だ。空間の維持に専念して貰わざるを得ないと思っていたレオーネが、こうして動けるのは大きい。
「さあ、この調子でバリバリ魔石獣を倒していきますよっ!」
黒い球体に包まれたリップルは、ミリエラとシルヴァの魔素をまだまだ吸い上げている。
敵はまだまだ呼び出されるはずだ――
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