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第130話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令38

 それは、イングリスが黒仮面と交戦を開始する暫く前。

 血鉄鎖旅団の手により、王宮に魔石獣が現れ始めた頃――


「お、おい! 王城の方が騒がしいぞ! 火の手が上がっている!」

「な、何だと……!? ほ、本当だ!」


 騎士アカデミーに出向中の近衛騎士団の騎士達は、王城の異変に気が付いて騒ぎ始める。

 一緒に作業をしていたシルヴァは、彼等を促す。

 今夜のうちにはリップルを王城の近衛騎士団の元へ移送する手筈で、その準備を手伝っていたのだ。


「何事かは分かりませんが、あれは只事ではありません……! ここはいいですから、すぐに戻って確認した方がいいのでは? 作業は僕が進めておきます!」


 シルヴァは、彼等の上司である騎士団長レダスの弟である。

 その言葉は無下には出来ないし、そもそも彼の言う通りでもある。


「そうですね。分かりました、シルヴァさん!」

「ええ……! 安全も確認できぬのに、リップル殿をお連れするわけには――」

「では失礼します! 後をお願い致します!」


 騎士達は機甲鳥(フライギア)に乗り込み、王城へと飛び立って行った。

 遠ざかる彼等の後姿を見ると、シルヴァとしては罪悪感を感じる。


 何事が起きているかは分かっているのに、言わずに彼等を騙してしまった。

 今日まで引継ぎ作業を伸ばし伸ばしにして、リップルを王城に連れて行かせなかったのもそうだ。


 申し訳ない。申し訳ないが――リップルを救うためだ。仕方がない。


「よし……! 急がないと――!」


 すぐにミリエラ校長やリップルや、護衛役の生徒達と合流をする。

 彼等は既に、校舎内の大教室に集合していた。


 最初にミリエラ校長が各回生の選抜生徒を集めて、リップルの護衛作戦を説明した部屋だ。

 王城の警護に回ったイングリスとラフィニアを除いて、全ての戦力がそこに集まっていた。


 レオーネもリーゼロッテもその中におり、緊張した面持ちで席についていた。

 その近くではユアが頬杖をついて、今にも眠ってしまいそうに、ウトウトと船をこいでいる。


「お待たせしました! 校長先生、リップル様! 早速始めましょう、時間が無い!」


 シルヴァがそう呼びかけると、ミリエラ校長は真剣な顔つきで頷く。


「ええシルヴァさん。皆さん、この作戦は何が起こるか分かりません――ですから改めて言っておきますが、作戦への参加は自由です。どうか無理はしないで下さいね」


 と、ミリエラ校長が呼びかけるが、誰も席を立つ者はいない――と思いきや一人いた。


「あ。じゃあ私帰って寝ます」


 と、寝ぼけ眼でユアは言って、出て行こうとする。


「わーっ!? 待って! 待って下さいユアさん! あなたはいてくれないと困ります!」


 この作戦はイングリス発案の、リップルが召喚してしまう魔石獣を全滅させ、天上領(ハイランド)からの制裁として発動したその機構を実質無効化しようというもの。


 特級印を持つミリエラとシルヴァは、魔石獣の召喚を意図的に発生させるために、リップルへの大量の魔素(マナ)供給を行う必要がある。

 呼び出される魔石獣の討伐に関しては、あまり手が出せないと思っておいた方がいい。


 また、目立たないように魔印武具(アーティファクト)奇蹟(ギフト)で生み出した異空間内で作戦を行うわけだが、レオーネやその他数人の奇蹟(ギフト)担当も、直接戦闘よりも空間維持が主任務となる。


 となると、一見聖騎士に準ずる特級印の持ち主や、上級印の持ち主が大量に集まっているように見えるが、戦力的には決して十分とは言えない。


 そんな中で、特級印を持つ将来の聖騎士候補であるシルヴァを上回る力を持つユアの存在は、不可欠なもの。この作戦の中心はユアにならざるを得ない。


「え? 校長先生、参加は自由って言ってましたけど?」

「言いましたけど心の中では言ってないというか、お約束ってやつですよ、お約束!」

「おやくそく?」

「参加は自由だからって言っておいて、誰も帰らずに、みんなありがとう感動! みたいな! 何か燃えるじゃないですかあ、そういうの! ね? ね?」

「わかりません……?」


 全く無表情に小首を傾げる。

 その心の内は、全く誰にも分からないだろう。


「校長先生はああ言ったが、君に関しては、参加は自由ではないという事さ。君の力が必要なんだ。力を貸してくれ」


 と、シルヴァは正面からユアに頭を下げる。

 シルヴァからすれば、自分の最高の能力は特級印を持つ者にしか扱えない天恵武姫(ハイラル・メナス)の武器化形態を組み合わさって初めて発揮されるのだと反論をしたい所だが、この状況でユアが必要なのは変わりはない。


 頭を下げて協力を求めるなど、何でもない。

 他ならぬリップルのためだ。


 幼い頃に命を救われたあの日から、聖騎士として彼女と共に戦うために、修練に修練をを重ねて今ここにいる。

 その人生の目標を叶える前に、彼女自体にいなくなられては困るのだ。


 そんなシルヴァの様子に、ユアはびっくりしたようだった。


「メガネさん――熱、ある?」

「ない! 僕は正気だ!」

「あ、ほんとだ。すぐキレる」

「相手によるんだよ、相手に!」

「ま、まあまあまあ、落ち着いて落ち着いて」


 と、仲裁に入ってくれたのは、ミリエラ校長ではなくリップルだった。


「ユアちゃん、ボクからもお願い。作戦に力を貸して欲しいんだ」


 そう言って、シルヴァと並んで頭を下げてくれた。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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