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第123話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令31

「「「おぉぉっ……!?」」」


 周囲の騎士達から声が上がる。

 素手で人間を両断してしまう、上位の天上人(ハイランダー)の力への畏怖。

 そして暗殺者の凄惨な死に様への戦慄。

 騎士達の声は、どちらに対してのものでもあるだろう。


 イングリスは間近にいたため、返り血が頬や髪に降りかかって来た。


「クリス! 大丈夫!?」


 駆け寄って来て来たラフィニアが、ハンカチで頬を拭ってくれた。


「あ、うん。大丈夫だよ」


 そのイングリスの様子を見て、イーベルが冷たい笑みを見せる。


「フン。返り血を浴びせてやったのに、肝が据わってるじゃないか? 大の男どもは怯えているって言うのにさ」

「恐れ入ります」


 イングリスはぺこりと一礼して受け流す。

 そんな事よりも、先程のイーベルの力――あれはなかなか興味深い。


 魔素(マナ)の動きらしきものは感じたので、魔術の一種なのだろうが――

 ただ、詳細が一見しただけでは掴めなかった。


 普通の魔術や魔印武具(アーティファクト)に流れる魔素(マナ)よりも、より速くより強く、洗練された力の流れをしていたように感じた。

 得体が知れないという事は、いい事だ。手応えのある強者である事を表すのだから。


 イングリスは知らず知らず、つい笑顔を浮かべてしまっていた。


「何を笑っている。君は怒ると笑う性格なのかな?」

「いえ。メイドですから、お客様に笑顔で接するのは当然でしょう?」


 我ながら上手く誤魔化せたのではないだろうか。

 だがイングリスはさておき、ラフィニアは怒っていた。


「今の、わざとやったんですか!? 悪趣味だわ!」

「そうかい? 人を招いておいて殺そうとする方がよほど悪趣味じゃないのかい? ねえ王よ、君は僕を領土で釣っておいて討とうとしたのかい?」


 イーベルはラフィニアを受け流して、カーリアス国王に視線を向ける。


「め、滅相も無い……! これは我が国の意志ではございませぬ――!」

「さ、左様! 近頃地上に置きましては血鉄鎖旅団なる賊共が跋扈しておりまして、先程の事もその族共の仕業かと――」

「この者の申す通りにございます……! 族の跋扈を許しておりますのは、王として面目次第も御座いませんが……」


 カーリアス国王とレダスは、口々に弁明を続けた。


「ふーん……それを信じてやってもいいけど? でもそれはそれで問題だよ? 君達は大切な天上領(ハイランド)の使者を、自らの無能によって危機に晒したんだ。その罪はどう償うつもりだい?」

「ははっ。このカーリアス、かくなる上は如何なる責めも受ける覚悟で御座います。どうか何卒ご容赦を願います――」


 カーリアス国王はイーベルの前に跪き、低頭平身。

 頭が床に着いてしまいそうな程だった。


「「「へ、陛下……!」」」


 国王自らがそこまでする事に、騎士達は何とも言い難い複雑な表情をしている。


「…………」


 ラフィニアも黙っているが、悲しそうな目をしていた。


 だがそんな中、イーベルは酷薄な笑みを絶やさない。


「ぬるい。そんなもんじゃダメだね、王よ。謝って許されるのなんて、お互いが対等な関係の時だけさ――天上領(ハイランド)と地上では、立場が違う。君は家畜の群れの頭程度にしか過ぎない。家畜は家畜なんだよ? だから――」


 すっと、イーベルの指先がカーリアス国王の右の上腕部を撫ぜるように動く。

 その指先は、先程と同じ不思議な光に包まれていて――


「……!? ぐうぅおぉぉぉ……っ!?」


 血を噴き出しながら、その腕がボトリと地面に落ちた。


「腕一本。詫びに貰っておくとするよ?」


 実に嬉しそうな、嫌らしい笑みだった。


「へ、陛下ああぁぁぁぁっ!」

「き、貴様ああぁぁぁぁぁッ!」

「いくら天上領(ハイランド)の使者とはいえ――!」

「やっていい事と悪い事があるぞッ!?」


 さすがに国王を傷つけられては我慢の限界か、騎士達は殺気立ちイーベルを取り囲む。


「おや? やっぱり君達、僕を騙し討ちにするつもりだったのかい?」


 レダスも怒り心頭のようで、剣を抜きイーベルに突きつける。


「黙れッ! 我等が王に仇なす者は許しておかんッ!」

「止せっっっッ! 鎮まれ皆の者ッ! 鎮まらぬのなら、王の名において死罪に処す!」


 カーリアス国王は、広間中に響き渡る大声で騎士達を一喝する。


「「「!? は、ははっ……!」」」


 そうまで言われてしまうと、レダスや騎士達も、冷や水を浴びせられたようにしゅんとしてしまう。


「い、イーベル殿……寛大な処置を有難うございます――」


 カーリアス国王は、片腕を失いながらもイーベルに首を垂れるのだった。


「「「へ、陛下……」」」


 その姿を見て、情けなさなのか悔しさなのか、涙する騎士もいた。


「くくく……いいだろう、失態は許そう。さあちゃんと僕を護りなよ?」


 イーベルは満足そうに頷いた。


 ラフィニアがイングリスだけに聞こえるように小声で、囁いてくる。


「ね、ねえクリス……」

「?」

「ホントにこれでいいの……? これが正しいの? こんな――」

「人それぞれじゃない? ラニが正しいと思った事が正しいんだよ」


 イングリス個人としては、配下の騎士を悔し泣きさせる位に、王の立場や矜持をかなぐり捨てて見せるカーリアス国王には、ある種の信念のようなものは感じるが。


 どれだけ踏み付けられようとも、天上領(ハイランド)への絶対的恭順を貫き、国や人々を生き延びさせようという事だろう。


 それを見ていると分かる。


 地上が力をつけて、天上領(ハイランド)との力関係を縮めようという意図を感じるウェイン王子とは、確かに信念が折り合わないだろう。


 その対立がどういう結果を生むのか――

 それはまあ、それぞれに頑張って頂ければいいだろう。

 イングリスには関係のない話だ。この時代の事は、この時代の人々が決めればいい。


「それよりもラニ、急いでやる事があるよ?」

「え……? 何をするの?」

「これ――」


 と、イングリスは床に落ちたカーリアス国王の腕にそっと触れる。


「急げばまだくっつくかもしれないから」


 ラフィニアの新型魔印武具(アーティファクト)の治癒の力だ。


「そ、そうね……! 分かった、やるわね!」


 ラフィニアはぎゅっと表情を引き締めて、頷いた。

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[気になる点] 王としての才覚が「腕…付けるのはokじゃね?」って言ってるような…。
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