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第118話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令26

「アールメンとシアロトが……!?」

「ど、どうして――!? どうしてそんな事になりますの!?」


 動揺するレオーネとリーゼロッテに、黒仮面は静かに告げる。


「何も可笑しなことではあるまい。アールメンは氷漬けの虹の王(プリズマー)を監視するという役目を終え、シアロトの主であるアールシア宰相はその役を退き、国王派からも王子派からも距離を置いた。つまりは、どちらにとっても役に立たん者というわけだ。天上領(ハイランド)に差し出したところで、最も影響は少なかろう」

「そういう問題じゃないわっ!」

「どうしてそこまでする必要があります!? そこに何の正義があるというのです!?」


 レオーネとリーゼロッテの剣幕を、黒仮面はさらりと受け流す。


「それを私に問われてもな。我々もそれを認めぬからこそ、ここいにいるのだからな」

「そうだ! 見当違いな事を言うな! 怒りをぶつけるならば、天上領(ハイランド)に領民を売り渡してまで媚を売ろうとする、お前達の愚かな王にぶつけろ!」

「「……っ!?」」


 システィアの批判ももっともで、レオーネとリーゼロッテは反論が出来ない。


「フン。この国は国王派だ王子派だと、下らぬ縄張り争いで呑気なものだ。何が一番大切かが全く見えていない。そしてその不明が、無辜の民を殺す事になる――私はこの男を好かぬが、馬鹿な王族共よりは余程利口だと思うがな」


 と、システィアはレオンの方を見ながら言う。


「……止してくれよ。俺の選択でアールメンの街や両親も、そして妹までも不幸になっちまってんだ――決して利口なんかじゃねえ。彼等の期待を背負いきれなかった大馬鹿者だよ、俺は。結局我が身が可愛かったのさ」

「システィア。レオンはこう見えて優しい男なのだよ。大義と、近しい人々の幸せとが矛盾した時に、取らなかった方の事を思って心を痛める。だから、あまり触れてやるな」

「は、分かりました」

「それに彼女等も、将来は王国の騎士となる候補生だ。言えぬ事も出来ぬ事もあろう。地上の国の内部の問題は、各々が解決すべき事。我等の与り知らぬところだ」

「はい。承知致しました」


 高慢、高圧的な態度のシスティアだが、黒仮面には絶対服従のようだ。


「分からない……! どうして私達にその事を教えるの――!?」

「ええ。レオーネの言う通りですわ、何が狙いです……!?」

「他意はない。情報提供だ。そちらにも必要だろう? 天恵武姫(ハイラル・メナス)の引き渡しは四日後。天上領(ハイランド)側の船がやって来て、そこで歓待と最終的な調印を済ませた翌日に行われるようだ。我々は調印が終わる前に、天上領(ハイランド)の船を襲って調印の使者を討つ――我等の敵は、地上を食い物にしようとする天上人(ハイランダー)のみ」

「「……!」」


 血鉄鎖旅団による、天上人(ハイランダー)の襲撃計画だ。

 それを事前に教えて来るとは――!


「君達にも、いろいろと思惑や計画はあるのだろう? 何かの動きを起こすならば、我々の動きに乗じて動く事だ。せいぜい利用するのだな」

「信用できると思うの!? 敵の言う事なんて!」

「そうですわ!」

「信用するもしないも、君達の自由だ。この事をアカデミーの責任者に伝えるか否かも含めてな。願わくばこの事を伝えて頂き、我等の計画の邪魔をせぬようにして頂きたい」

「「…………」」


 二人とも、何をどうするとも言えなかった。


「伝えるべきことは伝えた、では失礼をする」


 と、黒仮面は踵を返し、システィアはすぐさまその後ろに続く。

 レオンだけが、少し残ってレオーネ達に声をかける。


「分かってると思うが……ここで俺達を行かせんように戦って、もし倒せたとしてもアールメンとシアロトの譲渡を止める奴がいなくなるだけだぜ? だから……今は止めとこうぜ、また今度な――」

「……お兄様! でも私は――どんな理由があったとしても……っ!」

「ああ。レオーネ、お前にはお前の考えと、やるべきことがある……迷う事はねえ、それを貫けばいい。誰も止められやしねえさ。ただ一つだけ――成長したな、俺は何にもしてやれてねえが……嬉しかったぜ。そのまま頑張りな」


 レオンは少しだけ笑みを見せて、そして黒仮面の後に続いて行った。


「お兄様――」


 その愛想のいい笑顔は、小さな頃にいつも自分に向けていてくれたものと同じで――

 レオーネはそれを見て、思わず懐かしさを覚えていた。


 だがそれは、今の自分にとってはいけない事だ。

 いざという時、覚悟が鈍りかねない。


「……っ!」


 必死に頭を振って、感傷を振り払った。


「レオーネ、どうしますか? この事は――?」

「……校長先生には、伝えた方がいいと思う。帰って伝えましょう」

「ええ――アールメンもシアロトも、何とか無事に済ませませんと……!」


 レオーネとリーゼロッテはアカデミーに帰り、今夜の事をミリエラ校長に伝えた。


 その場にはイングリスも居合わせて、血鉄鎖旅団の計画について話を聞くと――


「へぇ……じゃあわたし達は、血鉄鎖旅団を捕まえつつ、獣人種の魔石獣を全部倒せばいいよね? ふふふ……単に魔石獣だけ相手にするより、きっとその方が盛り上がるね」


 嬉しそうに、目を輝かせるのだった。

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