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第113話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令21

「どういう事だ? 何が言いたいのだ?」


 と、レダスは一介の従騎士科の学生であるイングリスの話を聞こうとする度量は持っているようだ。

 お言葉に甘えてイングリスは先を続ける。


「リップルさんに騎士アカデミーに滞在頂くのは、セオドア特使の意志でもあります。つまり天上領(ハイランド)側の意志です。それを曲げるような事を行う――という事は、あなたの仰る天上領(ハイランド)とは特使とは別の……つまり教主連側の勢力のはずです」


 教主連、正式には教主連合――

 それに対立する大公派。正式には三大公派。

 天上人(ハイランダー)の二大勢力であり、セオドア特使は大公派の人物のようだ。


 この国は従来教主連、大公派の特使を交代で受け入れ、お互いのバランスを取りながら天上領(ハイランド)と付き合って来たようだ。

 ゆえにエリスとリップルは、それぞれエリスは大公派、リップルは教主連から下賜された天恵武姫(ハイラル・メナス)である。


「うむ――如何にも」

「今回のリップルさんの身に起こっている異変は、教主連側からの制裁でしょう? という事はお怒りかと思います。従来のバランスから、大公派に傾倒しようとする事を許さないという事です」

「……我々はそんな認識はしていない。あくまでリップル殿単体の異変だろう」

「ああ。セオドア特使の見解とは違いますね」

「セオドア様は大公派だ。対立相手ともなれば、邪推も混ざられるだろう」

「先方から、天恵武姫(ハイラル・メナス)交代の確約は得られているのですか?」

「いや――現在交渉中だと聞いている」

「では、交渉が長期化する事も念頭に置き、しっかり準備を整えてからリップルさんをお連れになった方が良いかと思いますが? 今の所アカデミーに滞在頂いて、生徒にも周囲の街にも、特に大きな問題は起きていません。それが近衛騎士団に移られるなり大きな被害が出れば、近衛騎士団はアカデミーの生徒以下だとの誹りは免れません」

「問題が無いというのは、主観に過ぎんぞ。問題はある。シルヴァ程の子が負傷しているではないか」


 やはり親馬鹿ならぬ兄馬鹿らしいレダスには、納得は行かないようだ。

 この反応は予想内。イングリスはそれを逆手に取る。


「ええ。シルヴァ先輩でもし得る程の脅威です。ですから、準備が怠れません」

「む……何の準備だ?」

「セオドア特使が、用意して下さった新型の魔印武具(アーティファクト)です。こちらで被害が少ないのは、それがあったからです」


 実際そうとも言い切れないが、それはそれである。

 今はそれだけの価値があるように思って貰い、引継ぎ期間という名の猶予を生み出すことが必要だ。


 今はこの場でリップルを連行され、手出しが出来なくなる事を避けるべきだ。

 そして生み出した猶予の間に、次の手を考えるわけだ。


 いや正確には、イングリスの頭の中に打ちたい手は既にあった。

 それを皆がどう思うかは――後で聞いてみよう。


「ふむ。セオドア様がな――」

「その受け渡しや適性人員の選定、使用訓練などの準備を整えてからの方が、安全かと」

「ううむ……」


 レダスは大分傾いているようだ。

 彼としても、任務を安全に果たせる方が望ましいのだ。

 それに数日程度の短期間ならば、その裁量で引継ぎ期間を設けるのは許容範囲だろう。


「引継ぎ担当は、シルヴァ先輩にお願いすればよいかと。護衛の方は外れて頂いて」


 最後にイングリスは決定打を放った。


「うむ、それはいい。そうしよう」


 護衛から引き継ぎ担当に移れば、シルヴァの身は即座に安全になる。

 レダスの性格からして、願ったり叶ったりだろう。


「わたしには決定権はありませんので――校長先生、それでよろしいでしょうか?」


 と、イングリスがミリエラ校長に顔を向けると――

 目の前に、にゅっとラフィニアの顔が割り込んで来た。


 ぶにっ!


 と、両方のほっぺたを引っ張られた。


「よくなああぁぁぁいっ! 何考えてるのよ、リップルさんを見捨てる気!? そんなのダメよ絶対ダメ! いくらクリスでもこれは譲らないから、あたし!」

「みゃ、みゃーみゃー。ふぁりゅいひょうにゃあしにゃいはひゃ(ま、まあまあ。悪いようにはしないから)」


 ほっぺたを引っ張られていると、上手く喋れない。


「え……? どういう事?」

「わりゃりゃにゃにゃんにゃれていりゅのひゃ、いりゅもいっひょにゃころりゃよ?(わたしが考えてるのは、いつも一緒の事だよ)」

「……強い敵と戦いたい、美味しいもの食べたい、可愛い服着たい?」

「ありょ、じゅっりょりゃにのみひゃられいりゅ(あと、ずっとラニの味方でいる)」

「……信じていいのね? 信じるわよ? いいのね?」

「うみゅ!」


 イングリスが頷くと、ラフィニアはようやく引っ張るのを止めてくれた。


「か、会話、成り立っていますのね……何を仰っているのか分かりませんでしたわ」

「何故かあの状態でも通じるのよね、あの子達――特殊能力よね」


 リーゼロッテとレオーネが囁き合っている。


「わ、分りました――イングリスさんとレダスさんの方針で行きましょう……」


 ミリエラ校長は先程まで怒り心頭だった様子だが、今は頷いてくれた。

 イングリスの意図に、気が付いてくれているからだろう。


「リップル殿も、そのおつもりで。よろしいですかな?」

「うん……ボクはいいよ。皆に従う――」


 リップルはレダスの問いに、小さく頷いていた。

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