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第112話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令20

 イングリス達が校長室へと近づくと、ミリエラ校長の大きな声が聞こえて来た。


「ちょ、ちょっと待って下さい! そんなの横暴です……っ! 今の所、大きな被害は出ていないじゃないですかあ! 作戦に問題はありませんっ!」


 ばんばんっ! と机を叩く音も聞こえて来る。

 余程興奮しているようだが――?


「あれえ……? 珍しいなあ、ミリエラが怒ってるよ?」


 意識を取り戻したリップルは、それを聞いてきょとんとしていた。


「そうですか? わたしは割と怒られるんですが――」

「ま、まあイングリスちゃんはねえ……色々目立つからね。まあ、行ってみよ」


 こちらも校長室に用事があるので、行かざるを得ない。

 部屋の扉をノックすると、怒りを押し殺したような声で、どうぞと返答がある。


「失礼します」


 中に入ると、見慣れない人物がいた。

 背の高い、灰色の長髪をした男性騎士だ。


 手に輝く魔印(ルーン)は上級印。

 恐らく立場の高い騎士なのだろう。


 年齢は二十代後半から三十代前半あたりだろうか。

 騎士装束はラファエル達のものとは少々違い、これは所属の違いを現している。

 確か――王直属の近衛騎士団のものか。アカデミーの学科の授業で習った。


 ラファエル達の騎士団は、正式には聖騎士団である。

 どちらも王国の主力級の規模と戦力を持ち、二大騎士団と呼ばれている。


 既に当番を交代するシルヴァ達三回生もその場におり、近衛騎士とミリエラ校長の話を聞いていたようだ。

 皆、明るい表情はしておらず、驚きや悔しさ、気まずさといった感情が見て取れた。

 そんな中で、シルヴァも多分に戸惑っている様子だった。


「に、兄さん……! 考え直してくれないか!? 校長先生の言う通り、僕達は上手くやれている! そんな必要は無いはずだ!」

「だがシルヴァ。お前は、大怪我を負ったじゃないか? 兄さんは心配で心配で心配で……! 話を聞いた時は、心臓が飛び出るかと思ったんだからな……!?」

「そ、それは僕がヘマをしただけで……! 他にも優秀な生徒がいて、それも補ってくれた! だから大丈夫だ!」


 と、シルヴァと近衛騎士は意見をし合う。


「兄さん……?」

「近衛騎士団長のレダス・エイレン様。シルヴァ様のお兄様ですわ」


 とリーゼロッテが教えてくれる。

 確かに髪型は違うが髪色は似通っているし、目元も似ているかも知れない。


 レダスは校長室に新たに入って来たこちらに――

 正確にはリップルに視線を向けると、爽やかな笑みを見せた。


「やあリップル殿、ごきげんよう」

「あ、うん……ごきげんよう?」

「ちょうど今、ミリエラ殿と話していた所だったのだが――実は今日は、お伝えする事がございましてな」

「うん、何?」

「王命により、騎士アカデミーより退去を願います」

「えっ……!? でもその後は――?」

「一時的に、近衛騎士団の保護下に入って頂く事になろうかと」

「一時的に……?」

「ええ。ご無礼を承知ではっきりと申し上げますと、天上領(ハイランド)にお帰り頂く事になろうかと――そして我が王は、新たな天恵武姫(ハイラル・メナス)をお迎え致すおつもりです」

「……!」


 リップルは息を呑み、目を見開く。


「なるほど……」


 そういう事もある――か。それも一つの解決策であることは否めない。

 実際リップル自身、それに似たような事も申し出ていた。

 しかし、ウェイン王子やセオドア特使は採らなかった手段だが――?


 特にセオドア特使は天上領(ハイランド)側の窓口だ。

 つまりセオドア特使の意思は天上領(ハイランド)側の意思と見なされて然るべき。


 それと真逆の動きをしようとするからには――どうやら、単にリップルだけの問題ではなく、多分に政治的な問題がありそうだ。


 が、それはともかくラフィニアは顔を真っ赤にして怒り出した。


「なっ……!? どうしてそんなひどい事が出来るんですか!? あたし達はずっとリップルさんに助けて貰って、生きてこられたんですよ!? それをちょっと不都合があるからって簡単に捨てて、代わりを貰おうだなんて……! リップルさんは物じゃありません! リップルさんが大変な今こそ、今まで助けて貰ったお礼をする時じゃないんですか!?」


 その意見は若い。純粋で、青臭くて――だから可愛い。

 ラフィニアなら当然こう言うのは、イングリスには分かっていた。

 むしろ言わなければ、何か重大な病気を疑ってしまう。


「うん……そう……!」

「ですわね……!」


 レオーネとリーゼロッテは、ラフィニアの言葉に小さく、だが強く頷いていた。


「――ラファエル殿の妹か。私に正義を説かれても困るぞ。これは王命なのだ」

「だったら王様の前にあたしを連れて行って下さい! 直接言ってやるから!」


 どうやら本気で王様の所に怒鳴り込みそうな勢いだ。

 相手を怒らせないうちに、止めた方がいいだろうか?

 イングリスはその心構えをしておく。


 しかし、援護は意外な所から。

 シルヴァはラフィニアの肩にぽんと手を置くと、庇うように一歩進み出る。


「彼女の言う通りだ、兄さん! それが王命だというなら、決して褒められたものじゃない! 近衛騎士団長の立場なら、王をお諫めしてくれ……っ!」


 意見が一致したラフィニアとシルヴァは、顔を見合わせ、うんと頷き合う。

 それはだけならまあ、許容範囲だが――


 ラフィニアの肩に手を置くのは、止めて貰えないだろうか?

 興奮して見えていないのだろうが――気になる。非常に気になる。


「いや、そのつもりはない」

「何でですか!? リップルさんがどうなってもいいんですか!?」

「そうではないが――優先度の問題だ。私は個人的にも、王のご意思に反対ではない」


 周囲へ被害を及ぼす危険性を考えれば――だろうか。

 たしかに一般の人々の事を考えれば、その方が安全策ではあるのだ。


「何故だ!? 兄さん!」

「――お前が怪我をするのが怖いからだッ……! ここにリップル殿がおられれば、また同じ事が起きる可能性があるだろう!? 私は心配なのだ……ッ!」


 カッと目を見開き、とてもとても真剣に、レダスはそう宣言した。


「「…………」」


 まるで予想外の返答に、ラフィニアもシルヴァも困ってしまったようだ。


 だがイングリスには、レダスの気持ちが少々分かる。

 イングリスにとってのラフィニアが、レダスにとってのシルヴァなのだろう。

 可愛いから仕方が無いのだ。だから、若干の親近感を覚えていた。


「――ですが、こちらがそのつもりでも、先方は受け入れて下さるのですか?」


 と、イングリスは沈黙を打ち破って進み出た。

 さりげなく、シルヴァがラフィニアの肩に置いた手を払いながら。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 何やら「娘はやらん!」的なのが目に付くようになってきたけど、前世の時に娘産まれてたら凄い親バカになっていたんだろうねw
[良い点] さり気なくwww
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