第107話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令15
「あ、セオドア様!」
ラフィニアが顔を輝かせる。
「リップル殿を中途半端な状態で置いて行くのは非常に申し訳ないのですが、イングリスさんの言う通り、これは僕が行かねば始まりません。僕が戻るまで、どうかリップル殿とセイリーンを守って下さい。よろしくお願いします」
「はい、セオドア様!」
「全力を尽くします!」
「お任せください!」
ラフィニア、レオーネ、リーゼロッテが力強く頷く。
「武力衝突が起こらず、平和裏に事態が収束する事を祈っています」
イングリスがそう言うと、ラフィニアやレオーネ達ががえっという顔をした。
「? どうしたの、ラニ?」
「く、クリスがそんな事言うなんて……!? な、何か悪いものでも食べた?」
「わたしは普通だよ? だって、わたしがいない所で戦いが起こったら勿体ないでしょ?」
どうせなら自分が現場にいる時に、武力行使を願いたいものである。
自分がいない時に両国の戦力が削られるのは、損失である。戦う相手が減るからだ。
「ははは……そう言う事ね」
「納得したわ、いつものイングリスね」
セオドア特使が、苦笑しながらごほんと咳払いをする。
「と、ともかく……後は頼みます。それから、ラフィニアさん」
「はい?」
「お話があります。こちらへ来て頂けますか」
と、セオドア特使はラフィニアを格納庫から船内部分に招こうとする。
「はい、分かりました」
ラフィニアは全く無警戒に、無邪気な笑顔で応じる。
反対に、イングリスの危機感は半端ではない。
「……では、わたしも。わたしはラニの従騎士ですので、一緒にいさせてもらいます」
ラフィニアにとっての悪い虫は、徹底的に排除あるのみ。
悪い虫にになりかねない相手からも、徹底的にガードする。
「ええ。構いませんよ。レオーネさん、リーゼロッテさんもどうぞ」
しかしセオドアは気にした様子も無くそう応じる。
なかなか尻尾を出さないのか、ラフィニアにそこまでの興味があるわけではないのか、どちらなのだろう?
彼の妹のセイリーンと同じで、ラフィニアの素直で正義感の強い性格には、感銘を受けていたようだったが。
いずれにせよ油断はできない。ラフィニアに恋人などまだ絶対に早い。嫌だ。
「では、我々は作業を続けます。ラニ、クリス、みんな、僕達の留守を頼むよ」
「リップルの事、くれぐれもお願いね」
全員がはい、と頷いて、ラファエルとエリスに別れを告げる。
そしてイングリス達四人は、セオドア特使について船内へと入った。
彼が使っている部屋に案内されると、そこには見慣れない研究器具が満載されていた。
物は多いがきちんと整理されているあたり、主の性格を感じさせる。
その中からセオドアは、一つの魔印武具を取り上げた。
そしてそれを、ラフィニアに手渡す。
「せめて何か助けになるものをと思い、これを用意しました。どうか受け取って下さい」
弓の形をした魔印武具だ。
白を基調に翼のような装飾を施された外観は、ラフィニアが普段愛用している光の雨をに酷似している。
「これは、あたしの光の雨と同じ……?」
「ええ、ベースは同一です。そして、これも二つの奇蹟を持つ改良型です」
「わぁ! ありがとうございます! もう一つの奇蹟の効果は、レオーネのものと同じですか?」
「いいえ、違います。この魔印武具のもう一つの力は、人の傷を癒し回復させる効果ですよ」
「わ……! 凄い! そんな効果の魔印武具は初めてです!」
ラフィニアの言う通り、イングリスも初耳の効果だった。
元々前世のイングリス王の時代も、回復の魔術はかなり希少だった。
「ええ。かなり希少で、そう数を作れるものではありません――ですから、あなたに託したい。この奇蹟は、あなたの清らかな心には相応しいと僕は思います」
「ははは……そんな買い被りですよ、あたしなんて……」
「謙遜なさる事はありません。あなたのような人は天上人には中々いませんから、眩しく映るんです。きっとセイリーンもそうだったに違いありません」
「……かな? リンちゃん?」
と、ラフィニアが尋ねるものの、リンちゃんはラフィニアの頭の上にぽてんと寝転がって、素知らぬ顔を決め込んでいる。
「リップルさんを守って頂く間、もし誰かが傷ついてしまったら、その魔印武具の力で癒してあげて下さい」
「分かりました! 色々して下さってありがとうございます」
ラフィニアはぺこりと丁寧に頭を下げる。
「ええ、よろしくお願いします。本来ならば使われなければ一番でしょうが、備えは必要かと思います。ミリエラに伝える時間がありませんでしたので、この事は彼女に伝えておいて下さい」
「はい! うまく扱えるように、帰ったら早速訓練しますね!」
そうラフィニアは意気込むが――アカデミーに戻った途端、新しい奇蹟の力をぶっつけ本番で使う事になる。
リップルの護衛についていた特級印の三回生シルヴァが、魔石獣の襲撃によりかなりの負傷をしていたのだ。
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