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2話

 ──素晴らしい。これほど素晴らしく、かつ有用なものを私は寡聞として知らない。

 我々の中にも変わり者はいるにはいるが、それも一つの個性として受け止められていた。というのも、我々は肉体を持たないが故に、精神的に繋がっている、という特性を持っている。


 今こうして、人間の中に入っている私が大気圏外にて待機している我々に接触できるのもそれが理由だ。人間の体に入ってからは、その繋がりは微弱なものとなっているが。


 そのことに、多少不便を感じていたが、運の良いことに思わぬ物が転がり込んできた。──目の前に横たわっている彼女。この女には素晴らしい才能が秘められていた。人と人との精神を繋ぐ──いわゆる、精神感応者の素質だ。


 本来、人間にはそういった機能は無用な物である。人は言葉を話し、理解し、そして行動できる生物だからだ。いっそ、超能力といった類の能力は、むしろ人間という生物からしてみれば邪道な進化であると言える。

 しかし、それは人間にとってであって、我々にしてみれば垂涎ものの能力と言っていい。


 例えば、この力を拡大していって地球上のすべての人類を繋げてしまえばどうなるか?

 そこに、我々が介入すればどうなるか?


 まさしく、天啓とも言いたくなるタイミングだった。笑いが止まらない。

 これさえあれば、我々は成り代わることができる。全人類を、我々にすることが可能なのだ。


「嗚呼──我、発見せり(エウレカ)、とでも言ったのだったのかね、人間は」


 こうしてはいられない。これからの時間はすべて、この女の才能を発掘し、開発し、拡張することにのみ専念しなければないらない。楽しみだ、楽しみだ、楽しみだ。


 私は、遠くない未来を夢見て心が躍った。



 ◇ ◇ ◇


 ──全行程、終了。最終段階に移行します。


 長かった。ここまで至るまでに、一体どれほどの時間と資材を費やしただろうか。しかし、そんなものは些細なものだ。すべては、我々が次のステージに上らんが為。多少の犠牲はむしろ必要経費でもあるだろう。


 彼女の才能を開花させる為に、人間を幾人か消費(、、)した。まあ、人間など掃いて捨てる程うごめいているのだ。両手の指の数にすら入らない数など、勘定に入ろうはずもない。


 と、その時だった。ここに、人間の反応が近づいてくる。どうやって──という疑問が浮かび上がってくるが、その人間が私のいる場所まで来て理解した。


 彼女の能力を開花させる為に多くの施術を行ったが、ここに来て他にも才能を開花させる人間が生まれる結果となったようだ。精神感応により、他者の能力を励起させる──例えば、その対象が身近な人物であればあるほどその可能性は高くなるのではないか。


 だとしたら、納得する他あるまい。

 目の前の人間は、彼女と親しい間柄だったのだろう。彼の手には、光の塊のような剣が握られていた。物理的な行使権限を引き上げる能力か何かなのだろうが──


「問題ない。計算範囲内だ」


「──なに、意味の分からないことを言っているんだ、あんたは」


「君の理解できない内容だよ」


 右手を掲げる。

 そう、我々にとっては、何も意味のないことなのだから。





「────今回は、こうなったか」

 まだ少ない試行回数の中で、あそこまで王手をかけられたのは上出来だっただろう。むしろ、とんとん拍子にことが運んだので拍子抜けしたほどだ。

 やはり、人間という生物は酷く御し易い生物だ。


「では、次といこうか」

 私はそう呟いて、路地裏を抜けた。




 ◇ ◇ ◇




「ふん、意外なところで邪魔が入ったが──次は回避できる。まだまだ改善できる余地はある、か」




 ◇ ◇ ◇



 

「まさか、相打ち狙いで突っ込んでくるとはな……。自己犠牲、という奴か? ふん、まったく人間というのは度し難い……」



 ◇ ◇ ◇




「また邪魔が入ったか……。流石に、このままでは目的は達成は難しいと考えるべきか……。ならば、人間を利用するまでだ。組織的に、かつ大規模的に。物量の前では、たった一人の妨害などなんの意味もないだろう」




 ◇ ◇ ◇


「──何故、あの場面で裏切るのだ!? あと一歩、あと一歩だったというのに! あああああああああ理解不能! 低劣の極み! 度し難いクズ共め! 次こそは──」


 ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇


 「──────────」


 ◇ ◇ ◇


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 私はまだ体に残る激痛に絶叫を上げた。


「あ、あああ……! クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」


 一種の幻肢痛、のような物だろう。土壇場の場面で、私は人間に煮えたぎる鉄の湯を被せられた。その痛みが、あたかもまだこびりついているかのように体を苛まさせた。


「あのガキ……! 許さん、許さんぞ……! さんざん私の邪魔を……! くそ、くそくそくそがぁ!」


 苛立ちをぶつける相手もなく、私はよろよろと路地裏を歩く。青色吐息に街道に出ると、多くの人間が歩いていた。そこに、日常そのものがあった。そのことに、言いようのない苛立ちを感じる。


(くそっ! まだ痛みが抜けん……。このままマーカーに移動したとしても、この激痛は抜けんだろう。何処かで体を休めなくては……)


 ふらふらと、身体を庇うように歩く。私には、私を見る周囲の人の眼が私をあざけっているように感じられた。片足を失った虫けらを見るように、私を侮蔑していると、本気で妄想していた。


 その時、周囲を見る余裕も無かった私は子供にぶつかった。何処にでもいるような無害なガキだ。冷静な時の私であれば、手を伸ばして助け起こしていただろうが、その時の私には余裕もなければ我慢もできなかった。


「何処を見て歩いている、このクソガキが!」


 思わず、そんな言葉が口から飛び出る。


「──おいあんた、それはないんじゃあいか」


 男の声が、私の動きを縫いとめた。その声は──


「むしろ、よそ見をしていたのはあんただろ?」


 さんざん、今まで邪魔をしていた声によく似ていて──


「いい大人が、みっともないことしてんじゃねぇよ」


 そして、顔も姿も、私を先ほど鉄の湯を被せた男と同一だった。


「ひ、ひひひ……」


「……? おい、あんた聞いて──」


「は、ははははははははははは! そう! そうだ! そもそも、邪魔になるならば先に潰してしまえばいい! 何故こんな簡単なことに気が付かなかったというのだ! ははは! 愉快だ、実に!」


 私は体を震わせて大笑した。何故こんなにも簡単なことに気が付かなかったのだろう? しかし、正解に気が付けたのならばそれで問題はない。そう、問題はないのだ。


 私は、何度でもやり直せるのだから──。




 ◇ ◇ ◇




 気が付けば、私は路地裏に倒れ伏していた。節々が痛む体を、庇うように起き上がる。一体なにが起こったのか──? まったく思い出せない。前回の記憶がまったく残っていない。


「なぜだ……? なぜだなぜだなぜだなぜだ? なぜなぜなぜなぜなぜなぜ……」


 ふらふらと、誘蛾灯に誘われる虫のように私は街道を目指す。無意識の行動だった。


「うっ……」


 痛みに顔をしかめ、その場で片膝をつく。この痛みは一体何なのだろうか。まるで、高温の液体を被せられたかのよな痛みが体を貫く。


「──大丈夫ですか? 何かあったんですか?」


「あ、ああ。すまない少し体調がすぐれないだけで──」


 心配そうな声をかけられ、私を伏せていた顔を上げる。




 そこには、身に覚えのある男性の顔が私を見つめていた。




「あ…………」


 その瞬間、ある光景がフラッシュバックする。


 私の体を、剣のようなもので貫く姿が。


 あるいは、私を正面から怒りの顔で殴りつける姿が。


 あるいは、私と共に高温の鉄を浴びた時の姿が。


 あるいは、あるいは、あるいは……。


 無数の光景がフラッシュバックする。


「ひっ…………!」


 喉の奥が、引くつくのを感じた。


「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 気が付けば、私は走っていた。がむしゃらに、ひたすら遠くへ。あの顔を見なくて済む場所へ。


「聞いてない! あんな奴がいるなんて聞いていない! なぜあんな個体が存在する!? 何度も、何度も何度もそうだ! 必ずあいつがいた! あいつが、あいつがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 周囲を顧みる暇もない。私はそのまま歩道に飛び出し──


「あっ……」


 急ブレーキでタイヤから出る音を微かに聞きながら、私の意識はまたしても飛んだ。









 私は路地裏で目を覚ました。大の字のまま倒れていたらしい。酷く体が痛む。ゆっくりと、ゆっくりと体を動かす。でないと、更に体が痛むからだ。


 その時。頭上から声が聞こえた。


「大丈夫ですか? 立てそうですか?」


 それは、聞いたことのある声だった。

この後、悪役の彼は警察に保護を頼んで一切のテレパシーの類を完全シャットアウトする監獄に自ら入り、時々不可思議な事件の手伝いをしているそうです。

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