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青薔薇の花言葉

作者: 御白 紫苑

初めまして、御白紫苑と申します。

自分の性格に合う小説投稿サイトを探し、ここに行き着きました。

あまり数は投稿できませんが、ふと足を止めてくださった方がお楽しみいただけたら幸いです。

「好きです。付き合ってください」

 その言葉と共に自分に差し出されたのは、布で形作られた美しい青薔薇だった。

 相当に手の込んでいるだろうそれは形だけ見ればどう見ても本物の薔薇にしか見えなくて、だからこそ布の持つ繊維の模様がはっきりと異物感として目に飛び込んできてしまう。本物のように見えるからこそ、偽物であるとはっきり分かることがどこかちぐはぐに感じた。

 そんな造花の青薔薇を持って告白に踏み切った目の前の彼女は、自分のクラスメートだ。クラスメートと言っても接点は全くと言っていいほど無く、正直机で本を読んでいる以外の彼女の姿を見たことが無い。彼女について知っていることといえば、「休みがちで、学校に来るときは自分の机で本を読んでいる、控えめで目立たない子」ということくらいだ。だから、そんな彼女が放課後に自分を呼び出して告白、などという勇気ある行動に踏み切ったのは、完全に僕には予想できないことだった。

 その動揺からか、無意識に僕はぽつりと関係の無い一言を呟いた。


 青い薔薇の花言葉って、「神の奇跡」だっけ。


 僕が無意識に放ったその呟きに、彼女はひどく曖昧な笑みで答えた。その笑みに引っかかりを覚えながらも、僕は自分の呟きに自分で納得していた。ああ、確かに、「神の奇跡」でも起こらない限り、僕は君とは付き合えないだろうなあ。


 ごめんね、付き合っている人がいるんだ。だから君の気持ちには応えられないし、それも受け取れない。


「知ってます」、という返事だった。これだけ精巧な花をおそらく手作りしたのであろう、その労力の割に、僕の返事を聞いた彼女は通り一遍のがっかりした顔しかしなかった。もっと食い下がられるかと思っていた僕が拍子抜けするくらいに、彼女はあっさりと僕の答えを受け入れていた。彼女の反応をいぶかしむ僕に、彼女はこう語りかけた。


「一つだけ、お願いがあります」


 何?


「この薔薇を受け取ってから、私に返して欲しいんです」


 ……どうしてそんな意味の無いことを?


「……そうですね、あなたにとっては意味はありません。でも、私にはとても意味のあることなんです。お願いします、一生のお願いです」


 薔薇をもらって返す、一見意味の無いその行為に、彼女はやけに真剣だった。その行為にどんな意味があるのかさっぱり分からなかったけれど、彼女の気迫に圧された僕は、彼女から薔薇を受け取り、それを彼女に返した。青薔薇を受け取った彼女は、ぎゅっと強く、でもつぶれないようにそっと青薔薇を握り締めた後、


「ありがとうございます」


と一言言ってお辞儀をすると、くるりと僕に背を向けて駆け出した。走り去る彼女の後姿をぼんやりと見遣りながら、僕は先ほどの行為の意味について考えをめぐらせていた。


 家に帰ってパソコンを起動し、僕は「青い薔薇」の花言葉について調べた。時折するネットサーフィンで、「プレゼントするなら〈神の奇跡〉を花言葉に持つ青い薔薇!」という広告を見たきりの僕は、青い薔薇がその花言葉を持つに至った経緯や「不可能」という別の花言葉を持つということを、この時初めて知った。

 シャットダウンしながら、椅子の背もたれに深くもたれて僕は考える。


 青い薔薇には、「不可能」と「神の奇跡」という二つの花言葉があるけれど。

 彼女の持つ青い薔薇は、一体どちらの花言葉を象徴していたのだろう。

 神によって作られたのではない、人の手によって布から作られたあの薔薇は、一体どちらの意味を持っていたのだろう。


 今となっては、彼女の真意を確かめる術はない。この出来事を象徴するあの造花の青薔薇も、実物がない以上現実以上に美化されて、あるいは忘れられてしまっていずれは私の意識からも存在しなくなるだろう。


 一つだけ確かなのは、彼女が告白をした次の日に、病院で息を引き取ったという事実だけだ。


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