2、ただのロリではございません
遅れました、続きです。
こまめに投稿することの楽しさよ←
一つ目は「湯源」という名の老舗旅館に入ることにした。
日本家屋風の建物の入り口に大きな木の看板が立てかけられており、「湯源」と達筆で書かれているところを見ると、中々趣深さを感じる。しかし建物の中に入ると、そこは近代的な作りとなっており、床には絨毯が敷き詰められ、ロビーには幾つものソファーと大型テレビがおかれており、宿泊客と思われる浴衣姿の人がぼーっと画面を見つめていた。
玄関先にある木彫りのよくわからない彫刻に目を奪われつつ受付に行く。
「すいません、これ、ここでも使えますよね?」
「はい、湯手形のお客様ですね。少々お待ち下さい」
着物を着た年配の方が受付の奥に消えていく。早く湯に浸かりたくて若干ウズウズしていたが、二分位で帰ってきた。
「すいません、一応ご利用はできるのですが、清掃をしているため従業員が中にいる場合がございます。それでもよろしければ……」
なるほど、従業員が中でウロウロしていたら気が散る可能性を考慮してというわけか。確かにゆっくり浸かりたいのに目の前でモップなりブラシなりをもった着衣人間が行ったり来たりをしていたら気分を害するかもしれない。だが、僕にとってはどうでもいいことだ。どうせ浸かったら目を閉じるし、床等をこする音だって気にするほどのことでもないと思う。
「ええ、構いませんよ」
「ありがとうございます。温泉はこの先の道を突き当たりまですすんでもらい、右に曲がってすぐのエレベーターを地下一階まで降りていただくとございます。ごゆっくりとご利用ください」
受付の人は軽くお辞儀をして僕を送り出す。僕も会釈をして、若干早足気味に温泉へと向かうのであった。
脱衣所に入ったが、使われている籠やロッカーはざっと見る限りなかった。どうやら僕一人らしい。
服を脱ぎ、籠にまとめて貴重品を鍵付きロッカーに入れると手ぬぐい片手に大浴場へと躍り出た。
二重になっている扉を開け放つ(もちろん蒸気が逃げないように後ろ手で閉めながら)と、人口の畳がタイル代わりに床を覆い、磨かれた石が縁取りオレンジ色のライトを優しく反射する大浴槽が目に飛び込んできた。
全身を洗い、湯船の淵にしゃがんでかけ湯をする。少し熱くて肌がヒリヒリしたが、いざ浸かってみるとその熱さも安堵のため息とともにどこかへ吹き飛んでいった。
清掃員がいるという話ではあったが、掃除を終えてしまったのか姿が見えない。フロントの話を聞いて帰ってしまった観光客のお陰で掃除が早く終わった……という感じだろうか? それにしても早すぎやしないかと首をかしげていると、露天風呂の方から青っぽい服を着た青年が清掃用具一式を持って姿を見せた。どこかそわそわしたような様子だったが、僕の姿を見つけるなり頭をさげてそそくさと出ていってしまった。
「新人の子かな? 一人でここを任されてたみたいだし大変だな……」
少し冷たくなった手ぬぐいで顔を拭う。
「しかし掃除したての露天風呂か。一番風呂、というわけにもいかないだろうけど、っと」
湯から上がり、露天風呂がある扉へ向かう。元々一番最初にここに来たのは、ここの露天風呂の景色が良かったというネットのレビューを見てきたからでもあるし、加えて誰も入っていない新鮮な(?)湯に浸かることができるなら、という考えからだ。
取っ手に手をかけると、何やら向こう側から笑い声が聞こえる。女の子の声のようだ。
さてはさっきの青年、女の子が入っているとは思わなくてそわそわしてたのか、なんてほくそ笑みながら扉を開けた。
冷たい風が容赦なく僕の身体を冷やす。このままでは凍えてしまう、と急ぎ足で湯船の方に向かうと。縁の岩の上に中学生くらいの女の子が全裸で座り、クツクツと笑っているのが見えた。
親御さんはどこなのだろう、と一瞬思ったが、寒さには敵わない。気にせず軽く会釈をして湯に浸かる。風のせいか少しぬるかったが、それでも身体の芯まで温かさが染み込んでくるような感覚があった。
「くっくっく……あの小僧、目を点にしておったわい。勝手にバケツが倒れたり雑巾があらぬ方向に飛んでいくさまをただ呆然と見つめておっただけとはのう」
……喋り方がすごく古風だ、なんて思いながらチラリと女の子の方を見やる。長い黒髪に切りそろえられた前髪、顔立ちも体つきもまだまだ幼いままだが、将来はありとあらゆる男を虜にするであろうという優美さと妖艶さが感じ取れた。が、自分はロリコンなどではない。いやらしい目つきをされたと勘違いされても困るので、そっと視線を風景に戻す。
「おっと、また客がはいってきおったか。いたずらばかりすると客が気味悪がって近づかんのじゃが……今日は気分が良い、こやつにも悪戯するとしよう」
そのようなセリフが聞こえたと思ったら、おもむろに横顔にお湯を浴びせられる。湯元から取ってきたのか、少し熱めだ。僕は思わず飛び上がった。
「あっつ! ちょっと、何するんだ!」
「にひひひ、驚いてお……る……?」
幼女はそう言って僕の方をまじまじと見つめる。僕も恐れながらまじまじと見つめ返す。いくらなんでもイタズラが過ぎるしマナーとしてもなってない。ここはひとつ、大人としてガツンと言ってやらねばこの子のためにもなるまい。
「温泉では多くの人が利用しているんだから、周りに迷惑をかけちゃダメだよ」
「……おぬし、ワシが見えておるのか?」
「?? 何を言っているんだ、君はそこにいるじゃないか。それよりも親御さんはどうしたんだい? 一緒じゃないのか?」
「ほほう、久しくこういうやつには出会ったわい。霊感が強いやつもいたものよのお」
「さっきから何をブツブツ言っているの? 大丈夫か?」
この子、この年にして既に中二病に罹患しているというのか……末恐ろしい。そしてみんなが中二病になる頃に一人だけ目を抑えているんだろうな……。
そんなことを思いつつ、これはいよいよ説教するしかないと思った矢先、露天風呂に大学生と思われる三人組が入ってきた。
「おおー、景色いいなあ」
「しかも今は四人だけだぜ? もうほぼ貸切じゃん!」
「それより早く入ろうぜ……流石にこの時期じゃ凍えてくる」
三人組の言葉で、僕は違和感を覚える。
大学生三人組は幼女のことを一瞥たりともしないのだ、そう、まるで姿が見えないかのように。
もしかして、この女の子は――
「そう、ワシは『人ならざる存在』じゃよ」
思考を先読みしたかのごとく、耳元で囁かれる。驚きのあまり声を出すことも身動ぎもせず、ただゆっくりと視線を声のした方向へ向ける。
幼女がすぐ間近で、怪しく笑っていた。熱を帯びた吐息が、首元あたりにかかる。
この瞬間、僕は得体の知れないロリっ子に「憑かれた」のだった。
やはりもう少し長くまとめてから投稿したほうがいいのかな……なんて思いました。次からは長くしようと思います。