2章 入学 。
書き出しの工夫、難しいです。。笑
雲が見当たらないほどに真っ青な、よく晴れたある日。
アストラの首都アルナの、ほぼ中心に位置する軍基地、そしてその真横に隣接しているのが、この国の士官学校である。
この日、この士官学校に入学をしてくる学生の入学式が行われた。式が無事終了し、新入生はそれぞれの家族や友人とともに式の会場となった講堂を後にしていた。
そんな人々の群れを横目に、人知れず静かに一人で講堂の隅で立っているのは、本日付けでこの士官学校に入学したヨハン・エドガーだった。
そんな彼に歩み寄りながら、やあ、と手を挙げにこやかに話しかけてくる一人の中年の男がいた。
「ヨハン。入学おめでとう。これからは一人の軍人としての道を歩むことになるな。自分の息子のことのように喜ばしいよ」
そう話しかけてきたのは、この国の軍人であるエマニエル少佐だ。
「ありがとうございます。俺がここまでこれたのは紛れもない、少佐のお陰です。そう思ってもらえるだけで光栄です」
ヨハンは目礼をしつつ少佐に挨拶を返す。
「しかし、あれからもう二年になるのか…。長いようで短かったな」
「はい。本当にこの二年間は、お世話になりました」
今度は頭を下げて礼をするヨハン。
「おいおい。そう改まらなくても宜しい。それに、これからはお互い軍の人間として関わることになるのだからな。これからもよろしくというところだよ」
「そうですね」
ふと、少佐はなにか用事を思い出した素振りを見せ、こう言った。
「ではここら辺で。また今度私の家でヨハンの入学祝いでもしよう。娘もきっと喜ぶと思うよ」
「わかりました。奥様と娘さんにもよろしくとお伝えください」
そうやって会話を終え、少佐は講堂の外へと歩き出した。
彼の後姿を見送った後、ヨハンもまた、講堂を出た。
「ーーあれから二年、か」
外に出て、晴天の空を見上げながらヨハンは呟く。
ーー二年前。隣国「レイリア」の諜報員が軍基地の牢獄から脱走し、その諜報員によってヨハンの母親は殺され、そしてヨハンもまた傷を負ったという事件。
その事件の際、逃亡した諜報員を拘束するための部隊の指揮を執っていたのが、エマニエル少佐である。あの事件は、敵国のスパイを国外に取り逃がしてしまった上に、民間人一名が死亡、もう一名が重症を負う、という最悪の形で幕を閉じた。
その後、指揮官だったエマニエル少佐の計らいで、ヨハンは彼の家に居候をさせてもらっていたのだった。
この事件の結果は、指揮官である少佐の指揮力不足が原因だ、と言う者も少なくはないが、ヨハンはそうは思っていなかった。むしろ、軍本部の監督不行き届きによるものだと考えており少佐を恨むような真似はしなかった。
またヨハンは、二年前から既に士官学校へ入ること、そして軍人になり、母親を殺した敵国のスパイと、そのスパイの故国であるレイリアへの復讐することを誓っていたのだった。
ふと、そんな回想をしていたヨハンの肩を突く者がいた。
「やあ、ヨハン。君は相変わらずぼーっとしてるね」
「あぁ。カルロじゃないか。こんなところでどうしたんだよ」
陽気な趣きでヨハンに話しかけてきた青年の名前は、カルロ・アルキス。
この春までヨハンが籍を置いていた高等学校の同窓生で、ヨハンと同じくこの士官学校に入学した、ヨハンの数少ない友人の内の一人だ。
「ん。家族はもうみんな帰ったよ。俺は入学祝いとかそんな柄じゃないしさ。どうせならこの学校の施設を下見でもしようかと思ってさ」
「そうか。なら俺もやることは特に無いし付き合うよ」
「そう言ってくれるとありがたいよ。早速回ろうか。入寮手続きはまた後でいいしなー」
「そうだな」
そうして彼らは校内施設を見て回ったのだったーー。