ー序章ー
小説を初めて書き始めます。
初心者ではありますが、どうぞお手柔らかにお願い致します。
気ままに書いていこうと思いますのでどうぞよろしくお願いしますm(._.)m
夜の豪雨の中ーー。
煌めく街の街灯の影にうごめく一つの影があった。
「本部へ入電。目標は異常な勢いで逃走中。報告にあった通り、獣の覚醒者と思われます」
軍の指令室に緊急で設置された対策局に、捜索部隊からの通信が届く。
「やはり奴か。こちらで特殊部隊を派遣する。捜索部隊はそのまま目標を追尾、報告を継続しろ」
対策局本部の指令のエマニエル少佐が、捜索部隊に通信を返す。
「了解」という通信が返ってきたのを確認して、彼は大きく息を吐く。
そして彼は手元にある指令用ディスプレイの隅にあるボタンを押し、緊急の部隊への通信をする。
「特殊部隊に連絡。諸君らも分かっているとは思うが、目標を直ちに拘束しろ。もしもの場合は殺しても構わない。お前たちになら出来るはずだ。奴の能力は獣だ。気をつけろよ」
「了解」
特殊部隊の隊長からの通信が返ってきたのを確認し、エマニエル少佐は再び指令用ディスプレイに目をやり、通信をする。
「こちらエマニエル少佐だ。報道局に現状を報告し、市民に避難、自宅からでるなと伝えるようにしてくれーー。あぁ。今すぐにだーー。ではよろしく頼むぞ」
そしてそれと同じ頃ーー。
首都「アルナ」の郊外に位置する住宅街の一角に住む少年ヨハン・エドガーは、リビングでテレビを見ていた。
しかし、突然ニュースへと切り替わり、ニュースの女性キャスターが焦った様子で速報を伝えた。
「ただいま、軍より速報です。レイリアの諜報員と疑われていた男が、軍の刑務所から脱走しました。軍の部隊が追跡中とのことですが、今もなお逃亡中とのことで、首都アルナ近郊に住むでいる市民は、直ちに安全な場所に避難するか、自宅から出ないでください」
ヨハンはニュースを聞いて少し不安になった。だが、まさか自分の家にそんな奴がくるとは思いもせず、速報が終わり、見ていた番組に再び切り替わるのを待ったーー。
突然だった。がたん、と大きな音がして、ヨハンは目を覚ました。
どうやらテレビを見ながらソファで眠っていたらしい。
さっきの音はなんだろうか。そう思いながらヨハンはソファから立ち上がる。音がした方には、母親が寝ている寝室がある方だーーと、彼は気づく。
ふと、眠る前にテレビで報道されたニュースが脳裏をよぎる。
「まさかな」
そう言いつつ、彼は母親の寝室のドアに手をかけるーーと、その瞬間だった。
部屋の中から母親の悲鳴が聞こえた。
不安に駆られたヨハンは寝室のドアを恐る恐る開けた。
そこには、黒く大きな人影がひとつ、立っていた。
暗闇に目が慣れてきて、ヨハンはその人影がただの"人"ではない、異形を成していることに気づいた。
「それ」は、肩から顔にかけて狼のような容姿をしており、どうやら上半身は裸らしく、腕や背中が深い毛で覆われていた。
ヨハンは思わず後ずさってしまう。途端、足音を立ててしまった。
その音に反応し、人影がこちらを振り向く。
「動くな」
どうやら男らしかった。正面からみると狼男のようだった。その男はそのままベットで動けないでいたヨハンの母親の胸ぐらを掴み、持ち上げた。
「…やめろ‼︎お前、レイリアのスパイなんだろ?俺の母さんに危害を加える必要ないじゃないか‼︎」
ヨハンは咄嗟に叫ぶ。
「運が悪かったと思え。俺が逃げるためだ。そして我が国レイリアのための生贄というわけだ」
男は母親から手を離さずに言った。
「生贄なんか知らねぇ‼︎頼む。お願いだ。逃走を手伝ってもいい、だから母さんだけはやめてくれ」
「お前みたいな子供が、どうやって俺の逃走を手伝うというんだ?」
男は苦笑する。
「ウチの地下倉庫にはこの住宅街の外の地下水路に続く地下通路があるんだ。この家は古くからの家で、戦争が起きたときのために昔の住人が穴を掘ったんだ」
「ほう。丁度いい。ならそ地下通路に案内しろ」
「案内する。だけどその前に母さんを離せよ」
「いや、お前の母親は人質として途中まで連れて行く。その地下通路が本当に外に繋がっている保証はどこにもないからな。外に出る出口まで行けたらその手前で返してやる」
「…分かった。絶対母さんを返すんだぞ」
そうヨハンが告げると、男は母親を肩に担いだ。どうやらヨハンの母親はショックで気を失っているらしかった。
「さぁ。早く案内しろ。捜索部隊がもうこの家の近くまで来ているはずだ。急がないとお前の母親を殺すぞ」
「分かった。頼むから母さんに危害は加えるなよ」
ヨハンは家の地下へと続く階段に向かった。
あれから何分経っただろうか、ヨハンは男と共に地下水路まで出てきた。後はこの水路を抜けてた先にある出口へと向かうだけだ。
後ろについてくる男は、ずっと黙っていた。
一体どんな顔をしているのだろうか。そんな疑問と、母親の安全を早く確保したいという思いが交錯する。
曲がり角を曲がったところで、ようやく薄っすらとした街灯の灯りが見えた。ヨハンは後ろを振り返った。
「さぁ。あそこに行けばちょうど住宅街の外に出られる。早く母さんを返してくれ」
ヨハンがそう言うと、男は暗闇の中で不気味な笑みを浮かべた。
「フフ…。誰が返すと?俺の顔をみたコイツには死んでもらうんだよ」
ーー何を言っているんだ?コイツは。
鼓動が激しくなっていくのが感じられた。
「ちょ、ちょっと待てよ。アンタ、約束したじゃないか⁉︎」
「フハハッ‼︎俺なんかの言うことをよくもまあこんなに信用したもんだな。悪いがコイツには死んでもらう。俺の顔を見たからなーー。勿論、お前もだ」
途端、男は肩に担いでいたヨハンの母親を地面に無造作に叩き下ろした。
その衝撃で、母親は目を覚ました。
「か、母さーー」
母親がヨハンの目を見て、何かを訴えかけようとした、その時だったーー。
男が、地面にうつ伏せになって倒れているヨハンの母親の背中めがけて踏み潰した。
鈍い音がした。背骨の折れる音だろうか、それと同時にヨハンの顔や身体に、血飛沫が飛んできた。
ヨハンは目を見開いたまま、固まったーー。
母親の顔に目をやった。だが、彼女はもう既に……。
「あ…あああああああああああ‼︎‼︎」
頭に、強烈な鈍痛が走り、嗚咽とともに、眩暈ののような感覚が彼を襲う。
「フハハハハ‼︎いいねぇ‼︎家族を失ってどんな気分だ⁉︎最高だよ‼︎」
狂ったように男は笑い出す。
……許さない。コイツだけは殺す。
「このヤロォォ‼︎‼︎」
ヨハンは男に殴りかかった。が、男に拳は軽く止められてしまった。
そして、そのまま男はヨハンを蹴り飛ばし、水路へと突き落とした。
ざばん、と音を立てヨハンは水の中に沈んでいく。
ーーそうだ。奴は覚醒者だ。特殊能力をもったアイツに、普通の人間である俺が敵うわけない。
ーー俺に、"力"があれば……。母さんも、自分自身を救えたかもしれないのに。
力が……欲しい……。
意識が朦朧とする中、ヨハンは悔いた。
だがその時、変な感覚がヨハンを襲った。
ーー真っ暗な世界。真っ暗な空間。その中に、一点だけ輝く光が見えた。手を伸ばし、その光を掴むと、掴んだ掌の中からその光が広がり、視界をすべて包み込んだ。
ふと、意識が戻る。息が苦しいことに気づき、ヨハンは慌てて水面に出た。
そして、水路に立つと、同じく水路に立っていた男を見た。
「もう死んだかと思ったよ。フフ。次はちゃんと殺してやる」
男はそういうと、ヨハン目掛けて長く硬い爪を振りかざした。
ヨハンはそれを右腕で止めた。
だが、ヨハンの右腕に、男の獣の爪は深く刺さり、動脈が切られ血が溢れ出た。
「よく避けれたな。だがもう次で終わりだ」
男が再び爪を振りかざそうとした、その時。
「次で終わるのはお前だよ。バケモノ」
ヨハンはそういうと、自らの右腕を胸の位置まで持ってきた。
すると、腕からの流血がみるみるうちに彼の右手に、剣の形になって集まった。
その様子を見て、男は驚愕する。
「ま、まさかーー」
ヨハンの右手に集まり、剣状となった赤い血は、たちまち黄金の剣へと変貌した。
そして、ヨハンはその剣を男の心臓へ向け、突き刺したーー。
「ぐあぁ‼︎」
苦痛の声を上げ、男はその場に膝をついた。
ヨハンの剣は、男の心臓、ではなく、左腕と左肩を貫いていた。
男は左腕で心臓に剣が突き刺さるのを防いでいた。
男は右の手をつかってヨハンの剣をへし折った。
「ただの金なら脆いな。まだ発現したてならこんなものか。フハハ。面白い。どうやらお前はただの人間じゃないようだな」
男がそう言ったところで、ヨハンは意識がだんだん朦朧としてくるのに気がついた。そして身体に力が入らなくなり、彼はその場に崩れ落ちた。
「お前がこれからどんな風になるのか見るのが楽しみになったよ。お前はここで生かしておいてやるとする。せいぜい生き延びるんだな。ここまで連れてきてもらったことには感謝するぞ」
そう言って男は水路の出口の方へと歩いて行った。
「……まだ、まだだ。お前は…お前だけは、絶対に……」
必死に男の後を追いかけようとしたが、ぷつん、とヨハンの意識はそこで途切れたーー。